令和5年1月1日に発生した能登半島地震の被災者支援として、厚生労働省では未払賃金立替制度や労働保険、年金などに特例措置を設置しています。助成金の申請等にも特例措置が設定されました。
今回は被災した事業者や労働者に活用してほしい、厚生労働省の特例措置についてまとめました。
この記事の目次
能登半島地震|事業者・労働者への主な特例措置一覧
厚生労働省が設置している主な特例措置は以下のとおりです。
対象者 | 特例措置・支援 |
事業主・労働者 | 自然災害が発生した場合の支援や制度について(労働基準関係) |
未払賃金立替払制度 | |
事業主 | 中小企業退職金共済制度・財形制度 |
被災地の事業場等に対する労働保険料等の申告・納期限等の延長 | |
災害を受けた場合の労働保険料等の納付猶予の制度 | |
技能実習の継続が困難等になった場合の手続等 | |
雇用保険の特例措置 | |
助成金の特例措置 | |
事業主・就職活動中の新卒の学生・生徒 | 令和6年能登半島地震の影響を受けた新規学校卒業者等の就職・採用に関する相談窓口 |
全員 | 年金 |
なお、ここに記載があるもの以外にも、支援が受けられる場合があります。
困りごとがあるときは、自治体や国の窓口に相談してください。
能登半島地震|労働者および事業主への支援・特例措置
労働者と事業主の双方に関連する特例措置は、労働基準法に定められています。ここではその主な内容と未払賃金立替制度について詳しく見ていきましょう。
自然災害が発生した場合の支援・制度(労働基準関係)
自然災害が発生した際、災害救助法が適用された地域では、以下の支援などを受けることができます。
【災害救助法適用地域】
出典:自然災害時における労働基準関係行政の運営について(令和6年能登半島地震)より抜粋
①労災保険の請求は、事業主や医療機関の証明を受けるのが困難な場合にも可能です。 |
②健康管理手帳を提示できなくてもアフターケアの受診ができます。さらに義肢等補装具がき損した場合は、修理費用・購入費用が支給されます。 |
➂労災給付の預金通帳・証書・届出印・送金通知書等を紛失等した場合でも、各金融機関等にて、払い戻しが可能な場合があります。金融機関の窓口等にお問い合わせください。 |
詳しくは、最寄りの労働基準監督署にご相談ください。
未払賃金立替払制度
災害に伴い、事業活動の停止等によって賃金が未払いのまま退職せざるを得ない場合には、未払賃金の立替払事業が適用されます。これは退職手当を含む未払賃金のうち、一定範囲を、国が事業主に代わって立替払をする制度です。立替えた資金は、後日、国が事業主に求償します。
主に中小企業が対象ですが、法律上の倒産手続きを取った場合には、大企業も対象です。
能登半島地震|事業主の支援・特例措置
事業主を対象にした支援や特例措置には、退職金共済制度の掛金の納付期限延長や労働保険料等の申告・納期限等があります。それぞれの内容について、見ていきましょう。
中小企業退職金共済制度・財形制度
掛金納付期限の延長や、共済手帳・共済証紙の再交付が可能です。また、勤労者財産形成促進制度では財形持家融資制度の返済方法の変更措置や、財形住宅貯蓄・財形年金貯蓄の非課税払出しの制度があります。
一般の中小企業退職金共済制度における支援は、以下の通りです。
①掛金の納付期限延長 掛金の納付期限を、最長1年間延長することができます。延長できるのは令和6年2月分から令和7年1月分です。 なお、納付延長した月分の掛金は、令和7年2月から令和8年1月までの期間に納付すれば後納割増金は免除されます。 また、勤労者退職金共済機構が行う財形持家転貸融資を返済中の場合は、被災の程度に応じて以下のように返済方法を変更することができます。 |
②返済を最長3年間にわたり猶予 返済の猶予期間中は、金利を最大1.5%引き下げます。 |
➂返済期間を最長3年間延長 |
なお、住宅等に被害を受け、新たに財形持家転貸融資の申込みをされる場合には、貸付金利引下げ等の措置も受けられます。
労働保険料等の申告・納期限等の延長と納付猶予制度
石川県および富山県に所在地のある事業場の事業主等は、労働保険料等の申告・納期限等が延長されます。令和6年1月1日以降の労働保険料等に関する申告書の提出、納付、徴収に関する期限が対象です。
なお、申告・納期限等の延長期限については、決まり次第告知されます。
さらに事業財産に相当の損失(おおむね20%以上)を受けた事業場の事業主は、労働保険料・一般拠出金の納付も原則として1年以内の期間猶予が受けられます。
納付の猶予が認められると、猶予期間中の延滞金が免除され、財産の差押えや換価(売却)が猶予されます。
納付猶予制度の利用には申請が必要です。管轄の都道府県労働局にご相談ください。
雇用保険の特例措置
事業所が災害により休止・廃止したために労働者に休業手当を含む賃金を支払うことができない場合、実際に離職していない、または一時的な離職の場合であっても、労働者は失業給付を受給することができます。ただし、以下の点に留意してください。
■この特例措置を利用して失業給付の支給を受けた場合、休業等が終了して雇用保険被保険者資格を取得しても、当該休業等の前の雇用保険の被保険者であった期間は通算されません。 |
■再び就業することになった場合、またはこの特例の実施期限(令和6年12月31日)には、改めて「雇用保険被保険者資格取得届」の提出が必要です。 |
詳しくは最寄りの公共職業安定所にご相談ください。
技能実習の継続が困難等になった場合の手続等
