令和元年、職場におけるパワーハラスメント防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが、事業主の義務となりました。これを踏まえて令和2年月に制定された「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」では、カスタマーハラスメント対策の必要性も明言されています。
顧客等による理不尽な要求に対して講じるべき対策は、業種や事例によって異なります。どんな対策を講じるべきか、専門家の助言が必要なケースもあるでしょう。
東京都では都内企業のカスタマーハラスメント対策を支援する「カスタマーハラスメント対策に向けた専門家派遣事業」が実施されています。
今回はカスタマーハラスメントの定義や具体例とともに、支援事業の詳細をお伝えします。
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この記事の目次
カスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメントとは、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為のことです。本来、顧客等からのクレーム・苦情は、それ自体に問題があるものではありません。しかし過剰な要求を行ったり、不当な言いがかりをつけたりするものは、従業員に過度な精神的ストレスを強いる悪質なものです。企業には、こうした迷惑行為から従業員を守り、正当な業務遂行を継続させる義務があります。
まずはカスタマーハラスメントの定義や現状について、見ていきましょう。
カスタマーハラスメントの定義
「ハラスメント」とは、広義には人間としての尊厳や権利を侵害する行為を指す言葉です。近年、企業における「セクシャルハラスメント」や「パワーハラスメント」など、さまざまなハラスメントが問題になっています。なかでもカスタマーハラスメントは、特に相談件数が増加傾向にあるものとして、注目を集めています。
カスタマーハラスメントは企業や業界によって対応方法・基準が異なりますが、厚生労働省の公表する「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、以下の考えが「カスタマーハラスメント」として提示されています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するめの手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの。(引用:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル)
「社会通念上不相当な言動」には、身体的・精神的な攻撃のほか、威圧的な言動や性的・差別的な言動などが該当します。また、「顧客等」には実際に商品・サービスを利用した者だけでなく、今後利用する可能性のある潜在的な顧客も含まれます。
カスタマーハラスメントの具体例
それでは、カスタマーハラスメントの事例について、もう少し具体的に見てみましょう。
厚生労働省の調査では、過去3年間に各ハラスメントに関する相談を受けた企業のうち「カスタマーハラスメントに該当する事案があった」と回答した企業は92.7%と、もっとも多くなりました。
また、該当件数の推移では、「増えた」割合が「減少した」割合を上回っています。
出典:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
さらにカスタマーハラスメントの内容では、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度のもの) 」が52.0%ともっとも高く、続いて「名誉棄損・侮辱・ひどい暴言」が46.9%となりました。
出典:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
直接的な暴力よりも過度なクレームや暴言によるものが多く、立場の弱い従業員側が我慢を強いられるケースもありそうです。実際には、さらに多くの迷惑行為が行われていると推測されます。
中小企業における影響
こうしたカスタマーハラスメントは企業の業務を直接的・間接的に妨害することがあるだけでなく、傷害罪や暴行罪に抵触する可能性もあります。
中小企業は、限られた人員とリソースで業務を行っています。顧客等による迷惑行為で過度な業務を強いられると、業績へも悪影響を及ぼします。また、こうした行為が原因で従業員のパフォーマンス力が低下すると、企業全体の基礎体力を削がれる結果となるのです。さらに規模の小さい店舗等では、悪質な顧客等の迷惑行為がほかの顧客離れを引き起こし、売り上げに深刻な影響を及ぼすこともあります。
日本では、昔から「お客様は神様」という概念が浸透していました。しかしこれは本来、客と事業者の間にある程度の関係性ができあがっていることを前提とした文化です。
また海外では、顧客とスタッフの立場は平等です。相応の態度で接しなければ、きちんとしたサービスは受けられません。ビジネスのグローバル化が進む現代においては、こうした認識のズレもトラブルにつながります。
カスタマーハラスメントへの対応は、中小企業における重要な課題のひとつとなっているのです。
東京都 専門家派遣事業の概要
カスタマーハラスメントに対応するには、企業としての姿勢を示さなくてはなりません。カスタマーハラスメントを受けた際の相談窓口や法的対応を明確にし、従業員が安心して働ける環境を整えることで、対外的にも迷惑行為を抑止することにつながります。
東京都のカスタマーハラスメント対策に向けた専門家派遣事業では、こうした対策に専門家の助言を受けることができます。支援の対象や内容について、確認していきましょう。
対象企業
支援の対象となる企業は、以下のとおりです。
カスタマーハラスメント対策を検討する中小企業者のうち、専門家派遣の必要が認められた者
ただし、東京都の「専門家派遣事業」、「政策課題対応型専門家派遣事業」、「原油価格高騰等課題解決に向けた専門家派遣事業」と併用することはできません。
支援内容
無料で派遣される中小企業診断士等の専門家から、カスタマーハラスメント対策の実行に向けた経営上の課題解決のためのアドバイスを受けます。専門家による支援は、1社あたり4回までです。オンラインでの実施も可能です。
ただし、個別のクレーム解決のための派遣は行われません。具体的な対策の例は、以下のとおりです。
事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発 |
正当なクレームとカスタマーハラスメントの識別基準策定 |
従業員のための相談対応体制の整備 |
対応方法、社内連携、通報手順等の手順の策定 |
社内対応ルールの従業員等への教育・研修 |
なお、「専門家派遣事業」は意思決定に対する助言を行うものであり、業務の代行は対象外です。最終判断は企業の責任にて行います。
また、受付は先着順です。予定件数に達した場合は、受付が締め切られます。
受付期間と派遣期間
受付期間と派遣期間は、以下のとおりです。
■受付期間
令和5年4月3日(月)~令和6年1月31日(水)まで
■派遣期間
派遣決定後~令和6年2月29日(木)まで
利用の流れ
申し込みは、ウェブサイトから行います。申し込みから事業完了までの流れは、以下のとおりです。
①利用申し込み
②詳細確認
➂派遣の決定
④専門家の派遣
⑤報告書提出
利用の流れについては、以下の図も参照してください。
出典:リーフレット
中小企業がカスタマーハラスメントに対応するには
カスタマーハラスメントは、事例によって必要な対応が異なります。ケースごとの臨機応変な対応が求められるため、研修プログラムや法的整備が難しいことが、課題のひとつです。
特に中小企業は、限られた人員と時間の中でこうした対応を行わなくてはなりません。
前述のとおり、厚生労働省ではカスタマーハラスメントへの対応マニュアルの公開や法整備などが進んでいます。しかし、公的な支援プログラムは、細かな事例まではカバーしきれません。
国の政策や支援がまだ完全ではない現状では、事業者が、職場や企業ごとの事情に合わせた環境整備に尽力する必要があります。
顧客等の迷惑行為によって従業員が心身に損傷を受けた場合、企業が安全配慮義務を問われることもあります。カスタマーハラスメントによるトラブルを防止するためには、適切なサポートが不可欠です。
補助金や専門家派遣などの支援を現場の需要にうまく結びつけ、改革を進めていきましょう。
まとめ
生活様式の変化に伴い、労働者の働き方や、消費者の行動にも大きな変化が生まれています。悪意ある顧客等の迷惑行為はもちろん、価値観の違いや誤解から、深刻なトラブルに発展することもあるかもしれません。
社会の変化にあわせ、どこまで顧客等の要望に応え、どこを限界と定めるかは、難しい問題です。専門家の助言を受け、法的解釈を支えとしたうえで、それぞれの事例にふさわしい判断を下す必要があります。カスタマーハラスメント対策を整備することは、顧客と企業のよりよい在り方について、考え直す機会ともなりそうです。