建設・IT・ものづくり分野の技術者採用に頭を悩ませる中小企業経営者・人事担当者は少なくありません。日本商工会議所と東京商工会議所が2025年10月に公表した「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」では、中小企業の66.4%が人手不足の状態にあると回答しており、業種別では建設業81.2%、情報通信・情報サービス業70.6%と、まさに技術系分野で不足感が突出しています。
一方、日本学生支援機構(JASSO)「令和4年度学生生活調査」によれば、大学昼間部学生の55.0%が何らかの奨学金を利用しており、卒業と同時に数百万円規模の返還を背負う若者は珍しくありません。
こうした「採用したい中小企業」と「奨学金返還負担を減らしたい若者」の双方を後押しするのが、東京都と公益財団法人東京しごと財団が実施する「中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業」です。令和8年度は最大225万円(3年間合計)の奨学金返還助成が受けられ、登録者の年齢要件も従来の「満30歳未満」から「満35歳未満」へ拡大されました。
この記事では、令和8年度の中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業について、制度概要・企業負担額・登録要件・申込方法までを、企業の採用担当者向けに整理して解説します。
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この記事の目次
中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業とは?令和8年度の制度概要
中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業は、都内中小企業が奨学金を借りている大学生等を技術者として採用した場合に、東京都と企業が折半で奨学金返還費用を助成する制度です。令和8年度は、企業と東京しごと財団がそれぞれ同額を負担し、最大3年間にわたって助成金を支給します。
助成金は財団から奨学金貸与団体(JASSOなど)へ直接支払われる「代理返還方式」を採用しているため、登録者本人の手を経由せず確実に返還残額を減らせる仕組みです。
・実施主体:東京都/公益財団法人東京しごと財団
・対象業種:建設業、IT(情報サービス業・インターネット附随サービス業)、ものづくり(製造業)
・対象職種:厚生労働省編職業分類「02 研究・技術の職業」
・企業負担額と同額を東京都(財団)が負担
・助成期間:最大3年間
・専用枠での採用人数:1社あたり1年度3名まで
・企業登録募集期間:令和8年2月5日~令和8年12月17日17時必着
制度の目的:中核技術者の確保と若者の負担軽減
本事業の目的は、将来的に企業の中核を担う若手技術者の採用と定着を、奨学金返還支援を通じて後押しすることです。建設・IT・ものづくりという、日本の産業基盤を支える3分野に対象を絞っている点が特徴です。
企業側から見れば、大手企業との採用競争で不利になりがちな中小企業が、「奨学金返還を肩代わりする」というインセンティブを提示することで求人票の差別化を図れます。学生側から見れば、奨学金返還負担を気にせずキャリアの初期を過ごせる安心材料となります。
令和8年度からの主な変更点
令和8年度の募集要項(令和8年4月9日改正版)における前年度からの主な変更点は次の通りです。
■登録者の年齢要件が「満35歳未満」に拡大
従来「大学等卒業後3年以内かつ満30歳未満」だった年齢要件が、「登録申込日時点で満35歳未満」まで拡大されました。第二新卒層やキャリアチェンジ人材まで対象範囲が広がったことで、企業の採用可能性が大きく広がっています。
■対象奨学金の範囲拡大
JASSOの第一種・第二種奨学金に加え、東京都福祉局の「母子及び父子福祉資金」「女性福祉資金」のうち「修学資金」「就学支度資金」も対象に加わりました(連帯借受人の有無を問わない)。
■電子申請(Jグランツ)に対応
郵送に加え、デジタル庁が提供する電子申請システム「Jグランツ」による申込が可能になりました。GビズIDプライムの取得が必要です。
対象となる企業・登録者の要件を解説
本事業に登録できるのは、東京都内の中小企業等で、建設・IT・ものづくりの3分野で技術者採用を希望する事業者です。ここでは企業側と登録者(学生等)側それぞれの要件を整理します。対象企業の要件
以下の6要件をすべて満たす中小企業等が登録対象となります。
