この記事は2022年4月時点での情報となります。
最新のIT導入補助金の情報については以下の記事にてご確認ください。
2023年10月から、インボイス制度が始まります。これにより、企業が発注時に消費税分の控除を受ける「仕入税額控除」を受けるためには「適格請求書(インボイス)」が必須になります。
インボイス制度の登録申請は2021年10月1日から始まっていますが、日本商工会議所の調査では2021年11月の時点で、まだインボイス制度の導入準備を行っていない事業者が59.9%にのぼることが報告されました。特に「売上高1000万円以下」の免税事業者では、73%が制度導入準備をしていないと回答しています。
参考:日本商工会議所 「消費税インボイス制度」と「バックオフィス業務のデジタル化」等に関する実態調査結果
インボイス制度の導入推進などを目的として、IT導入補助金では令和3年度補正予算で「デジタル化基盤導入枠」が新設されました。今回はIT導入補助金の内容や変更点、申請方法などをまとめました。
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この記事の目次
中小企業・小規模事業者が直面する課題とは
これまで売上高が1000万円以下の事業者は「免税事業者」として、発注者から支払われた消費税は納めなくともよいとされていました。しかし、適格請求書を発行できるのは「消費税の課税事業者」だけです。今後は発注者から適格請求書の発行を求められる可能性が高いことから、免税事業者も課税事業者の登録を検討する必要があります。
特に中小企業や小規模事業者にとって、複雑な制度導入のためにデジタル化による業務簡略化をはかることは大きな助けとなります。IT導入補助金2022に新設されたデジタル化基盤導入枠は、こうした制度導入に関わるIT設備費用の一部を補助するための事業です。
IT導入補助金2022とは
IT導入補助金2022は中小企業や小規模事業者を対象に、ITツール導入を補助するための制度です。これまでの通常枠「A類型」「B類型」に加え、令和3年度補正予算にて、デジタル化基盤導入枠として「デジタル化基盤導入類型」「複数社連携IT導入類型」が新たに追加されました。
まずはIT導入補助金2022の概要や変更点をみていきましょう。
【概要】
令和4年3月に公表された公募要項では、通常枠とデジタル化基盤導入枠の相違点は以下の図のように示されました。
出典:IT導入補助金2022「公募要項」
デジタル化基盤導入枠はインボイス制度への対応を見据え、企業間取引のデジタル化を推進することを目指して新設されたもので、通常枠よりも補助率が高く設定されています。
主な変更点は、以下のとおりです。
①会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフトに補助対象を特化し、以下のように 補助率を引き上げる
・補助額 5~50万円以下…補助率を通常の1/2から3/4に引き上げ
・補助額 50万円超~350万円…補助率を通常の1/2から2/3に引き上げ
②クラウド利用料を2年分まとめて補助
③PC・タブレット、レジ・券売機等の購入を補助対象に追加
・PC・タブレット等については、補助上限額10万円、補助率1/2
・POSレジ・券売機等については、補助上限額20万円、補助率1/2
④複数社連携IT導入類型の創設
通常枠【A・B類型】
ここで、各枠の相違点を整理しましょう。
IT導入補助金のうち、通常枠は中小企業・小規模事業者等が直面するさまざまな制度変更への対応として、ITツールを導入する際の費用の一部を補助し、生産性向上を図ることを目的にしています。
A・B類型の大きな違いは補助金額です。どちらも補助率は1/2ですが、A類型は「30万円以上150万円未満」、B類型は「150万円以上450万円以内」の範囲で申請が可能です。また、申請に必要なプロセスの数も異なります。
デジタル化基盤導入枠【デジタル化基盤導入類型・複数社連携IT導入類型】
新設されたデジタル化基盤導入枠は、中小企業・小規模事業者等が会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト・ECソフトを導入する際の経費の一部を補助し、インボイス対応も見据えた企業間取引のデジタル化を推進することを目的としています。PC・タブレット、レジ・券売機等の導入費用も併せて支援しています。
また複数社連携IT導入類型は、複数の事業者が連携してITツールやハードウェアを導入することにより地域DXの実現や生産性の向上を図る取り組みを支援するものです。補助の対象には、連携のためのコーディネート費や、外部専門家に係る謝金等も含まれます。
IT導入補助金の補助対象者
補助の対象となるのは、いずれの枠も中小企業、小規模事業者等です。飲食、宿泊、卸・小売、運輸、医療、介護、保育等のサービス業の他、製造業や建設業等も対象となります。
対象となるITツール
対象となるITツールは、大分類Ⅰ「ソフトウェア」、大分類Ⅱ「オプション」、大分類Ⅲ「役務」の3つのいずれかに分類されます。さらに各大分類内は、以下の図のようにカテゴライズされています。
※下図はデジタル化基盤導入枠におけるITツールの分類となります。
出典:IT導入補助金2022「公募要項」
