奨学金を活用して大学へ進学した学生が、卒業後、その返還に苦しむ事例が問題となっています。労働者福祉中央協議会が行った調査では、奨学金の返済が結婚や出産といったライフイベントに影響を及ぼしていると回答した人は3割から4割に上ります。
東京都は、こうした若者の奨学金返還費用を企業と協力して補助する「中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業」を設置しています。これは企業側にとっては、若い人材の確保につながる支援です。
今回は中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業の概要や期待される効果について、お伝えしていきます。
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この記事の目次
人材確保の必要性
ポスト・コロナへの移行に伴い、人の動きや経済活動が活発したことで、中小企業では人材不足が深刻化しています。優秀な人材の確保には、職場や労働条件の環境整備が不可欠です。しかしコロナ禍の影響や物価高が続くいま、企業の業績回復はまだ十分とは言えません。多くの企業は、人材確保のための環境を整備するだけの余力がないのが現状です。
一方で、優秀な人材確保は、中小企業の成長と将来展望において非常に重要な要素です。優れた人材を確保することは、新しいスキルと知識を取り入れることです。変化する社会的ニーズを柔軟にとらえるためにも、特に若い人材を採用することは、持続可能な成長を実現する基盤となります。
時代の変化は、新しいビジネスチャンスでもあります。いま、中小企業は業績回復と未来への成長という、2つの課題を同時に考えなくてはいけない時代になっているのです。
中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業とは
中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業は、奨学金の貸与を受けている大学生等が都内中小企業等に技術者として就職した場合に、奨学金返還費用相当額の一部を3年間にわたって助成する事業です。中小企業等と東京都が、助成費用の1/2ずつを負担します。これは都内の中小企業等の、中核人材となりうる若者の確保と定着を支援することを目的とするものです。
登録した学生が登録企業へ就職し、1年以上継続して勤務すると、支給申請ができるようになります。
事業全体の流れについては、以下の図も参照してください。
出典:令和5年度奨学金返還支援事業 登録企業募集チラシ
対象となる中小企業等
対象となる企業は、以下のいずれかに該当する必要があります。
・本社または主たる事業所が東京都内にある中小企業等
・大学生等を東京都内の事業所等で勤務させることを条件に採用する中小企業等
中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業の登録対象となる企業の主な要件は、以下の①~④です。
対象となる中小企業等 |
①企業情報や本事業での支援内容を、本事業の報告・改善等の必要な範囲において東京都と共有することに同意すること |
②将来の中核人材となりうる大学生等の採用を希望し、育成をする計画があること |
➂以下の業種を営む企業で、「研究・技術の職業」での大学生等の採用を希望していること 【業種】 ■建設業 ■学術研究、専門・技術サービス業のうち、技術サービス業(他に分類されないもの)の建築設計業または測量業 ■情報通信業のうち、日本標準産業分類における情報サービス業またはインターネット附随サービス業 ■製造業 |
④次の要件を全て満たすこと。 ■過去5年間に、重大な法令違反がないこと ■宗教活動や政治活動を主たる目的とする団体等でないこと ■風俗営業者や、暴力団関係者等でないこと ■税金の滞納がないこと ■公正な採用選考を行っていること ■その他、財団理事長が不適切と認める事項に該当しないこと |
助成の対象となるのは、建設やものづくりなど、特に人手不足が深刻化している業種です。また、今後ますますの発展が期待されるIT分野も支援対象になっています。本事業は、人々の生活基盤や将来的な経済発展に大きく関わる企業を中心に支援する制度と言えそうです。
企業登録の要件と登録者の要件
本事業に登録するには、さらに企業・学生の双方に要件が設定されています。それぞれの主な要件は、以下のとおりです。
企業登録要件 |
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①規定に従い、該当の登録者の奨学金返還補助のため、財団が設置する基金へ3年間出えんすることを確約できること ②就業規則を作成し、労働基準監督署に届出を行っていること ➂本事業の奨学金返還支援制度の対象となること等を明示したうえで、原則3人までの専用の求人枠(専用枠)を設けて求人を行うこと ④本事業を適用せずに専用枠に応募した大学生等を採用する場合は、必ず本人の同意を得ること ⑤本事業に係る手続きについて対応を求められた場合には、誠実かつ速やかに対応すること ⑥賃金や労働時間等に関する労働関係法令を遵守していること |
登録者要件 |
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①次のいずれかに該当し、登録企業に正規雇用労働者として就職を希望している者 ■短大を除く大学、大学院、大学校若しくは高等専門学校を、令和6年3月31日(日)までに卒業・修了予定の者 ■大学等を卒業・修了後3年以内の者 ■大学等を卒業・修了しており、かつ、満30歳未満の者 ②次のいずれかの奨学金の貸与を受けている者 ■独立行政法人日本学生支援機構の第一種奨学金または第二種奨学金 ■その他財団理事長が認める公的機関実施の貸与型奨学金 ➂他の制度による奨学金の返還支援や返還額の減額、免除等を受けていない者 ④暴力団員等でないこと ⑤その他財団理事長が不適切と認める事項に該当しないこと |