| 令和8年度 対象企業の主な要件 | |
|---|---|
| ①所在要件 | 本社または主たる事業所が東京都内にある、または大学生等を東京都内の事業所で勤務させることを条件に採用する中小企業等 |
| ②業種要件 | 建設業(D)、情報サービス業・インターネット附随サービス業(G39・40)、製造業(E)、技術サービス業のうち建築設計業・測量業(L7421・7422)のいずれか |
| ③職種要件 | 厚生労働省編職業分類「02 研究・技術の職業」の職種で新卒・若手技術者採用を希望・育成計画があること |
| ④就業規則 | 就業規則を作成し労働基準監督署に届出済み(従業員10人未満は届出または定めていること) |
| ⑤法令遵守 | 過去5年間に労働関係法令等を含む重大な法令違反がないこと、都税滞納がないこと、暴力団関係でないこと等 |
| ⑥公正採用 | 公正な採用選考を行っていること |
対象は資本金または常時使用する従業員数の要件を満たす中小企業基本法上の中小企業等です。会社法上の会社、一般社団・財団法人、個人事業主のいずれも申込可能です。
登録者(大学生等)の要件
本事業を通じて奨学金返還支援を受けられる登録者は、次の要件をすべて満たす方です。
| 令和8年度 登録者の主な要件 | |
|---|---|
| ①身分要件 | 次のいずれかに該当し、登録企業に正規雇用の技術者として就職を希望する者 ア.令和9年3月31日までに大学(短大除く)・大学院・4年制大学相当以上の大学校・高等専門学校専攻科を卒業/修了予定 イ.登録申込日時点で大学等を卒業/修了しており、満35歳未満 ウ.登録申込日時点で大学等を卒業/修了後3年以内 |
| ②奨学金要件 | 次のいずれかの奨学金の貸与を受けている者 ア.JASSOの第一種または第二種奨学金 イ.代理返還制度を実施している公的機関の貸与型奨学金で財団理事長が認めるもの(東京都福祉局の母子及び父子福祉資金、女性福祉資金の修学資金・就学支度資金を含む) |
| ③その他 | 他の制度による奨学金返還免除等を受けていないこと、暴力団員等でないこと |
満35歳未満まで対象が広がったことで、第二新卒・キャリアチェンジ人材の採用にも本事業を活用できる点は、令和8年度の大きな武器と言えます。
専用枠での採用人数と期限
専用枠での採用人数は1社1年度あたり最大3名です。専用枠での採用日期限は「登録通知日から令和9年4月1日まで」となっています。登録後の採用人数変更や企業負担額の変更は原則できないため、申込前に採用計画をしっかり詰めることが重要です。
企業負担額と助成金額はいくら?4コースの内容を解説
令和8年度の中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業では、企業が登録申込時に4つのコース(ア〜エ)から負担額を選択します。企業負担額と同額を東京しごと財団が負担し、その合計額が登録者への助成金額となります。
| 令和8年度 企業負担金額と助成金額(1人あたり) | |||
|---|---|---|---|
| コース | 企業負担額(年額/3年合計) | 財団負担額(年額/3年合計) | 登録者への助成金額(年額/3年合計) |
| ア | 年5万円/15万円 | 年5万円/15万円 | 年10万円/30万円 |
| イ | 年12万円/36万円 | 年12万円/36万円 | 年24万円/72万円 |
| ウ | 年25万円/75万円 | 年25万円/75万円 | 年50万円/150万円 |
| エ(修士以上のみ追加選択可) | 年37.5万円/112.5万円 | 年37.5万円/112.5万円 | 年75万円/225万円 |
コースア・イ・ウのいずれかを必ず選択し、専用枠で採用する登録者が修士相当以上の学位を取得した者の場合に限り、任意でコースエを追加選択できます。大学院卒(修士以上)の技術者を採用する場合、1人あたり最大225万円の奨学金返還助成が可能という設計です。
助成金額の上限:奨学金返還残額を超える負担は不要
助成金支給申請日の属する月の前月末時点で、登録者の奨学金返還残額(利息分を除く)が選択したコースの年額を下回る場合、その残額(千円未満切り捨て)を財団と企業が2分の1ずつ負担します。奨学金の残高を超えて余分に負担することはないため、企業側にとっては安心して選択できる仕組みです。
企業負担が発生するタイミング
出えん金の請求は、専用枠で採用した登録者が採用日から1年間継続在籍した後、本人が助成金支給申請を行い、財団が停止条件付支給決定を通知した段階で行われます。
