東京都内では近年、揮発性有機化合物(以下「VOC」とします)の排出による大気汚染が問題となっています。VOC排出抑制対策が求められる中、VOCを取り扱う都内の中小企業等では、対策への取り組みが遅れている傾向にあります。
そんな中東京都では、補助金の交付を受けながら大気環境改善に貢献でき、かつ企業にもあらゆるメリットをもたらす「省エネ型VOC排出削減設備導入促進事業」を実施しています。都内でVOCを排出する事業に携わっており、社内の作業環境や経営状態をより良くしたいとお考えの対象事業者は、ぜひ参考にしてください。
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この記事の目次
光化学オキシダントによる影響と企業が抱える課題
東京都ではこれまであらゆる大気汚染対策を実施しており、その結果大気環境は大幅な改善を見せています。しかし、光化学オキシダントの環境基準に関してはいまだ目標を達成できておらず、人の健康や生活環境への被害を防ぐための取り組みが急務です。
光化学オキシダントが及ぼす問題
「光化学オキシダント」とは、VOCが窒素酸化物と強い紫外線を受けることで化学反応を起こし、新たに作り出される物質です。
- VOC:トルエン、キシレン、酢酸エチルなど、主なものは約200種類あります。塗料、接着剤、インク等に溶剤として含まれます。
- 窒素酸化物:物が高温度で燃えた際に、空気中の窒素と酸素が結びついて発生する一酸化窒素や二酸化窒素のことです。発生源は工場、火力発電所、自動車、家庭などさまざまですが、東京の都市部では自動車から排出される割合が全体の半分以上を占めています。
光化学オキシダントの濃度が上がると、白いモヤがかかったような状態(光化学スモッグ)になります。光化学スモッグが発生すると目がチカチカしたり、のどの痛み・頭痛を引き起こしたりなど、人体に悪影響を及ぼします。
出典:環境省 揮発性有機化合物について
過去にも光化学スモッグが問題となり「光化学オキシダントの注意報・警報発令日」の増加が見られました。しかし近年、この注意報・警報発令日が再び増えている傾向にあるため、VOCの排出抑制対策が求められています。
出典:環境省 揮発性有機化合物について
石油製品高騰によるVOC取扱企業への影響
昨今では、コロナ禍やウクライナ侵攻による影響で石油製品が高騰し、石油由来でありVOCを含んだ洗浄剤や溶剤の値上げが続いています。
これらを使っているVOC取扱事業所においては、原材料の効率的な使用、大気環境改善を目的としたVOC排出削減、気候変動対策としての脱炭素などが求められています。しかしその一方、原材料の高騰により中小企業等は経営状態が悪化しているため、設備の改善や更新については後回しになっているのが現状です。
このような状況を踏まえ、都内の中小規模事業者に対し、大気環境改善のための設備導入を支援する取り組みが重要です。
省エネ型VOC排出削減設備導入促進事業の内容
「省エネ型VOC排出削減設備導入促進事業」とは、脱炭素への取り組み強化とVOC排出抑制を両立させるため、都内でVOCを取り扱う中小企業者等を支援する制度です。省エネ等の脱炭素やVOC削減に貢献する設備を導入する際、必要な費用の一部を補助します。
補助対象事業者
下記の要件を満たす都内の「中小企業者等」並びに「個人事業主」を補助対象とします。
◆VOCを排出する下記のいずれかの作業を継続的に行っている。
- 工場内塗装(工業塗装並びに自動車板金塗装のみとします)
- 印刷
- ドライクリーニング
◆補助対象設備を導入する事業所において、本事業の実施によるVOC削減並びに省エネ効果に関して都へ報告する。また、都のVOC削減設備の普及促進に貢献するため、必要な調査に協力する。
※下記の項目に該当する事業者は補助対象外とします。
- 暴力団、暴力団員等(暴力団員等に該当する者が代表者役員もしくは使用人、その他従業員、構成員等の中にいる場合も含みます)
