有期契約労働者や短時間労働者等のキャリアアップを促進する「キャリアアップ助成金」。正社員化コースでは、中小企業の場合1人当たり40万円、重点支援対象者に該当する場合は80万円が支給され、多くの企業に活用されています。
しかしその一方で、虚偽の申告・申請によって助成金を不正受給するケースが後を絶たず、厚生労働省や各労働局は調査・監視を年々強化しています。不正受給と判断されれば、事業所名の公表やペナルティ付きの返還請求、さらには詐欺罪での刑事告発に至ることもあります。
本記事では、不正受給がなぜバレるのか、発覚するとどうなるのか、そして実際に公表・書類送検された事例をあわせて紹介します。意図せず不正受給になってしまうケースを防ぐための注意点も解説するので、申請を検討している事業主の方はぜひ最後までお読みください。
あわせて読みたい:キャリアアップ助成金とは?全コースの支給額と対象事業者を解説
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この記事の目次
助成金の「不正受給」とは?
厚生労働省では、助成金の不正受給について、次のような行為を指すとしています。
不正受給とは、偽りその他の不正の行為により、本来受けることのできない助成金の支給を受け、または受けようとした場合をいいます。
出典:厚生労働省 京都労働局
うその書類を出したり、実際とは違う内容で申請したりして、本来もらえるはずのない助成金をだまして受け取る行為が「不正受給」です。実際に受給していなくても、「受けようとした」時点で不正受給に該当する点に注意が必要です。
意図していなくても不正受給になるケースがある
キャリアアップ助成金は、支給要件や助成額が毎年のように見直されています。「昨年と同じ手順で申請したら要件を満たしていなかった」「勤務実態と申請書類の内容にズレがあった」など、悪意がなくても結果的に虚偽申請の状態になってしまうケースがあります。
また、代理人(社会保険労務士等)が作成した書類に不備・虚偽があった場合でも、責任を問われるのは事業主です。申請内容は必ず自社でも確認しましょう。
キャリアアップ助成金の不正受給はなぜバレる?
不正受給はなぜ見つかるのか、疑問に思っている人も多いかもしれません。労働局は複数のルートで申請内容の適正さを確認しており、不正の発覚経路は主に次の3つです。
予告なしの現地調査(立入検査)
都道府県労働局は、雇用保険法第79条に基づき、事前予告なしの現地調査(事業所訪問・立入検査)を行います。支給決定から5年間は調査の対象となる可能性があり、出勤簿・賃金台帳・雇用契約書などの原本と申請内容が照合されます。
従業員や第三者からの通報・告発
厚生労働省や各労働局は、不正受給に関する情報提供(通報)を受け付けています。「実際には正社員転換されていない」「賃金台帳の内容が実態と違う」といった従業員や退職者、取引先からの通報をきっかけに調査が入り、不正が発覚するケースは少なくありません。
会計検査院による検査
国の予算執行を検査する会計検査院も、助成金の支給実態を検査しています。過去の検査では、キャリアアップ助成金の申請から複数の不正受給が判明しており、支給決定後の検査で発覚するケースもあります。
キャリアアップ助成金を不正受給するとどうなる?4つの罰則
キャリアアップ助成金は、例年約7万件近く活用されていますが、一方で、約200件の不正受給が発覚しています。(厚生労働省「キャリアアップ助成金」パンフレット)助成金を不正受給すると、以下の罰則を受けることになります。
・ペナルティ付きの返還請求
・5年間の不支給措置
・詐欺罪等での刑事告発の可能性
事業主名・事業所名等の公表
不正受給をした場合、労働局のウェブサイト等でその事業所名・代表者名・不正の概要が公表されます。従業員や代理人等が不正行為を行った場合でも事業主の不正受給に該当し、代表者が意図的かどうかにかかわらず公表を受けることになります。
また、不正に関与した社会保険労務士や代理人、不正「指南役」の氏名等も公表の対象となる場合があります。公表情報は誰でも閲覧できるため、取引先や金融機関に知られ、その後の事業活動に深刻な影響が及ぶおそれがあります。
ペナルティ付きの返還請求
不正受給が発覚すると、「不正発生日を含む期間以降の全額」+「不正受給額の2割相当額(ペナルティ)」+「延滞金」の合計額の返還請求が求められます。
そのため、最終的に受給した金額よりも大きな負担が生じることになります。
5年間の不支給措置
不正受給が決定した日から5年間、雇用関係の助成金を受給できません。返還請求分を全額納付していない場合、この期間は延長されます。
人材確保や処遇改善のための他の助成金も使えなくなるため、会社経営や従業員の生活に深刻な影響を招くのです。
詐欺罪等での刑事告発の可能性
不正内容が特に悪質なものは、刑事告発等の可能性があります。虚偽の書類で助成金をだまし取る行為は詐欺罪(刑法第246条)に、申請書類の偽造は有印私文書偽造・同行使罪に該当し得ます。
実際に雇用関係の助成金の不正受給で摘発され、実刑判決に至った事例も報告されています。「返還すれば済む」問題ではなく、刑事責任を問われる重大なリスクが伴うことを、十分に認識しておくべきです。
実際の不正受給の事例
キャリアアップ助成金の不正受給をした事業者や社会保険労務士は、実際の事例として管轄の労働局で公表されています。ここでは、近年公表された事例を紹介します。
2026年(令和8年)に公表された事例
2026年に入ってからも、各労働局による不正受給事案の公表は続いています。
【事例①】雇用契約書を偽造した正社員化コースの不正(石川労働局・令和8年3月27日発表)
