労働者の能力を向上させたい、事業の生産性を高めたい、優秀な人材を確保したい、そうお考えの事業主の皆さま「キャリアアップ助成金」はご存知ですか?労働者の正社員化、処遇改善などの取り組みを行う事業主を支援する制度で、助成コースは7つに分かれています。たとえば「賃金規定等共通化コース」では、最大120万円の助成金が交付されます。(中小企業で生産性の向上が認められる場合、対象労働者上限20人まで加算した条件で算出)
今回は、労働者の意欲向上につながり、事業主の皆さまにとっては人手不足や人材確保の対策ができる「賃金規定等共通化コース」について詳しくみていきましょう。
この記事の目次
そもそも、キャリアアップ助成金とは?
「キャリアアップ助成金」とは有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者などの非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善などの取り組みを行う事業主を支援する制度です。
大きく7つのコースに分かれており、基本的な申請の流れは、キャリアアップ計画を作成して、就業規則等を規定しそれに則り取り組みを行い、取り組み後6か月の賃金支払いが済んでから支給申請をするようになっています。
①正社員化コース
②賃金規定等改定コース
③健康診断制度コース
④賃金規定等共通化コース ←今回はここ
⑤諸手当制度共通化コース
⑥選択的適用拡大導入時処遇改善コース
⑦短時間労働者労働時間延長コース
今回は、この中の「賃金規定等共通化コース」のご紹介です。基本的なキャリアアップ助成金についてはこちらの記事で紹介。しております。
1.「賃金規定等共通化コース」とは
契約社員や派遣社員などの有期契約労働者等に関して、正社員と共通の職務を行った場合、同じ賃金を支払うといった賃金規定等を作成し、適用した際に交付される助成金です。
正社員と同一の等級に格付けされている契約社員や派遣社員の時給は、正社員の月給を時給換算した金額と同額以上であることが求められます。
中小企業の場合、1事業所あたり72万円(生産性の向上が認められる場合)が助成されます。この助成金は対象人数が増えることで、助成額が加算されます。共通化した2人目以降の有期契約労働者等が助成対象となります。1人あたり24,000円が助成され、上限は20人まで、最大で48万円が加算して助成されます。
中小企業の範囲は以下の通りです。
「キャリアアップ助成金パンフレット」P.3、42~43
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000527143.pdf
2、対象となる労働者は?
(1) 雇用期間について
労働協約または就業規則の定めるところにより、賃金に関する規定または賃金テーブル等(以下「賃金規定等」)を共通化した日の前日から起算して3か月以上前の日から、共通化後6か月以上の期間継続して、支給対象事業主に雇用されている者
(2) 等級について
正規雇用労働者と同一の区分に格付けされている者
※「区分」とは「等級(等級の下に号俸が存在する場合は、号俸)など」を指します。賃金規定等の区分は、正社員と非正規雇用労働者それぞれ3区分以上設け、そのうち2区分以上は同一である必要があります。
(3) 雇用保険について
賃金規定等を共通化した日以降の6か月間、当該対象適用事業所において、雇用保険被保険者である者
(4) 取締役の親族ではないこと
賃金規定等を新たに作成し、適用した事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者
(5) 支給申請日において離職していないこと
3、対象となる事業主とは?
キャリアアップ助成金の全コース共通要件と、該当コースの要件があります。全コース共通要件は、雇用保険に関するもの、キャリアアップ計画やキャリアアップ管理者に関するものになります。
キャリアアップ助成金(全コース共通)事業主要件
(1) 雇用保険適用事業所の事業主であること
(2) 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者※1を置いている事業主であること
(3) 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画※2を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
(4) 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備している事業主であること
(5) キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
※1 キャリアアップ管理者とは
有期契約労働者等のキャリアアップに取り組む者として必要な知識および経験を有していると認められる者のことです。
※2 キャリアアップ計画とは
有期契約労働者等のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるため、今後のおおまかな取り組みイメージ(対象者、目標、期間、目標達成のために事業主が行う取り組み)をあらかじめ記載するものです。
「賃金規定等共通化コース」事業主要件
次の(1)から(10)のすべてに該当する事業主が対象です。
(1) 就業規則等により、雇用する有期契約労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、区分に対応した基本給等の賃金の待遇を定めていること
(2) 正規雇用労働者に係る賃金規定等を、新たに作成する有期契約労働者等の賃金規定と同時またはそれ以前に導入していること
(3) 当該賃金規定等の区分を有期契約労働者等と正規雇用労働者についてそれぞれ3区分以上設け、かつ、有期契約労働者等と正規雇用労働者の同一の区分を2区分以上設け、そのうち1区分以上を適用していること
(4) 上記(3)の同一区分における、有期契約労働者等の基本給など職務の内容に密接に関連して支払われる賃金の時間当たりの額を、正規雇用労働者と同額以上とすること
(5) 当該賃金規定等が適用されるための合理的な条件を労働協約または就業規則に明示すること
(6) 当該賃金規定等をすべての有期契約労働者等と正規雇用労働者に適用させること
(7) 当該賃金規定等を6か月以上運用していること
(8) 当該賃金規定等の適用を受けるすべての有期契約労働者等と正規雇用労働者について、適用前と比べて基本給や定額で支給されている諸手当を減額していないこと
(9) 支給申請日において当該賃金規定等を継続して運用している事業主であること
(10) 生産性要件を満たした場合の支給額の適用を受ける場合にあっては、当該生産性要件を満たした事業主であること