- 本事業の補助対象事業と同一内容の補助金等を、国その他の団体(区市町村を除きます)から交付されている、もしくは交付を受けることが決まっている。
- 法令に則った必要な許可の取得もしくは届出を行っていない。
- 滞納している税金がある。
- 刑事上の処分を受けている。
- その他、公的資金の交付先として社会通念上適切でないとみなされる者。
- 国もしくは地方公共団体の出資を受けている。
補助対象設備
下記に掲げる「VOC排出削減設備」並びに「VOC削減装置付空調・換気設備」を補助対象とします。
(1)共通事項
- 未使用品である。
- リース品ではない。
- 原材料もしくは消耗品でない。
(2)VOC排出削減設備
下記表に示すものが対象です。ただし、東京都が派遣する「東京都VOC対策アドバイザー」からVOC排出削減効果があると助言され、かつその内容を東京都へ報告した設備に関しては、下記表とは無関係に補助対象設備として認められます。
【共通】
種別 | 要件 |
排ガス処理装置 | VOCを含む排気の処理を目的として設置するものとする。 |
局所排気装置 | 他のVOC排出削減設備を稼働させるため、もしくは原材料を低VOC製品に変更する際に必要となるため、導入されるものとする。 |
溶剤回収装置 | VOCを含む溶剤を回収する装置とする。 |
溶剤再生装置 | 回収したVOCを含む溶剤を再生する装置とする。 |
簡易VOC測定機 | 設備もしくは施設の点検等に関して使用するものに限る。 |
【工場内塗装】
種別 | 要件 |
スプレーガン | 既存品に比べ塗着効率が上がるもの、もしくは塗装材料を低VOC製品に変更する目的で導入するものとする。 |
塗装ブース | 下記のいずれかとします。 ①排ガス処理装置をその構成要素として前もって備えるものである。 ②別個独立の排ガス処理装置と一体的に接続されると明瞭なものである。 ③塗装材料を水性塗料へ変更する目的で導入されるものである。 |
塗料供給配管 | 塗装材料をVOC製品へ変更する目的で導入が必要なものである。 |
スプレーガン洗浄機 | 密閉しスプレーガンを洗浄する構造のものとする。 |
乾燥機(工場内塗装) | 塗装材料を低VOC製品に変更する目的で導入が必要になるものとする。 ※既存設備の構成要素を一部追加変更する場合も含みます。 |
【印刷】
種別 | 要件 |
印刷機 乾燥機(印刷) |
印刷用として使用する材料を、低VOC製品に変更する目的で導入が必要になるものとする。 ※既存設備の構成要素を一部追加変更する場合も含みます。 |
【ドライクリーニング】
種別 | 要件 |
ホットドライ機 | 「DHシリーズ(TOSEi)」が対象です。(※) |
乾燥機(ドライクリーニング) | 下記に示す型番の機器が対象です。(※) ①HRDシリーズ(TOSEi) ②QDFシリーズ(TOSEi) ③VR-223D(山本製作所) |
(※)VOCの削減が可能と公的機関等がみなすものに関しては、上記表の限りではありません
(3)VOC削減装置付空調・換気設備
下記表に示す、換気・空調設備にVOCを吸着捕集するフィルターを組み合わせたもののみが対象です。
※VOCを吸着捕集するフィルターに関しては、公的な証明書もしくは計量証明を受けた測定結果の添付が必須です。
【換気設備】
種別 | 要件 |
高効率換気設備 | 比消費電力 0.4W/(㎥/h)以下のものとする。 |
熱交換型換気設備 | JIS B 8628 に定められているもの、もしくは熱交換率が40%以上のものとする。 |
【空調設備】
種別 | 要件 |
電気式パッケージ形空調機 | 導入推奨機器指定要綱のエアコンディショナーの指定基準に達するもの、もしくはクレジット算定ガイドラインの高効率パッケージ形空調機の認定基準に達するものとする。 |
ガスヒートポンプ式空調機 | 導入推奨機器指定要綱のガスヒートポンプ式冷暖房機の指定基準に達するもの、もしくはクレジット算定ガイドラインの高効率パッケージ形空調機の認定基準に達するものとする。 |