被災地で技能実習を行っていた外国人技能実習生に対しては、外国人技能実習機構本部、富山支所および長野支所に特別相談窓口が設置されました。技能実習の中断や技能実習計画の変更などの相談が可能です。
また出入国在留管理庁では、該当期間が経過した後には所属機関での活動を再開することが見込まれる技能実習生等に、一定の期間、資格外活動許可を付与する特例措置を開始しています。
資格外活動許可の詳細は、以下のとおりです。
内容 | 1日あたり8時間以内の収入を伴う事業を運営する活動・報酬を受ける活動 |
期限 | 許可日から3か月です。ただし、許可期限が令和6年6月30日を超える場合は、同日が期限となります |
なお、資格外活動を行ったことで技能実習の終期が変更となった場合、それが3月を超えない場合であれば、特例的に技能実習計画の変更認定の申請等が不要です。
能登半島地震|助成金の特例措置
被災地の事業者においては、一部の助成金に特例が設置されました。ここでは「雇用調整助成金」と「人材開発支援助成金」の特例措置について見ていきましょう。
雇用調整助成金の特例措置
対象 |
地震に伴う経済上の理由により休業、教育訓練または出向を行う事業主 |
内容 |
休業等の初日が令和6年1月1日から令和6年6月30日までの間にある場合、 ①生産指標の確認期間を3か月から1か月に短縮します。 最近1か月の販売量、売上高等の事業活動を示す指標(生産指標)が、前年同期に比べ10%以上減少していれば、生産指標の要件を満たします。 ②最近3か月の雇用量が、対前年比で増加していても助成対象とします。 ③災害発生時に事業所設置後1年未満の事業主についても、助成対象とします。 災害発生時において雇用保険適用事業所設置後1年未満の事業主については、生産指標を災害発生時直前の指標と比較します。 ④計画届の事後提出も可能です。 |
人材開発支援助成金の特例措置等について
被災により助成金の申請が困難な場合は、申請期限の猶予があります。また、地震の発生前から開始していた訓練については、被災により訓練の修了が困難となっても助成できる場合があります。
詳しくは管轄の労働局までご相談ください。
令和6年能登半島地震の影響を受けた新規学校卒業者等の就職・採用に関する相談窓口
地震の影響により就職活動等に支障が生じた学生・生徒や、新規学校卒業者等の採用選考活動に支障が出ている事業主にも、支援が発表されています。
金沢新卒応援ハローワークには専用の相談窓口として、「学生等震災特別相談窓口」が設置されています。また、全国のハローワークにおいても、同様の相談が可能です。
具体的な支援メニューは、以下のとおりです。
①震災の影響により就職活動に影響を受けた方の相談 |
・交通手段が遮断され会社の指定した入社日に出社出来ない ・内定先との連絡が取れない ・エントリーシート等の提出や採用選考活動への参加が出来なくなった など |
②震災の影響により採用内定の取消し等を受けた方の相談 |
・会社から、採用内定を取消すと言われた ・しばらく入社は待ってくれと言われた ・採用はするがしばらく家で待機していて欲しいと言われた など |
事業主への確認や、就職支援ナビゲーターによるマンツーマンの就職相談が実施されます。
能登半島地震|年金(国民年金保険料の免除・厚生年金保険料の納付の猶予等)
日本年金機構では、令和6年能登半島地震により財産に被害を受けた国民年金の被保険者・事業主を対象に、国民年金保険料の免除・厚生年金保険料の納付の猶予等のご相談に応じる専用ダイヤルを設置しました。
被災者専用フリーダイヤル
0120-808-678
また、国民年金保険料(第1号被保険者の保険料)については、納付が困難と承認された場合には、保険料の全額が免除される制度(特例免除)があります。
対象となるのは、災害により被災し、住宅、家財その他の財産について、おおむね1/2以上の損害を受けられた方です。
免除される期間等は、以下のとおりです。
■免除期間
令和5年11月分から令和8年6月分まで
なお、免除申請は年度単位で行います。現時点では令和5年度申請(令和5年11月分から令和6年6月分まで)を行い、令和6年度申請(令和6年7月分から令和7年6月分まで)については令和6年7月以降に、令和7年度申請(令和7年7月分から令和8年6月分まで)については令和7年7月以降にあらためて手続きしてくださぃ。
また、保険料が免除された期間は、10年以内であれば追納が可能です。追納すると保険料を納付した場合と同じとなります。
ただし、保険料免除期間の翌年度から起算して3年度目以降に保険料を追納する場合、当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされますので、ご注意ください。
まとめ
突然の災害時には、安全な生活を取り戻すことに精一杯で、雇用や年金のことまで頭が回らないかもしれません。しかししばらく時間が経ち、今後の生活の立て直しや住居について考え始めたときには、事業主として労働者の保護を考えなくてはなません。
また、保険証などを紛失した場合には、病院で医療行為を受けるのに困る人もいるでしょう。新卒の学生・生徒にとっては就職活動も大きな問題です。
こうした課題を乗り越えるため、国の支援や特例制度を頼ってください。必要な場合には自治体や国の担当者に相談し、必要な支援を紹介してもらうこともおすすめです。
大変な時期だからこそ、国や人を頼り、支援を受けて、これからのことを少しずつ考えていきましょう。