新型コロナウイルス感染拡大の影響で、観光業は大きな打撃を受けました。コロナ禍が一定の落ち着きを見せ、経済活動が活発しつつある現在も、観光業界はまだ復興のさなかにあります。
訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金は、日本を訪れる海外からの旅行者にとって魅力的な街づくりを目指す取り組みを支援するものです。歴史的資源を活用した宿泊施設や観光地の整備を計画している事業者に向けて、今回は訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金の概要や申し込みの手続きについて紹介します。
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この記事の目次
インバウンドは「量」より「質」へ
令和4年10月11日より、水際対策が緩和されました。海外からの観光客の増加を見据え、国内の観光地ではインバウンドの拡大に期待が集まっています。
政府はインバウンド目標として、2019年には15万9千円だった1人当たりの消費額を、2025年までに20万円を目指すとする案を発表しました。参考:日本経済新聞
目標の達成のためには、地域の歴史や文化に根差したその土地ならではの魅力を活かし、観光地を契機にした持続的な街づくりが求められます。
これまで政府は、「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」として古民家等の歴史的資源を活用した観光まちづくりを推進し、2020年には目標としていた全国200 地域での取組展開を達成しました。これにより基本的な事業モデルを確立した一方で、歴史的資源を活用した観光まちづくりや、地域ステークホルダーとの連携による地域経営体制づくりは不十分な状況が続いています。
インバウンドの消費を増やすには、その土地にしかない景色や体験といった独自性や地域性と関連した付加価値が有効です。そうした価値を盛り上げるには、地域全体が主体となった環境整備が不可欠となります。
「歴史的資源を中核に地域資源の潜在価値を一体的に活用する観光・地域経営の実現」のため、これからの観光地には歴史的価値のある城や社寺・古民家等への高付加価値化の促進や、「目的となる宿泊施設」、「地域の賑わいを創る中心的な伝統的建造物」、「歴史的な町並みの調和が保たれた美しい景観」等の設備が求められています。
訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金とは
観光立国の復活に向け、観光庁はインバウンド需要を高める魅力的で日本らしい観光まちづくりを推進しています。城や社寺、古民家等の歴史的資源の高付加価値化を促進することで、長期滞在者や高付加価値旅行者を誘客し、稼げる地域・稼げる産業を目指します。
訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金(歴史的資源を活用した観光まちづくり推進事業)は、こうした環境まちづくりを目指す取り組みを支援する制度です。
まずは本事業の内容や対象事業者、補助金額を見ていきましょう。
【概要】
訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金には、「歴史的資源を活用した観光まちづくり推進のための滞在環境整備」と「地域の賑わいを創る歴史的建造物の改修、再建築、及び周辺環境の整備に対する支援」の2つがあります。それぞれ補助率や対象経費が違いますので、該当する事業はどちらに当てはまるのか、事前に確認をしましょう。
対象事業者
補助対象事業者は、以下の①~④です。
①観光庁の観光地域づくり法人 (DMO) 登録制度に登録している
②地方公共団体、DMOまたは民間事業者を中心に構成される地域協議会
③民間事業者等
④地方公共団体
なお、景観法の規定による準景観地区等は「優先採択地域」として、優先的に採択されます。
対象事業
補助対象事業は、歴史的資源を中核にし、地域資源を活用する観光地経営の実現を目指す以下のものです。
■歴史的資源の宿泊等環境整備や滞在拠点の高付加価値化
■地域の賑わいを作る歴史的建造物の改修、再建築、及び周辺環境整備
対象経費
補助の対象となる経費は、以下のとおりです。
歴史的資源を活用した観光まちづくり推進のための滞在環境整備の場合
歴史的資源の宿泊等環境整備に対する支援 | |
①歴史的資源の内装整備および耐震補強 | ・歴史的資源の宿泊・飲食・カフェ等への転用 ・機能性を高める工夫や高付加価値化等のための内装整備・耐震補強に関する経費 |
②寝具・家具等の購入に係る費用 | ・訪日外国人旅行者の満足度向上等に寄与する寝具や家具等の購入に関する経費 |
③多言語対応タブレットの購入及び設定費 | ・訪日外国人旅行者が快適に滞在し、日本の文化を体験できる環境整備のための経費 |
④IT技術を活用した情報提供・予約システム整備等に関する費用 | ・訪日外国人旅行者が、宿泊施設等の情報収集や予約をスムーズに行うための設備導入経費 |
⑤施設内における多言語案内の制作及び設置費用 | ・多言語での案内に関わる整備や案内標識の改良等に関する経費 |
⑥感染症対策対応整備に必要な経費 | ・感染予防対策など、安全・安心に滞在できる環境整備に必要な経費 |
歴史的資源を活用した滞在拠点の高付加価値化支援 | |
①体験型・滞在型コンテンツの企画当等に関わる費用 | ・訪日外国人旅行者向けの地域の観光資源の抽出に関する経費 ・地域の観光資源を活用した体験型・滞在型コンテンツや、プログラムの開発等の経費 |
②旅行商品の企画開発・課題抽出やモニターツアー等に関する費用 | ・既存の観光資源や体験型・滞在型コンテンツのモニタリングに関わる経費 ・モニタリングによる課題抽出・整理に関わる経費 ・コンテンツの改善に係る経費 |
③コンシェルジュの養成等に必要な経費 | ・訪日外国人旅行者へのスムーズなサービス提供を行うためのコンシェルジュ養成経費 |