中央熱源式空調機 | クレジット算定ガイドラインの高効率熱源機器、高効率冷却塔、高効率空調用ポンプの認定基準に達するものとする。 |
ルームエアコン | JIS C9901(目標年度2010年度)に則った省エネルギー基準達成率が114%以上であるものとする。 |
補助対象事業
下記の要件に該当するものが対象です。
- 補助対象事業者が、補助対象設備で規定されているVOC排出削減設備もしくはVOC削減装置付空調・換気設備を都内の事業所で導入し、その設備を「工場内塗装」「印刷」「ドライクリーニング」のいずれかで使用するものとします。
- VOC排出削減設備に関しては、導入により大気中へのVOC排出量が削減すると見込まれる必要があります。また、VOC削減機能付空調・換気設備においては、この効果とともにVOCに関する作業環境改善効果や省エネ化の見通しも必要です。
補助対象経費
- 設計費
- 設備費(例:VOC排出削減設備、VOC削減装置付空調・換気設備等)
- 工事費(例:労務費、材料費、機器搬入費、基礎工事に要した費用等)
- 処分費(例:既存設備の撤去・処分に要した工事費用)
補助対象外経費
- 過剰と判断される
- 予備又は将来用である
- 補助対象事業以外での使用が目的である
- その他、補助対象事業を行う上で直接関わりがない経費
例:安全対策費、土地の取得・賃貸・管理に必要な費用、共通仮設費、現場管理費、運搬費、租税公課、保険料、福利厚生費、事務用品費 等
補助金交付額
補助対象設備1台ごとの補助対象経費の2/3(上限2,000万円/台)
申請方法
【公募期間】
交付申請受付期間(令和4年度):令和4年11月30日から令和5年3月31まで
※令和5年度交付申請受付期間は後日公表されます。
事業期間:令和5年度まで(補助金の交付は令和6年度まで)
申請書類の提出方法
電子メールもしくは郵送
必要書類
申請に必要な書類は、クール・ネット東京 東京都地球温暖化防止活動推進センターの「様式ダウンロード」から入手できます。
- 申請書類チェックリスト
- 補助金交付申請書
- 誓約書
- 事業実施計画書
- 補助事業経費内訳
- 内訳明細表
- 見積比較表
- VOC削減率計算書
- 電力削減計画書
- 商業登記簿謄本
- 印鑑証明書
- 見積書の写し
- 自社製品の調達等に関する経費の算定根拠
- 敷地内平面図
- 設備配置図
- 特記仕様書もしくはカタログ等
- フィルター性能の証明書
- 空調設備の要件が確認可能な証憑
- その他公社が必要とみなす書類
省エネ型VOC排出削減設備導入促進事業活用によるメリット
【コストを削減できる】
溶剤や原料の無駄な蒸発を防止することで、原材料費の削減に繋がります。また廃溶剤の発生量が減るため、廃棄物処理費も削減できます。さらには、燃焼施設のエネルギーの一部としても利用可能です。
【作業環境を改善できる】
作業場に漏れるVOCを削減すれば従業員の健康保持に貢献できるほか、作業場をきれいに保てば従業員の作業意欲向上も期待できます。
【企業の社会的評価が向上する】
大気汚染防止に貢献すれば、環境対策への取り組みに積極的な企業であることをアピールでき、企業の社会的評価が上がります。その結果、取引先からの信頼が高まったり、新たな人材を確保しやすくなったりするでしょう。
まとめ
コロナ禍やウクライナ侵攻は収束の目途が立たず、原油価格高騰がいつまで続くのか現時点では見通しがつきません。大企業に比べ経営基盤が弱い中小企業は、現状を改善する適切な取り組みを行わなければ、企業収益が圧迫される一方です。
「省エネ型VOC排出削減設備導入促進事業」を利用し必要な設備を導入すれば、VOC排出削減に貢献できるだけでなく、コスト削減や作業環境改善なども期待できます。厳しい経営状態に追い込まれている都内のVOC取扱事業者は、ぜひ本事業の活用を検討してみてはいかがでしょうか。