新型コロナウイルスの流行拡大をきっかけに生まれた新しい生活様式では、働き方も大きく変わりました。テレワークの普及や巣籠需要の高まりを受け、地方移住への関心も高まっています。
政府はデジタル技術を活用することで、地方が抱える課題を解決し、全ての人がデジタル化のメリットを享受できる暮らしを実現するための「デジタル田園都市国家構想」を打ち出しました。今回は令和5年度予算におけるデジタル田園都市国家構想の総合戦略や交付金について、紹介します。
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この記事の目次
デジタル田園都市国家構想総合戦略とは
デジタル田園都市国家構想総合戦略とは、デジタル技術の活用で「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を⽬指す取り組みです。
現在、多くの地方自治体は人口流出や高齢化など、さまざまな課題を抱えています。一方で、都会には人口が集中し、地方との格差は大きく開きました。地方への移住希望者にとっても、地方と都会との生活上の利便の格差はデメリットのひとつです。
そこでデジタル技術によるサービスの提供や情報の利用を可能にすることで、地方での生活を都会に匹敵するものに変えて行こうとするのがデジタル田園都市国家構想です。
移住者が増えることで地方のボトムアップを図り、社会課題の解決や地域全体の活性化を目指しています。
総合戦略の要点
デジタル田園都市国家構想は「まち・ひと・しごと創⽣総合戦略」を抜本的に改訂し、新たに2023年度から2027年度までの5か年に設定された総合戦略です。
各府省庁の施策の充実・具体化を図るとともに、KPIとロードマップが位置づけられました。これらの施策は地域それぞれが抱える社会課題等を踏まえ、その土地の個性や魅⼒を⽣かした地域ビジョン実現を支援します。
さらに同様の社会課題を抱える複数の地⽅公共団体が連携して課題解決に取り組むことができるよう、デジタル技術を活⽤した地域間連携の在り⽅も提示されました。
施策の方向
デジタル田園都市国家構想の施策は、「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」と「デジタル実装の基礎条件整備」の方向性に沿って設定されています。まずはそれぞれの概要を見ていきましょう。
デジタルの力を活用した地方の社会課題解決
地域の抱える4つの課題に寄り添い、その解決に向けて、デジタル技術を活用した取り組みを支援します。
①地⽅に仕事をつくる | ■スタートアップ・エコシステムの確⽴ ■中⼩・中堅企業DX(キャッシュレス決済、シェアリングエコノミー等) ■スマート農林⽔産業・⾷品産業 ■観光DX 等 |
②⼈の流れをつくる | ■「転職なき移住」の推進 ■オンライン関係⼈⼝の創出・拡⼤ ■地⽅⼤学・⾼校の魅⼒向上 等 |
③結婚・出産・⼦育ての希望をかなえる | ■結婚・出産・⼦育ての⽀援 ■⼦育てしやすい環境づくり 等 |
④魅⼒的な地域をつくる | ■教育DX ■医療・介護分野DX ■地域交通・インフラ・物流DX 等 |
デジタル実装の基礎条件整備
デジタル技術の有益な活用のため、実装の前提となる取り組みを国が支援します。
①デジタル基盤の整備 | ■デジタルインフラの整備 ■マイナンバーカードの普及促進・利活⽤拡⼤ 等 |
②デジタル⼈材の育成・確保 | ■デジタル⼈材育成プラットフォームの構築 ■職業訓練のデジタル分野の重点化 ■⾼等教育機関等におけるデジタル⼈材の育成 等 |
③誰⼀⼈取り残されないための取組 | ■デジタル推進委員の展開 ■デジタル共⽣社会の実現 ■利⽤者視点でのサービスデザイン体制の確⽴ 等 |
地域ビジョンの実現に向けた施策間連携・地域間連携の推進
施策間・地域間の連携を支援し、地域ビジョン実現を後押しします。
施策間連携の例 | |
関連施策の取りまとめ | 関係府省庁の施策を取りまとめ、地⽅に提⽰ |
重点⽀援 | モデルとなる地域の評価・⽀援 |
優良事例の横展開 | 優良事例の周知・共有、横展開 |
伴⾛型⽀援 | ワンストップ型相談体制の構築や、地⽅⽀分部局の活⽤ 等 |
地域間連携の例 | |
デジタルを活⽤した取組の深化 | ⾃治体間連携の枠組みにおけるデジタル活⽤の取り組みを促進 |
重点⽀援 | 国の事業採択や地域選定等の際、地域間連携を行う取組を評価・⽀援 |
優良事例の横展開 | 地域間連携の優良事例を収集・周知・共有 |
これらの連携に対する支援によって想定されている地域ビジョンには、次のような例が挙げられています。
モデル地域ビジョンの例
■スマートシティ・スーパーシティ
■SDGs未来都市 等
出典:デジタル田園都市国家構想総合戦略(案)
重要施策分野の例
■地域交通のリ・デザイン
■遠隔医療 等
出典:デジタル田園都市国家構想総合戦略(案)
デジタル田園都市国家構想の実現に向けた主要KPI
デジタル田園都市国家構想では、2024年度までに1,000団体、2027年度までに1,500団体、2030年度までに全ての地⽅公共団体がデジタル実装に取り組むことを想定しています。
「地方のデジタル実装」と「デジタル実装の基礎条件整備」、「地域ビジョン実現」に関するKPIをまとめました。