金沢市の食品小売業者が、対象労働者について雇用実態とは異なる雇用契約書を作成(偽造)し、正社員化を図ったとしてキャリアアップ助成金(正社員化コース)40万円を不正に受給しました。令和8年3月16日に支給決定等が取り消され、事業所名・代表者名が公表されています(不正受給額は全額返還済み)。
出典:キャリアアップ助成金の不正受給事案の公表(石川労働局)
【事例②】複数の助成金で計880万円超の返還命令(静岡労働局・令和8年7月10日公表)
静岡市の介護事業者が、支給要件を満たすよう申請書類を作成・提出し、キャリアアップ助成金と雇用調整助成金を不正に受給しました。令和8年6月10日に支給が取り消され、キャリアアップ助成金291万円、雇用調整助成金約588万円の返還が命じられています。
社会保険労務士が不正に関与した事例
事業主だけでなく、申請を代行した社会保険労務士が不正に関与し、氏名等を公表された事例もあります。
| 令和6年11月15日 社会保険労務士法人 |
| 愛知労働局管内の事業所2社に係る当該助成金の申請において、賃金台帳等を偽造し、当該助成金の不正受給に関与したもの。 |
| 令和6年5月28日 社会保険労務士法人 |
| 愛知労働局管内の事業所3社に係る当該助成金の申請において、虚偽の申請書類を作成し、当該助成金の不正受給に関与したもの。 |
| 令和6年5月14日 社労士事務所 |
| 愛知労働局管内の事業所1社に係る当該助成金の申請において、虚偽の申請書類を作成し、当該助成金の不正受給に関与したもの。 |
出典:不正受給に関与した社会保険労務士又は代理人(愛知労働局)
実際に書類送検されたケースも
少し前の事例ですが、実際に書類送検されたケースもあります。
企業内の非正規雇用者の人材育成などに取り組んだ事業主を助成する、厚生労働省の「キャリアアップ助成金」を不正に受け取ろうとしたとして、京都府警向日町署が8日、詐欺未遂、有印私文書偽造・行使の疑いで、同府向日市の40代の行政書士の男を書類送検したことが、同署などへの取材で分かった。男は容疑を認めている。書類送検容疑は、昨年5月、男が府内で経営する飲食店の元従業員の男性たち2人に、職業訓練をしたとする虚偽の申請書を京都労働局に申請し、2人分の助成金計約90万円をだまし取ろうとしたとしている。(2015年9月9日「産経WEST」)
出典:産経WEST
雇用関係助成金全体では、経営者や士業が逮捕・実刑判決に至った事案も相次いでいます。具体的な判例は、以下の記事で詳しく紹介しています。
あわせて読みたい:助成金・補助金 不正受給の判例まとめ11選【2026年版】実刑・バレる理由・返還額も解説
意図せず不正受給とならないための注意点
キャリアアップ助成金は近年、審査・調査が厳格化しています。制度変更も毎年行われているため、「知らなかった」では済まされません。申請前に以下の点をチェックしましょう。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 最新の支給要件を確認する | 助成額・要件は年度ごとに変更されるため、前年の資料を流用せず必ず最新版のパンフレットを確認する |
| 申請書類と実態を一致させる | 出勤簿・賃金台帳・雇用契約書等の記載が勤務実態とズレていると、虚偽申請と判断されるおそれがある |
| 代理人任せにしない | 社会保険労務士等に依頼する場合も、申請内容は事業主自身が把握・確認する |
| 判断に迷ったら労働局・専門家に相談する | 要件の解釈に迷う場合は、自己判断せず管轄の労働局や信頼できる専門家に確認する |
よくある質問
不正受給すると必ず会社名が公表される?
不正受給額が100万円以上の場合は原則公表対象です。ただし、労働局の調査前に自主申告し、返還命令後1か月以内に全額納付した場合などは公表されないことがあります。なお、社会保険労務士や代理人が関与した不正は、金額にかかわらず公表対象です。
誤って要件を満たさず受給してしまったらどうすればいい?
速やかに管轄の労働局に申し出て、指示に従いましょう。放置して後から発覚するより、自主的に申告した方が事態の悪化を防げます。
社労士に任せた申請で不正があったら会社も責任を問われる?
はい。代理人が行った不正でも事業主の不正受給として扱われ、公表・返還請求・不支給措置の対象となります。関与した社労士も氏名公表等の対象です。
不正受給を通報したいときはどこに連絡する?
管轄の都道府県労働局(助成金担当部署)が情報提供を受け付けています。連絡先は厚生労働省や各労働局のウェブサイトで案内されています。
まとめ
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化を進める企業にとって心強い制度です。しかし、一歩間違えて不正受給と判断された場合、事業所名の公表・2割増しの返還請求・5年間の不支給措置という大きな制裁を受けることになり、悪質な場合は詐欺罪で刑事告発されるおそれもあります。
労働局の予告なし調査や通報制度により、不正は高い確率で発覚します。そのため、”ちょっとくらい・・・”という考えは通用しないことを、再度認識する必要があります。また、制度変更が多いため、意図せず不正受給の状態になってしまうリスクにも注意が必要です。
助成金の申請には細かい手続きと書類作成が伴います。もし判断に迷ったら勝手に判断するのではなく、管轄の労働局や専門家にきちんと相談し、適正な申請を行うようにしましょう。
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