・登録企業が専用枠で登録者を採用しない場合、企業負担は一切発生しません。
・専用枠で採用した登録者が1年経過前に離職した場合、企業負担は発生しません。
・登録者が奨学金貸与団体の規定で返還を免除された時点で、助成は打ち切りとなります。
登録だけしておいて実際の採用に至らなくても費用は発生しないため、「まず登録して求人票に『奨学金返還支援制度あり』と明記できる状態を作る」ことがローリスクな運用戦略として有効です。
登録から助成金支給までの流れをステップで解説
中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業の企業側の流れは、大きく次の6ステップで進みます。
ステップ1:企業登録の申込・登録通知
募集要項を確認し、企業登録申込書(様式第1号)や誓約書(様式第2号)など必要書類を揃えて、郵送またはJグランツで申し込みます。財団が要件を審査し、要件を満たす場合は登録通知が発出されます。
ステップ2:専用サイトでの企業情報・求人情報の発信
登録通知後、東京しごと財団の委託事業者を通じて、専用サイト「tokyo-scholarship-support.jp」に企業情報・求人情報を掲載します。この専用枠で求人を出し、大学生等を採用します。
ステップ3:内定時・採用時の報告
専用枠での採用内定を出した場合、速やかに「内定/採用報告書(様式第5号)」を提出します。採用に至った場合は、採用日から原則1か月以内に「採用報告書」と「育成計画書(様式第6号)」に加え、「雇用保険被保険者資格取得等確認通知書」「雇用契約書等の写し」を提出します。
ステップ4:登録者の1年間継続在籍
専用枠で採用した登録者が採用日から1年間継続在籍し、助成金支給申請日時点で奨学金の延滞金がないことが、助成の前提条件となります。
ステップ5:在職証明書兼出えん等確認書の発行
登録者本人が助成金支給申請を行う際、企業側で「在職証明書兼出えん等確認書(助成金支給要綱様式第4号)」を発行します。登録者本人からの依頼に応じて発行してください。
ステップ6:出えん金の支出
財団が支給申請を審査し、停止条件付支給決定を通知した段階で、企業に企業負担金額の出えん請求が届きます。企業は期日までに出えん金を支出し、財団は代理返還方式で奨学金貸与団体に直接支払います。この出えんは1年ごとに合計3回、3年間にわたって繰り返されます。
申請スケジュールと申込方法まとめ
令和8年度の企業登録募集期間は令和8年2月5日(木)から令和8年12月17日(木)17時必着です。審査と登録決定は順次行われます。
申込方法:郵送とJグランツ電子申請の2種
申込方法は次の2つから選択可能です。
■郵送の場合
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋3-8-5 住友不動産飯田橋駅前ビル11階
公益財団法人 東京しごと財団 企業支援部 雇用環境整備課 採用定着促進支援係
中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業担当 宛
■Jグランツ電子申請の場合
デジタル庁が提供する電子申請システム「Jグランツ」から申込が可能です。利用にはGビズIDプライムアカウントが必要で、発行までに数週間かかる場合があるため、早めの準備が必要です。
提出書類
提出書類は次の5点です。令和7年度登録企業で内容変更がない場合、法人登記の履歴事項全部証明書と企業概要書類の提出を省略できる特例があります。
- ア.企業登録申込書(様式第1号)
- イ.誓約書(様式第2号)
- ウ.法人登記の履歴事項全部証明書の原本(発行日から3か月以内、個人事業主は開業届の写し等)
- エ.東京都の都税に係る納税証明書の原本(法人都民税・法人事業税)
- オ.企業の概要(会社案内・パンフレット等)
中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業に関するよくある質問
令和8年度の企業負担額は最大でいくらになりますか?
令和8年度の企業負担額は、コースア(年5万円)、イ(年12万円)、ウ(年25万円)の3コースから選択し、修士相当以上の学位取得者を採用する場合に限り、任意でコースエ(年37.5万円)を追加選択できます。3年間の企業負担額合計は最大112.5万円で、東京しごと財団が同額を負担するため、登録者への助成金は最大225万円となります。
登録者の年齢要件は何歳までですか?