対象となるITツールは、各枠の大分類Ⅰの要件を満たしている必要があります。その限りにおいて、それに付随する大分類Ⅱ「オプション」、大分類Ⅲ「役務」に係る各経費も補助対象となります。それぞれの枠の、対象となるITツールについては以下のとおりです。
通常枠
◆ITツール要件…類型ごとのプロセス要件を満たすものであり、労働生産性の向上に資するITツールであること
「プロセス要件」とは以下の①~⑦に該当するもので、申請するITツールはこれらのうちの1種類以上を含んでいなくてはいけません。※⑦のみを保有するITツールは、単独では申請できませんが、①~⑥と組み合わせることで申請可能になります。
<業種共通業務プロセス>
①顧客対応・販売支援
②決済・債権債務・資金回収
③供給・在庫・物流
④会計・財務・経営
⑤総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情シス
<業種特化型プロセス>
⑥業種固有プロセス
<汎用プロセス>
⑦汎用・自動化・分析ツール(業種・業務が限定されないが生産性向上への寄与が認められる業務プロセスに付随しない専用のソフトウェア)
プロセスは業種によって適用される項目が違います。たとえば該当事業の業種が「農業・林業・漁業」で「業種特化型業務プロセス」の⑥業種固有プロセスに該当する機能は「生産管理(生産、出荷、生育管理)、自動データ収集、天候・生育環境記録」等です。申請予定のITツールがどのプロセスの機能に該当するかは公募要領で確認をしてください。
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)
◆ITツール要件…
①4つの大分類中の大分類Ⅰ「ソフトウェア」のカテゴリー1に区分され、会計・受発注・決済・ECの機能を必ず1種類以上含んでいること (交付申請にあたり、大分類Ⅰは必須)
②ハードウェアを補助対象経費として申請する場合は、そのハードウェアがソフトウェアの使用に資するものであること。
対象のハードウェアは以下のとおりです。
①PC、タブレット、プリンター、スキャナー及びそれらの複合機器
②POSレジ、券売機等
デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)
デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)では「基盤導入経費」「消費動向等分析経費」「その他経費」の3つの経費区分が設定されています。それぞれの対象ツールや経費は以下のとおりです。
◆基盤導入経費
デジタル化基盤導入類型にて、補助対象経費として定義されているITツール
①会計・受発注・決済・ECの機能を保有するソフトウェアとそのオプション、役務
②①の使用に資するハードウェア (PC、タブレット、プリンター、スキャナー及びそれらの複合機器、POSレジ、券売機等)
◆消費動向等分析経費
基盤導入経費以外で、補助事業に用いられるITツール
異業種間の連携や地域における人流分析・商取引等の面的なデジタル化に資するソフトウェアとそのオプション、役務、ハードウェアなどが対象です。
たとえば対象例として、以下のようなものがあげられます。
ソフトウェア:消費動向分析システム、経営分析システム、電子地域通貨システム、キャッシュレスシステム、生体認証決済システム等
ハードウェア:AIカメラ・ビーコン・デジタルサイネージ等
◆その他経費
①代表事業者が補助事業グループを取りまとめるために要した経費(人件費、消耗品費、広報費等)
②外部専門家による導入・活用支援にかかる費用
IT導入補助金の申請方法
事業内容を確認したら、次は申請の方法をみていきましょう。申請は電子申請でのみ行われます。登録のためのアカウント発行までは2週間程度かかりますので、スケジュールに注意しましょう。
【交付申請の流れ】
交付申請の流れは、以下のとおりです。
①「IT導入支援事業者の選定」「ITツールの選択」(事前準備)
②「gBizIDプライム」アカウントの取得・「SECURITY ACTION」の実施(申請要件)
③交付申請(IT導入支援事業者との共同作成・提出)
④ITツールの発注・契約・支払い(補助事業の実施)
⑤事業実績報告
⑥補助金交付手続き
⑦事業実施効果報告
【スケジュール】
各枠の申請スケジュールは以下のとおりです。
◆通常枠(A・B類型)
・1次締切分締切日 5月16日(月)17:00(予定)
・2次締切分締切日 6月13日(月)17:00(予定)
◆デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)
・1次締切分締切日 4月20日(水)17:00(予定)
・2次締切分締切日 5月16日(月)17:00(予定)
・3次締切分締切日 5月30日(月)17:00(予定)
・4次締切分締切日 6月13日(月)17:00(予定)
なお、デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)の締切日は、まだ発表されていません (2022年4月14日現在)
申請方法
