新型コロナウイルス感染拡大により、わたしたちの生活は大きく変わりました。国や地方自治体では、業績が悪化した企業の補助や感染症対策を目的とする補助金・助成金などの支援制度も多数設置されています。
一方で、令和3年10月の閣議会議では2050年の脱炭素化に先駆けて、2030年までに温室効果ガスの排出量を46%削減(2013年比)する中期削減目標が表明されました。また6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」(骨太方針2022)では、カーボンニュートラル実現に向けた経済社会システムの変革を目指す「GX (グリーントランスフォーメンション)」に今後10年間で150兆円超の投資を目指すことも記されています。
コロナ禍における感染症対策の改善と、脱炭素化へ向けた設備の省エネ化は、多くの企業にとって重要な課題となっています。そこで、今回は業界で初めて「CO2センサー搭載ダクト用換気扇」を製造・販売した三菱電機株式会社の中津川製作所 電材営業課 課長、三木 靖司(みき やすし)さんにオンラインインタビューしました。
CO2センサー搭載ダクト用換気扇は感染対策もできる省エネ設備として注目されています。換気設備の導入・入れ替えを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
省エネ性や快適性も考慮した換気とは
補助金ポータル(船木):
よく、「換気のために窓を開けましょう」と言われますが、窓の開け閉めだけでは換気は不十分なのでしょうか。
三菱電機(三木):
窓を開けると外部とは繋がるのですが、それだけだと空気は動かないのです。
例えば、外で風が吹いていれば、室内にも吹き込んでくることはあります。室内の空気は押し出されてどこからか抜けるので、一応換気はできます。窓開け換気の問題は他にもあり、夏場は窓を開けると暑く、冬場は寒くなりますので、空調で冷やされたり暖められたりした空気が外に出てしまうことによって、空調効果を損ねてしまう点です。
あとは窓を開けると、埃や虫が入ってきますし、騒音の問題も出てきます。その結果、空間の快適性も損ねてしまいますので、省エネ性や快適性からみると、窓開け換気だけに頼るのは好ましくないと言えます。
新型コロナ感染症対策と省エネに対応!CO2センサー搭載ダクト用換気扇とは
補助金ポータル(船木):
CO2センサー搭載ダクト用換気扇はどのようにして開発されたのでしょうか?
三菱電機(三木):
CO2センサー搭載ダクト用換気扇を発売したのは新型コロナウイルスの感染拡大の後の、2020年11月です。開発については、既に構築されていた要素技術を活用して、コロナ禍とともに即座に製品化に取り組みました。
私ども中津川製作所は1943年(昭和18年)に三菱電機名古屋製作所の分工場として操業を開始し、来年で80周年を迎えます。中津川製作所は戦後、扇風機生産を中心に事業を拡大してきました。
風に関する事業は創業当初からおこなっている、息の長い事業であり、現在では、あらゆる用途に対応した換気送風機いわゆる換気扇の製造が中心となっています。
現在ラインナップしている換気用送風機の中では天井埋め込み型の換気扇が高い販売ウエイトを占めているのですが、単に換気をするための設備ではなく、当社の換気扇を使用することにより、より省エネにつながる、いわゆる「省エネ設備」として売り出すための開発をコロナ前から進めておりました。
当社ではDCブラシレスモーター注1という省エネ型のモーターを搭載した換気扇を、20年以上販売しております。換気扇本体の省エネに加え、最適なタイミングで稼働することでの省エネにつなげられるよう、CO2センサーの技術を合わせた商品を開発するという発想に至ったのが、まさしくコロナ直後でした。
注1 従来採用していたACモーターに比べ、消費電力が少なく、省エネ運転が可能。さらに、モーターの回転数を常に一定に保つ定風量制御機能が搭載され、安定した換気風量を確保するモーター。
コロナ禍で変化した「換気」への意識
三菱電機(三木):
コロナ禍で換気が注目されるまでの換気に対する意識は、生活の中でお手洗いやお風呂場、キッチンで臭いや湿気を感じた時に換気扇を強運転に切り替える程度のものでした。
2003年に建築基準法改正によって24時間換気可能な、換気設備の設置が義務付けられ一般の住宅にも換気設備は普及しましたが、普段の生活で換気がより意識されるようになったのは、コロナ禍からと考えています。新型コロナウイルスの流行直後、感染予防対策として「空気の質」が意識されるようになりました。厚生労働省は密の基準として、室内のCO2濃度が1,000ppm以下を維持することを推奨しています。
そこで換気扇にCO2センサーをつけることで、必要な時に必要な量だけ換気を自動制御して「密閉空間」を回避する製品を開発できるのでは、という発想に至った次第です。
昔から換気に携わってきたからこそ今回の製品をいち早く開発できたのだと思います。
補助金ポータル(船木):