登録申込から奨学金返還までの流れ
登録申し込みから奨学金返還までの流れは、以下のとおりです。
企業等登録申込から採用選考まで
■専用サイトに企業情報を掲載する
財団の審査後、登録が決定した場合は、財団が専用サイトにて大学生等に向けた企業紹介用のコンテンツを発信します。本事業の委託事業者と相談のうえ、掲載準備を行ってください。
■大学生等を採用する
登録要件を満たす大学生等が採用選考に合格した場合、内定通知を行います。その際、財団へ指定様式にて報告してください。また、採用選考の際、大学生等へ以下の内容を必ず伝達する必要があります。
・本事業の内容
・登録の有無
採用時に未登録の大学生等は、助成対象になりません。未登録の大学生等へは速やかに登録作業を行うよう、伝達してください。
・専用枠の採用人数を超過した場合、助成が適用されない場合があること
なお、専用枠の採用人数を満たすまでは、必ず本事業を適用して採用してください。
登録者の採用以降
登録者が登録企業へ就職し1年間勤務した後、登録者本人からの申請を確認したうえで、財団が助成手続きを行います。
出えん
大学生等への出えんは、企業が申請した額と同額を東京都が負担します。金額や出えん時期の詳細は、以下のとおりです。
出えん額
出えん額は、以下のなかから希望するものを、申請時に選択してください。登録申込後の変更はできません。
■15万円(5万円/年)
■36万円(12万円/年)
■75万円(25万円/年)
たとえば15万円を選択した場合、東京都からの補助を加算した30万円が、登録者への助成額となります。ただし、選択した金額以下であっても、登録者の奨学金返還残額が上限額です。
出えん期間
登録者が就職して1年間勤務した後、3年間にわたり毎年出えんします。
出えん時期
登録者を採用してから1年が経過後、登録企業から基金へ出えんしてください。
登録申込方法
企業登録は郵送で行われます。宛先や締め切り、必要な書類などをまとめました。
申請方法
以下の宛先に、必要書類を郵送してくださぃ。
〒102-0072
東京都千代田区飯田橋3-8-5
住友不動産飯田橋駅前ビル11階
公益財団法人東京しごと財団 企業支援部 雇用環境整備課 採用定着促進支援担当 係
なお令和4年度の登録企業については、登録内容に変更がなければ、提出書類の一部を省略することが可能です。
申込書類
申請に必要な書類は、以下のとおりです。
■中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業企業登録申込書 |
■誓約書 |
■法人登記の履歴事項全部証明書の原本 ・個人事業主の場合 個人事業の開業・廃業届出書の写し |
■東京都の都税に係る納税証明書の原本 ・法人の場合 ①法人都民税 ②法人事業税 ・個人事業主の場合 ①個人都民税 ②個人事業税 |
■登録企業の概要(企業等の概要が分かる会社案内、パンフレット等の資料) |
受付期間
受付期間は、令和5年2月8日(水)~令和5年12月20日(水)17時必着です。審査と登録決定は、順次行われます。
注意事項
申請にあたっては、以下の点に留意してください。
申請の注意点 |
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①以下の場合は、申請取り消しとなります。 ■登録申込時の申告内容等に虚偽の記述があったとき ■各種要件を満たさないことが明らかになったとき ■登録企業として著しく不適切であると認められる状態に至ったとき ■その他、登録企業としてふさわしくないと財団理事長が認めたとき ②登録決定後、本事業の専用枠での採用がない場合には出えんは発生しません。 ➂登録企業からの出えんが確認できない場合は、基金からの支出は行われません。 ④登録者が返還を免除された場合には、その時点で助成取消となります。 |
登録申込以降の通知・手続き等
申請の際に必要な提出書類や申請方法等は、別途通達されます。
奨学金返還支援事業の期待効果
奨学金返済額は、月数万円と言われます。一方で、「令和4年賃金構造基本統計調査」で公表された新規学卒 (大学) の賃金は、22万8,500円です。手取りでは、約14万円程度と推測されます。
働き始めたばかりの若者にとって、奨学金の返済は大きな負担です。それを助成することは、彼らの将来的なライフプランにも影響を与えます。若い人材が定着し、企業の成長に貢献することは、企業にとっても大きなメリットです。
中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業では、建築・ものづくり・ITの分野が助成の対象となります。こうした分野へ人材が定着することで、社会全体を活性化させることも期待されます。
中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業を活用し、若者の経済的な課題解決を支えることは、すべての人の持続可能な生活を支援することにもつながるのです。
まとめ
日本学生支援機構の「令和2年度 学生生活調査」では、49.6%の大学生が奨学金を利用していることが明らかになりました。大学生の約半数が奨学金を利用する背景には、不安定な社会情勢やコロナ禍による家計への影響も指摘されています。
奨学金の多くには、返還義務があります。社会に出た瞬間から借金を背負った状態にある若者は、人生設計にもその影響を受け続けることになるのです。そうした負担を軽減し、未来ある若者とともに成長していこうとする企業は、ぜひ中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業を活用してください。
若い人材は、将来の企業の財産です。補助事業を上手に活用し、企業と、若い労働者の未来を支えていきましょう。