交付申請には、事前に「gBizIDプライム」アカウントを使用します。また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する「SECURITY ACTION」にて「★一つ星」または「★★二つ星」を宣言する必要があります。これは、中小企業・小規模事業者等が情報セキュリティ対策に取組むことを自己宣言する制度です。
申請は補助事業者が行う工程とIT導入支援事業者が行う工程があります。IT導入支援事業者とは、補助事業を共に行う共同事業者のことです。ITツールの選定や導入などのサポートを行います。詳しくは、以下の表で確認してください。
出典:サービス等生産性向上IT導入支援事業事務局「交付申請の手引き」
必要書類
申請に必要な書類は、法人と個人事業主とで異なります。以下に、それぞれの提出書類をまとめました。
【法人】
①履歴事項全部証明書
②直近分の法人税の納税証明書
【個人事業主】
①運転免許証または運転経歴証明書または住民票
②直近分の所得税の納税証明書
③直近分の所得税確定申告書B
IT導入補助金の審査内容
審査は「事業面からの審査項目」と「政策面からの審査項目」の2つの項目で行われ、それぞれ枠によって具体的な審査内容が違います。
通常枠(A・B類型)の審査項目
①事業面の具体的な審査(事業面からの審査項目)
②計画目標の審査(事業面からの審査項目)
③加点項目に係る取組の審査(政策面からの審査項目)
加点対象となる取組などは、以下のとおりです。
・地域未来投資促進法の地域経済牽引事業計画の承認を取得している
・交付申請時点で地域未来牽引企業に選定され、経済産業省に地域未来牽引企業としての「目標」を提出している
・クラウド製品を導入するITツールとして選定している
・導入するツールに「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を選定している
・導入するツールにインボイス制度対応製品を選定している
・事業計画期間中「給与支給総額を年率平均1.5%以上増加すること」「最低賃金を地域別最低 賃金+30円以上の水準にすること」を明記した事業計画を策定・従業員に表明している (A類型の申請者またはB類型の申請者のうち小規模事業者等)
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)の審査項目
①事業面の具体的な審査(事業面からの審査項目)
②加点項目に係る取組の審査
加点対象となる取組などは、以下のとおりです。
・地域未来投資促進法の地域経済牽引事業計画の承認を取得している
・交付申請時点で地域未来牽引企業に選定され、経済産業省に地域未来牽引企業としての「目標」を提出している
・導入するツールに「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を選定している
・事業計画期間中「給与支給総額を年率平均1.5%以上増加すること」「最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にすること」を明記した事業計画を策定・従業員に表明している
デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)の審査項目
①事業面の具体的な審査 (事業面からの審査項目)
②計画目標の審査(事業面からの審査項目)
③加点項目に係る取組 の審査(政策面からの審査項目)
以下のいずれかに合致している取り組みが加点対象となります。
・複数社・地域の生産性の向上に役立つ、より新規性のある取組。
・事業で得られた知見やノウハウ、データマーケティングの手法などを地域で普及啓発し、地域の生産性の向上に繋げる取組。
・事業で得られたデータを可能な範囲でオープン化し、地域の課題解決に繋げていく取組。
・地域の自治体、金融機関、公共機関、ITベンダー、観光団体、医療、福祉、教育、防災関係者などと連携して、地域課題の解決を目指す取組。
・事業の実施前からデジタル化に取り組んでおり、既存の取組と合わせて本事業を行うことで、事業の加速化を図る取組。
なお、審査は原則として、提出された書類によって行われます。
IT導入補助金活用のメリット
インボイス制度の導入時に留まらず、DXへの対応は、予算や人的人材に余裕の少ない中小企業にとっては負担です。しかし社会的な需要に応えることができなければ、企業としての存続に関わります。
IT導入補助金は返済義務がないことが大きなメリットといえます。また、IT導入支援事業者とともにDX化を進めることで、複雑な設備設置や必要なツールの選定などもスムーズに行うことができます。
資金の補助を受け、専門家のアドバイスを基にデジタルツールの導入を進めることで、時代にあった企業への発展が可能になるのです。
まとめ
インボイス制度導入を見据え、新たな枠が加わったIT導入補助金。インボイス制度への申請を検討している中小企業や小規模事業者を中心にした免税事業者にとって、2022年度のIT導入補助金は活用のメリットが大きくなったといえるでしょう。
昨今の社会情勢においては、さまざまな変化への柔軟な対応が求められています。DX化もそのひとつです。設備の導入資金や方法に悩む事業者は、ぜひIT導入補助金を申請しましょう。
新たなデジタルツールの導入は、今後の企業展開の可能性を大きく広げることになるはずです。