換気をした結果として密閉が回避されたのではなく、初めから密閉を防ぐための手段として意識的に換気を利用するということですね。
CO2センサー搭載で、自動で密対策と省エネが可能に
三菱電機(三木):
そのとおりです。閉じた空間にたくさんの人がいれば密閉されていると感じやすいのですが、ある程度の人数で長時間滞在する場合では徐々に閉じられた空間になる。そうすると、、空気は目に見えないこともあり、密状態であることに気がつきにくくなります。
この目に見えない密状態をCO2濃度という基準で計測し、「密か、密じゃないか」を判断できるようにしようと思ったのです。
すでにCO2センサー自体は開発済で他の製品では搭載された実績もありましたし、平成28年には厚生労働省からCO2濃度の基準値も出ていたので、
「このセンサーをつければ、自動での密の回避と省エネが両立できる」
と思ったわけです。
補助金ポータル(船木):
なるほど!確かに空気は見えないですよね。
すでにある技術をかけ合わせて開発されたとはいえ、20年3月頃がコロナのはじまりだと考えると、開発から販売開始までかなり早いという印象です。
三菱電機(三木):
ベースとなる技術が自社にあったということもそうですが、やはり早く市場に出さなくてはいけないという社会貢献や省エネ推進の視点からの使命感がありました。
CO2濃度設定は使用環境にあわせて変更も可能、おすすめの環境とは
補助金ポータル(船木):
このCO2センサー搭載ダクト用換気扇は、まさに多くの場所で必要とされている製品です。具体的にどのような施設で導入されているケースが多いのでしょうか。
三菱電機(三木):
人の出入りが多い建物で、需要があります。住宅よりも非住宅からのニーズが高く、飲食店や保育園、あとは高齢者施設などで導入されています。病院やオフィスなどでも利用されていますね。
実例をあげますと、飲食店では混雑した時間帯や曜日には自動で風量がアップしますので、忙しいタイミングで都度、換気風量を気にしなくていいので喜ばれています。保育園ではお子様の健康・安全面を考慮した上での採用を検討されているところが増えていますね。
また、高齢者施設では個室よりも共用部分へ、オフィスでは会議室など特定の時間だけ人が集まるような場所への設置にニーズがあります。
三菱電機(三木):
下の図のなかで、赤破線で囲ってある部分がCO2センサーのモジュール、白い丸の部分が濃度設定のつまみです。厚生労働省からは1,000ppmを超えたら換気するようにとの案内がありましたが、このつまみで換気運転を切り替えるCO2濃度の設定を変更できます。
補助金ポータル(船木):
つまり使用環境や室内の想定人数にあわせて、設置時に換気運転の強弱切り替えの設定を調整できるということですね。
三菱電機(三木):
動画にありますように、人が少ない時は呼気などによる室内CO2濃度の排出も少ないので弱運転です。人が多くなると室内のCO2濃度が上がります。それを換気扇本体に内蔵したCO2センサーが感知して、換気扇の運転も急速運転に切り替わる仕様です。
いわゆる飛沫対策という視点です。人が多くなれば、必要な換気量も増えることに対応しています。CO2濃度設定の幅は600〜2,000ppmで、施設の状況にあわせて調整できますが、基本的には厚生労働省の指針にもあるように1,000ppmで感度設定し、ご使用いただくことを想定しています。
補助金ポータル(船木):
不特定多数の人が出入りするような様々な業種・施設でも、環境に応じて設定や調整をすることができるのですね。こういった高機能の換気扇の設置が手軽にできることは、あまり知られていない気がします。
三菱電機(三木):
センサーを搭載している関係上、製品の価格は高くなっています。しかし感染症予防対策や省エネでの設備運用という視点から、徐々にご採用いただく施設も増えてきています。
センサーと換気扇の一体化で、設置も容易に
補助金ポータル(船木):
実際にこのCO2センサー搭載ダクト用換気扇を設置する際、既存の換気扇から取り替える場合はどうですか。今ついている換気扇を取り外して、そのままCO2センサー搭載ダクト用換気扇を取り付けるといったことは可能なのでしょうか。
三菱電機(三木):
可能です。当社の天井埋め込み型のダクト用換気扇は、開口寸法は過去から変更しておりません。新しい設備も、そのまま取り付けていただくことができます。
例えば、10〜20年前に取り付けられた換気扇を外してCO2センサー搭載ダクト用換気扇と取り替えていただくことも可能です。場合によってはスイッチを替えたり、古くなったダクトを引き直したりという必要がありますが、ほとんどのケースではそのまま新しい製品の設置が可能です
補助金ポータル(船木):
機能が上がる分、大掛かりな工事が必要なイメージだったので、意外です。
三菱電機(三木):
CO2センサーと換気扇の設置工事を別々に行う場合ですと、おっしゃるとおり換気扇とセンサーの接続工事など大変な作業が必要です。
今回の開発の背景には、センサーを換気扇に内蔵することで、換気扇本体工事だけでCO2センサーの機能も取り込めるという利点もありました。