④観光まちづくりの推進に関わる戦略立案や広報等に関わる経費 | ・歴史的資源を活用した観光まちづくり推進のプロモーション活動 ・観光まちづくり計画やコンセプト策定、動画広告作成等の経費 ・関係事業者との検討会等の開催経費 |
地域の賑わいを創る歴史的建造物の改修、再建築、及び周辺環境の整備に対する支援の場合
歴史的資源を活用した滞在拠点の高付加価値化支援 | |
①歴史的建造物の新築・再建築や改築等、大規模な修繕や模様替等に関わる費用 | ・建築工事費、改修工事費、設計費、付帯工事費等の経費 ※なお、地域の賑わいを作る歴史的建造物とは、古民家等の歴史的建造物を活用した宿泊・飲食・観光拠点等のことを指します。 歴史的建造物の新築・再建築を実施する際は地域の伝統構法等を活用し、将来文化財となり得るような、地域にとって価値の高い建造物であることが必要です。 |
②歴史的建造物の周辺環境の整備等に関わる費用 | ・歴史的建造物の整備と合わせて実施する、庭の整備等の周辺環境整備に関わる経費 |
また、以下の経費は補助の対象外です。
■本事業に直接関係のない経費
■交付決定前に発生した経費
■計画申請者および補助対象事業者における経常的な経費
■景品等の購入費
■クーポンや乗車船券等の割引原資のための経費
■同一の活動や同一箇所の改修等に対して補助金、支援金、委託費等が支給されている場合
■その他本事業と無関係と思われる事業に関する経費
補助率・上限額
補助率・補助額は以下の通りです。
歴史的資源の宿泊等環境整備に対する支援並びに歴史的資源を活用した滞在拠点の高付加価値化支援
補助率:1/2
補助上限額:2,000万円
地域の賑わいを創る歴史的建造物の改修、再建築、及び周辺環境の整備に対する支援
補助率:1/3
補助上限額:5,000万円
応募の際のポイント
本事業に応募する際には、以下のポイントを確認してください。
ポイント |
1.歴史的建造物の内装整備、耐震補強や新築や再建築等の取組を行うときは、必ず所管する地方自治体等に事前相談をし、許認可を受けた上で事業を実施してください。 |
2.保護されている文化財については、現状変更等の手続に時間を要することが想定されます。事前に都道府県や市町村の文化財担当部局に相談し、手続や必要な期間を確認したうえで、事業を計画してください。 |
3.対象事業は、「旅行消費額の増加や旅行者の満足度向上に寄与すること」、「地域における歴史的資源を活用した観光まちづくりの推進に資するものであること」という観点から採択されます。 |
4.補助対象事業終了後における事業継続の意思があることが前提です。 |
5.数日間のイベントやモニターツアーのみに使用する施設整備などは不採択となります。 |
6.歴史的資源を活用した観光まちづくりの推進にあたっては、地域関係者との連携や地域一体となった取組が具体的に分かる事業が優先的に採択されます。 |
7.必要に応じて、連携事業者に対してもヒアリングを実施する場合があります。 |
8.応募には、「令和3年度古民家等の歴史的資源を活用した観光まちづくり推進のための調査事業」で作成されたナレッジ集を参考にしてください。 |
申請方法
それでは、申請の方法について見ていきましょう。対象の歴史的資源が指定により保護されている場合には、事前に自治体等の許可が必要です。該当する場合は、早めに準備を行ってください。
公募期間
令和5年3月1日 (水) ~ 4月24日 (月) 17時 (必着)
申請方法
申請は電子メールよる書類提出で行います。郵送での提出は認められていませんので、注意してください。
必要書類
申請に必要な書類は、以下のとおりです。
■事業申請書
■費用積算書
■実施スケジュール
■事業概要書
■積算根拠資料
■収支計画
■その他資料等
・地方自治体等が作成する、歴史的資源の保存や活用等に関わる地域計画
・まちづくり会社等が作成する、歴史的資源を活用した観光まちづくり計画 等
・指定等により保護されている文化財は、文化財の名称、種別、現状変更に関わる許可等の状況がわかる書類
訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金活用のメリット
訪日外国人観光客が期待しているのは、きれいな宿泊施設や最新技術だけではありません。旅行者の多くは、その土地でしかできない体験を求めています。その土地ならではの体験には、文化や歴史、地域とも深い関連があります。
観光庁のデータでは、古民家等の歴史的資源を活用した宿泊施設は年々増加しています。潜在的な歴史的資源を有効に活用し、インバウンド需要を取り込もうとする動きは、全国的に広がりつつあるのです。
出典:観光庁
しかし古い建物を快適な宿泊施設として利用するためには、改修工事も必要です。コロナ禍からの復興のさなかにある観光地では、そうした予算が組めずにいるケースも予想されます。
そんなときこそ、活用してほしいのが訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金活用です。訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金活用は補助率が2分の1 (または3分の1) と大きく、制限も少ないのが特徴です。観光まちづくりを通して地域を盛り上げ、その土地ならではの魅力の底上げを目指す事業者は、ぜひ訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金活用の申請を検討してください。
まとめ
人の動きが活発になるにつれ、インバウンドへの経済的期待も高まっています。地域の歴史的資源を見直し、文化を再確認することは、自分の住む土地を良く知ることでもあります。そうした資源を現代に活用できる形へ修復していくことは、地域住民にとっても大きな財産ともなるはずです。
訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金を上手に活用し、住み慣れた土地をよりよく、より愛される地域にアップデートしていきましょう。
参考:令和4年度補正 訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金(歴史的資源を活用した観光まちづくり推進事業)の公募開始について