令和8年度から登録者の年齢要件は「登録申込日時点で満35歳未満」に拡大されました。従来は満30歳未満でしたが、第二新卒層やキャリアチェンジ人材も対象となります。また、大学等を令和9年3月31日までに卒業・修了予定の者、卒業・修了後3年以内の者も対象です。
対象業種は何ですか?IT企業も対象になりますか?
対象業種は建設業、情報サービス業・インターネット附随サービス業(IT)、製造業(ものづくり)、および技術サービス業のうち建築設計業・測量業の4分野です。IT企業のうち、日本標準産業分類の「39.情報サービス業」または「40.インターネット附随サービス業」に該当する場合は対象となります。
対象になる職種は何ですか?
対象職種は厚生労働省編職業分類「02 研究・技術の職業」に該当する技術者です。具体的には自然科学系研究者、機械開発技術者、ソフトウェア開発技術者、ITシステム設計技術者、AIエンジニア、データサイエンティスト、建築設計技術者、土木施工管理技術者などが含まれます。営業職や事務職は対象外です。
1社あたり何名まで採用できますか?
専用枠での採用人数は1社あたり1年度3名までです。登録申込時に採用人数を決定し、登録後の変更は原則できません。専用枠で登録者を1名も採用しない場合、企業負担は発生しません。
申込方法はJグランツからの電子申請でも可能ですか?
令和8年度は郵送に加えJグランツによる電子申請にも対応しています。ただしJグランツを利用するには法人共通認証基盤GビズIDのアカウント(GビズIDプライム)の取得が必要です。GビズIDプライムの発行にはデジタル庁の審査があり数週間かかるため、余裕を持って準備してください。
対象となる奨学金の種類を教えてください
対象は独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の第一種奨学金または第二種奨学金です。加えて令和8年度は、東京都福祉局の「母子及び父子福祉資金」のうち「修学資金」「就学支度資金」(八王子市を除く)、東京都福祉局の「女性福祉資金」のうち「修学資金」「就学支度資金」(区部を除く)も対象に加わりました。これらは連帯借受人の有無を問いません。
助成金は誰にどのように支払われますか?
助成金は代理返還方式により、東京しごと財団から奨学金貸与団体(JASSO等)へ直接支払われます。登録者本人の口座を経由しないため、確実に奨学金返還残額を減らすことができます。原則として繰上返還方式で支払われます。
個人事業主でも申込できますか?
個人事業主も申込可能です。申込時には個人事業の開業・廃業届出書の写し、住民票記載事項証明書の原本(発行日から3か月以内、氏名・住所・生年月日記載)、個人都民税・個人事業税の納税証明書などが必要です。居住地と事業所地が異なる場合は両方の個人都民税証明書が必要です。
登録した後に採用ができなかった場合、費用は発生しますか?
専用枠で登録者を採用しなかった場合、企業側の費用負担は一切発生しません。また、専用枠で採用した登録者が1年経過前に離職した場合も企業負担は発生しません。企業負担が発生するのは、登録者が採用日から1年間継続在籍し、本人が助成金支給申請を行い、財団が停止条件付支給決定を通知した後です。
まとめ|令和8年度は年齢要件拡大とJグランツ対応で使いやすさが向上
中小企業人材確保のための奨学金返還支援事業は、東京都内の中小企業が建設・IT・ものづくり分野で技術者を採用する際に、奨学金返還費用の一部(大学院卒は最大3年で225万円)を助成する制度です。令和8年度は登録者の年齢要件が満35歳未満まで拡大され、対象奨学金に母子及び父子福祉資金・女性福祉資金が加わり、申込にはJグランツ電子申請も選択できるようになりました。
「登録だけしておく」ことで採用時の企業負担ゼロで求人票に「奨学金返還支援制度あり」と明記でき、他社との差別化を図ることが可能です。募集期間は令和8年12月17日17時までですが、優秀な学生ほど早期に内定を決める傾向があるため、令和8年春〜夏には登録を完了させておくのが望ましい運用です。
若手技術者の採用と定着に課題を抱える都内中小企業は、本事業の活用を検討してみてはいかがでしょうか。詳細な要件や様式は東京しごと財団の公式ページを必ずご確認ください。
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