地方のデジタル実装に向けたKPI
デジタルの⼒を活⽤して地⽅の社会課題解決に向けた取り組みを加速化・深化するために位置付けられた主なKPIは、以下の通りです。
サテライトオフィス等を設置した地⽅公共団体 | 2024年度まで:1,000団体 2027年度まで:1,200団体 |
企業版ふるさと納税を活⽤したことのある地⽅公共団体 | 2027年度まで:1,500団体 |
デジタル技術も活⽤し、相談援助等を行うこども家庭センター設置市区町村 | 全国展開(1,741市区町村)を⽬指す |
1⼈1台端末を、授業でほぼ毎⽇活⽤している学校の割合 | 2025年度:100%(⼩学校18,805校、中学校9,437校) |
3D都市モデルの整備都市 | 2027年度まで:500都市 等 |
デジタル実装の基礎条件整備に関するKPI
地域のデジタル実装を下支えする取組を国が推進するために位置付けられた主なKPIは、以下の通りです。
光ファイバの世帯カバー率 | 2027年度:99.9% |
5Gの⼈⼝カバー率 | 2023年度:95% 2025年度:97% 2030年度:99% |
デジタル推進⼈材の育成 | 2022〜2026年度累計:230万⼈ 等 |
地域ビジョンの実現に向けたKPI
地域ビジョンの実現に向けた主なKPIは、以下の通りです。
スマートシティの選定数 | 2025年まで:100地域 |
脱炭素先⾏地域の選定および実現 | 2025年度までに少なくとも100か所選定し、2030年度までに実現 等 |
令和5年度デジタル田園都市国家構想・地方創生予算
令和4年12月23日閣議決定された「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を踏まえ、令和5年度予算では「デジタル田園都市国家構想交付金」等が新設されました。ここでは令和5年度デジタル田園都市国家構想・地方創生予算として、概算要求額で1,270億円が要求されています。
ここでは、その内容について見てみましょう。
デジタル田園都市国家構想実現に向けた総合的な支援
「地方創生推進交付金」、「地方創生拠点整備交付金」および「デジタル田園都市国家構想推進交付金」が、新たに「デジタル田園都市国家構想交付金」として位置付けられました。
また、本年末には「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を抜本的に改訂した「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を策定されます。それを踏まえ、「デジタル田園都市国家構想の実現を加速化するための経費」が事項要求されることになっています。
地方における仕事づくりとデジタル人材など人材の育成・確保
テレワークの推進等による地方における仕事づくりやデジタル人材の育成、「デジタル人材地域還流戦略パッケージ」等を通じた人材の地域への還流を図ります。
主な事業には、「地方創生テレワーク推進事業」「プロフェッショナル人材事業」「DX地域活性化推進事業」「地方創生カレッジ事業」等があります。
地方への人の流れの強化
都会から地方への人の流れを強化するとともに、地方からの人口流出の食い止めることで地域を支える担い手を確保します。
主な事業には、「地方大学・地域産業の創生や高校生の対流促進」「関係人口創出・拡大のための対流促進事業」「サテライトオフィスの整備」「子育て世帯の移住促進」等があります。
魅力的な地域づくりの推進
各地域の資源やデジタル技術等を有効に活用し、魅力的な地域づくりを推進します。主な事業には「地方創生に向けたSDGs推進事業」「スーパーシティ構想等推進事業」「『地方創生×脱炭素』推進事業」等があります。
デジタル田園都市国家構想実現のための機運醸成等
デジタル田園都市国家構想の実現に向け、地方公共団体・民間企業や国民の意欲関心が高まるような環境整備を実施します。
主な事業には「地方におけるデジタル技術を活用した取組の普及促進事業」等があります。
デジタル田園都市国家構想交付金とは?
令和5年度予算では、「デジタル田園都市国家構想交付金」として1,200億円が要求されました。その主な内容は、以下の2つです。
①地方の社会課題解決・魅力向上の取り組みを深化・加速化するための、「デジタル田園都市国家構想の実現に向けた分野横断的支援
② デジタル実装を支援する「デジタル実装タイプ(仮称)」、中長期的な計画に基づき先導的な取組や施設整備等を支援する「地方創生推進タイプ(仮称)」、「地方創生拠点整備タイプ(仮称)」等の設置
また「デジタル田園都市国家構想基本方針」を踏まえたマイナンバーカードの普及促進のため、モデルケースとなるような取り組みや既存の優良モデル実装等の支援も検討されています。
まとめ
デジタル田園都市国家構想には、大きな予算が要求されました。また構想実現に向けたKPIでは、近年中に生活や教育に関する変革が設定されています。この数年間で、交付金を活用した自治体のDX化が急速に進んでいくことが推測されます。
こうした地方の変化は、その土地の企業だけでなく、国内の経済活動全体を動かすことになりそうです。新しい社会的ニーズを取り逃されないためにも、今後の地方の動きを見極め、人や技術の動きに注目していきましょう。