補助金ポータル(船木):
それで、センサーと換気扇の一体型になったのですね。
高額な初期費用もランニングコストの削減で回収可能
補助金ポータル(船木):
換気扇はカタログを見て選ぶという製品ではありませんし、業者任せである印象もあります。予算だけを考慮して採用するケースも多いのではないでしょうか。
CO2センサー搭載ダクト用換気扇は省エネ・感染症予防対策のひとつとしても有効なので、ぜひもっと多くの飲食店店舗や、保育園、高齢者施設で使ってほしいですよね。
感染症対策としての換気設備や省エネ設備は多くの補助事業でも対象になっています。予算的な問題では、ぜひこうした補助金を活用していただきたいです。
三菱電機(三木):
コロナ禍において換気に対する意識が高くなってきていますが、まだまだ知られていないことの方が多いのが現実です。単純に窓開け換気しておけば良いというものでもありません。人数や環境に応じて、必要な時に、必要な分だけ換気することが大切なのです。
また、初期費用は高額に思えてもランニングコストは年間で空調が約20,600円、換気扇の電気代も約5,300円も削減できます。あわせると、年間25,920円程度のランニングコスト減です。注2
補助金ポータル(船木):
差額分が3年ほどで回収できる計算ですね。
注2 CO2センサー搭載タイプ(VD-20ZAGVR6-C)とACモーター搭載タイプ(VD-23ZXP13-C)の比較(60Hz、20m配管相当時)。年間250日、CO2センサー搭載タイプは1日あたり急速運転(550m3/h)4時間・弱運転(170m3/h)8時間、ACモーター搭載タイプは1日あたり強運転(500m3/h)12時間の運転条件で試算。
[試算条件]・室内温度:暖房時20℃、冷房時28℃・外気条件:気温及び相対湿度の月別平均値(1981年から2010年までの平均値)[参考文献]国立天文台編「理科年表(平成27年版)」・暖房条件:外気温度の月別平均値が16℃以下となる月・冷房条件:外気温度の月別平均値が24℃以上となる月・冷暖房平均COP=3.20(エアコンディショナーのエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断基準等(経済産業省告示269)より第1表の「直吹き形でその他のもの3.2kWを超え4.0kW以下」のCOPを採用) ・電気料金目安単価:31円/kWh(税込)
CO2センサー搭載ダクト用換気扇で「室内環境の質」の向上を目指す
三菱電機(三木):
換気設備を取り換えるだけで、「空気の質」は大きく変わります。
センサーなしの場合、強弱切り替えがあったとしても弱で運転されていることが多いと思います。そこにセンサーが付くことで、CO2排出量が増えた時には自動的に強に切り替わってくれます。その後、空気がきれいになれば、再び運転が弱に切り替わります。たったこれだけのことで、空間の「空気の質」が上がるのです。
補助金ポータル(船木):
まだ本商品を知らない皆様へ一言お願いいたします。
三菱電機(三木):
これまでお話してきた通り、しっかり換気ができているかを判断するひとつの基準は室内のCO2濃度です。
人がいない屋外だと空気のCO2濃度は400ppm程度と言われていますが、厚生労働省から出されている屋内の基準値は1,000ppm以下です。
当社では、室内のCO2濃度はこの400〜1,000ppmの間を維持すべきであると考えています。
CO2モニターには現状のCO2濃度が表示されます。実際にお店などで見ることもあるかと思いますが、これが「空気の見える化」です。
三菱電機(三木):
ただ見える化そのものよりも、空間のCO2濃度を見たあとの対処が重要であると考えています。例えば「CO2濃度が1,000ppmを超えたな」と確認できれば、それが窓を開けるとか、換気扇を強に切り替えるというアクションにつながってきます。
CO2センサー搭載ダクト用換気扇なら、人が動かなくても、次のアクションを自動で行うことができるのです。
補助金ポータル(船木):
CO2センサー搭載ダクト用換気扇で自動化した方が、効率がいいですね。特に商業施設では、この「アクション」を自動化できれば、人員をほかの業務に回すことができます。結果として、業績や売り上げのアップも期待できそうです。
本日は、ありがとうございました。
感染症予防対策として換気の需要は高まりましたが、その「質」に意識が向くことは少ないのではないでしょうか。CO2センサー搭載ダクト用換気扇は「空気の質」を上げることで、健康だけでなく、室内環境の質の向上に貢献します。
また、センサーを利用して室内を自動的に快適な状態に保つことで、人手不足の緩和にもつながります。
「空気の質」と省エネを両立させるCO2センサー搭載ダクト用換気扇の導入には、国や地方自治体からの補助金が活用できます。初期費用の予算的な問題さえクリアになれば、ランニングコストの削減も可能です。
補助制度を上手に取り入れてCO2センサー搭載ダクト用換気扇を導入し、環境にも人の健康にも配慮した施設を目指しましょう!