(1)と(2)について、有期契約労働者等に関して、正社員と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、基本給等の賃金の待遇を定めることと、正社員に関する賃金規定を、今回同時にもしくはそれ以前に導入していることが求められています。
(3)については、有期契約労働者等と正社員の等級などをそれぞれ3つ以上設けて、そのうちの2つ以上を共通化し、1区分以上で適用する必要があります。(4)については、正社員と同一の等級に格付けされている非正規雇用労働者の時給は、正社員の月給を時給換算した金額と同額以上であることが求められます。
(5)の当該賃金規定等が適用されるための合理的な条件は、以下のような形で明示します。
「キャリアアップ助成金パンフレット」P.43
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000527143.pdf
(6)から(9)については、当該賃金規定等をすべての有期契約労働者等と正規雇用労働者に適用すること、当該賃金規定等を6か月以上運用すること、適用前と比べて基本給や手当てを減額しないこと、支給申請日において継続して当該賃金規定等を運用していること、が求められています。
(10)の生産性要件とは、
「生産性=営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課/雇用保険被保険者数」で計算できます。
生産性要件として、助成金の支給申請を行う直近の年度における「生産性」が下記のいずれかに当てはまる場合、要件を満たすといえます。
①その3年度前に比べて6%以上伸びていること
②その3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること
生産性要件を算定するための「生産性要件算定シート」が厚生労働省のホームページに掲載されています。
「生産性要件算定シート」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137393.html
4、助成額
中小企業の場合、1事業所あたり72万円(生産性の向上が認められる場合)が助成されます。この助成金は対象人数が増えることで、助成額が加算されます。ただし、同一区分に正社員がいない場合は対象となりません。下記の3等級と4等級を共通化し、3等級にしか正社員がいない場合の例をご覧ください。
正社員と有期契約労働者等の間で、同じ職務を行った場合に支払われる賃金に差が無いよう3等級と4等級で共通化を行ったとします。この図では3等級には正社員Aさんと有期契約労働者B、C、Dさんがいます。Cさん、Dさんは人数加算の対象となりますが、同一区分に正社員がいない4等級のEさんは対象外となります。
この場合の助成金の支給額(中小企業で、生産性の向上が認められる場合)は、
72万円+(24,000円 x 2(CさんとDさん))=76万8000円となります。
「キャリアアップ助成金パンフレット」P.43
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000527143.pdf
5、申請時の提出書類
全コース共通様式と、各コースごとの提出書類、それに添付が必要な書類の準備が必要です。様式は厚生労働省のホームページからダウンロードできます。このコースは、同じ職務を行った場合に同じ賃金が支払われる仕組みを社内で作成、実施することが求められるので、それに関する書類が添付書類として必要になります。
(1) 様式第3号 キャリアアップ助成金支給申請書
(2) 様式第4号 事業所確認票
(3) 様式第3号 別添様式4 賃金規定等共通化コース内訳
(4) 支給要件確認申立書(共通要領様式 第1号)
(5) 支払方法・受取人住所届
(6) 管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書(写)
(7) 賃金規定等が規定されている労働協約または就業規則および賃金規定等が規定される前の労働協約または就業規則
(8) 有期契約労働者等と正規雇用労働者が賃金規定等の適用を受けていることを証明する労働者名簿等(労働者ごとに賃金規定等の区分を示していることが確認できるもの)
(9) 同一区分が適用されている対象労働者全員(21人を超える場合は21人まで)および正規雇用労働者1人(同一区分が複数ある場合は、各同一区分から1人)の共通化前および共通化後の雇用契約書等
(10) 同一区分が適用されている対象労働者全員(21人を超える場合は21人まで)および正規雇用労働者1人(同一区分が複数ある場合は、各同一区分から1人)の賃金台帳または船員法第58条の2に定める報酬支払簿
(11) 同一区分が適用されている対象労働者全員(21人を超える場合は21人まで)の出勤簿等
(12) 中小企業事業主である場合、中小企業事業主であることを確認できる書類
(13) 生産性要件に係る支給申請の場合の添付書類
(3) 様式第3号 別添様式4(賃金規定等共通化コース内訳)の記入例
「キャリアアップ助成金パンフレット」P.68
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000527143.pdf
6、申請の流れ
補助金の内容、準備書類が分かったところで、申請の流れについて確認しておきましょう。
(1) キャリアアップ計画の作成・提出(賃金規定等を共通化する日までに提出)
雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置するとともに、労働組合等の意見をきいて「キャリアアップ計画」を作成し、管轄労働局長の認定を受けてください。
(2) 賃金規定等の共通化の実施
共通化後の雇用契約書や労働条件通知書を対象労働者に交付します。 当該賃金規定等の適用を受けるすべての有期契約労働者等と正規雇用労働者の基本給や、定額で支給されている諸手当は共通化前と比べて減額してはいけません。
(3) 賃金規定等共通化後の賃金に基づき6か月分の賃金を支給
賃金には時間外手当等も含みます。
(4) 助成金支給申請
共通化後6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して、2か月以内に支給申請してください。
(5) 支給決定
まとめ
いかがでしたか。今回はキャリアアップ助成金の「賃金規定等共通化コース」について調べてみました。このコースは非正規雇用労働者と正規雇用労働者の仕事内容を比べて同じ仕事内容ならば、正規雇用労働者と同等の賃金が支払われるという、共通の職務等に応じた賃金規定を作成し適用した場合に支給されるものでした。非正規雇用労働者の処遇改善に取り組み、労働者の意欲向上を目指してみよう、とお考えの事業者の皆さま、キャリアアップ助成金を活用して労働環境整備に取り組んでみませんか。ご不明な点など、お気軽にお問い合わせください。