一人ひとりがより良い環境で働けることを目指す「働き方改革」の推進に向けて、法改正が進んでいます。これは「労働時間法制の見直し」や「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」を目指すもので、国内雇用の7割を担う中小企業・小規模事業者においても着実に実施されることが必要です。
しかしこれまでの働き方を変えるためには、費用面で負担がかかることもあります。今回は働き方改革に伴う法改正の内容と、規制の適用を控えた業種を対象にした「働き方改革推進支援助成金 適用猶予業種等対応コース(令和5年度概算要求より)」について紹介します。
▼▼▼日々配信中!無料メルマガ登録はこちら▼▼▼
メルマガ会員登録する
この記事の目次
働き方改革関連法について
働き方改革は、日本が直面する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」といった課題の解決を目指しています。そのためには、働く人がそれぞれの立場や状況に応じて多様な働き方を選択できるようになることが必要です。
まずは働き方改革で改正される各法律について、見ていきましょう。
年次有給休暇の時季指定
有給休暇の付与に関して、労働基準法が改正されました。
使用者は年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者に対し、毎年5日、年次有給休暇を確実に取得させる必要があります。
■施行
大企業・中小企業とも2019年4月~
時間外労働の上限制限
時間外労働時間に上限が設定されました。
原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。なおその場合にも、時間外労働には上限が設けられます。
■施行
大企業…2019年4月〜
中小企業…2020年4月〜
同一労働同一賃金
正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差が禁止されます。具体的には、職務内容や配置の変更の範囲によって待遇を決定し、これらが同じ場合は非正規雇用者と正社員の境遇を同じにしなくてはなりません。
■施行
2020年4月〜
※中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は、2021年4月1日〜
このなかから、今回は、特に「時間外労働の上限制限」についてお伝えします。
労働時間の上限規制について
これまで、残業時間に関しては行政指導のみで上限はありませんでした。今回の法改正では法律によって残業時間の上限が設定され、さらに例外的な場合においても無制限での残業はできなくなっています。
その内容について、もう少し詳しく見ていきましょう。
36協定について
労働基準法では、「法定労働時間」や「法定休日」の労働には、時間外労働・休日労働に関する労使協定(36協定)を結び、労働基準監督署長へ届出ることとされています。
■法定労働時間…1日8時間、1週 40 時間
■法定休日…週1回
しかし、これには罰則がありませんでした。また特別条項を設けることで、年6回を限度とした時間外労働を行うことが可能でした。これには上限が設定されていません。
今回の法改正では、これらの時間外労働に時間の上限を設け、罰則をつけたことが大きな変更点です。
出典:厚生労働省
改正後は、原則月45時間・年360時間の時間外労働には罰則が定められています。臨時的な特別な場合において36協定が結ばれた場合でも、以下の上限が設定されています。
■年720時間以内
■複数の月平均は80時間以内
■月100時間未満
これにより、すべての場合で「無制限の残業」は認められないということになりました。
労働時間の上限規制適用の開始時期
労働時間上限規制の中小企業への適用時期は、2020年4月1日からです。ただし、これはすべての企業に一斉に適用されるという意味ではありません。適用には「経過措置」があります。
労働時間の上限規制は2020年4月1日以降に始まる36協定から順次適用されますので、2020年3月31日以前から始まっている36協定には適用されません。
2020年4月1日以降の1年間を通じて、随時上限規制が適用されていきます。
参考:https://www.pref.kanagawa.jp/documents/74430/310304-02_roudoukyoku.pdf
上限規制の適用に、2024年までの猶予期間がある事業・業務
業種や業務によっては2024年3月31日まで猶予期間が設けられています。業種・業務による猶予期間とその後の取り扱いは、以下のとおりです。
建設事業 | |
猶予期間中(2024年3月31日まで)の取扱い | 上限規制なし |
猶予後(2024年4月1日以降)の取扱い | 災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制のすべてが適用されます。また災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、以下の規制は適用されません。 ・月100時間未満 ・2~6か月平均80時間以内 |
自動車運転の業務 = 対象はトラック、ハイヤー・タクシー、バスの運転を業務にする人 | |
猶予期間中(2024年3月31日まで)の取扱い | 上限規制なし |
猶予後(2024年4月1日以降)の取扱い | 特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限は、年960時間となります。さらに「時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か月まで」とする規制は適用されません。また時間外労働と休日労働の合計についての以下の規制も適用外です。 ・月100時間未満 ・2~6か月平均80時間以内 |
医師 | |
猶予期間中(2024年3月31日まで)の取扱い | 上限規制なし |
猶予後(2024年4月1日以降)の取扱い | 具体的な上限時間は今後、省令で定められます。 |
鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業 | |
猶予期間中(2024年3月31日まで)の取扱い | 時間外労働と休日労働の合計について、以下の規制は適用されません。 ・月100時間未満 ・2~6か月平均80時間以内 |
猶予後(2024年4月1日以降)の取扱い | すべての上限規制が適用されます。 |
なお、新技術・新商品等の研究開発業務については、上限規制の適用が除外されています。
働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)とは
厚生労働省は近く上限規制の適用が控えている業種に対して、令和5年度に助成金の新コースを設定しています。
ここからは、働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)の目的や内容をみていきましょう。
目的
2024年4月に上限規制の適用が予定されている建設業などについては、一部の業種において顕著な長時間労働の実態が認められるなど、更なる支援が必要です。本事業では各々の業種において成果目標を設け、コンサルティング費用などの一部を助成します。
概要・スキーム
【助成対象】
・就業規則等の作成、変更費用、研修費用(業務研修を含む)
・外部専門家によるコンサルティング費用
・労務管理用機器等の導入や更新の費用
・労働能率の増進に資する設備や機器等の導入、更新費用
・人材確保等のための費用等
【補助率】
3/4 ※事業規模30名以下かつ労働能率の増進に資する設備・機器等の経費が30万円を超える場合は4/5
【成果目標・補助上限額】
建設事業は週休2日工事を推奨する観点から成果目標を設定しています。
建設事業 | |
①36協定の見直し | ・月80時間を超える時間外労働を月60時間以下に短縮 補助上限額…250万円 ・月80時間を超える時間外労働を月60~80時間に短縮 補助上限額…150万円 ・月60~80時間の時間外労働を月60時間以下に短縮 補助上限額…200万円 |
②週休2日制の導入 | ・4週4休から4週8休まで、1日増加するごとに25万円を支給 |
自動車運転の業務では、改善基準告示の改正に係る議論の内容を踏まえ、勤務間インターバルの確保を推進する成果目標を設定しています。
建設事業 | |
①36協定の見直し | ・月80時間を超える時間外労働を月60時間以下に短縮 補助上限額…250万円 ・月80時間を超える時間外労働を月60~80時間に短縮 補助上限額…150万円 ・月60~80時間の時間外労働を月60時間以下に短縮 補助上限額…200万円 |
②インターバル導入 | ・9~11時間 補助上限額…100万円 ・11時間以上 補助上限額…150万円 |
医師に関しては、月100時間超の場合は勤務間インターバル9時間の確保が必要であることを踏まえ、勤務間インターバルの確保を推進する成果目標を設定しています。
医業に従事する医師 | |
①36協定の見直し | ・月100時間を超える時間外労働を月80時間以下に短縮 補助上限額…250万円 ・月90時間の時間外労働を月80時間以下に短縮 補助上限額…200万円 ・月80時間を超える時間外労働を月80時間以下に短縮 補助上限額…150万円 |
②インターバル導入 | ・9~11時間 補助上限額…100万円 ・11時間以上 補助上限額…150万円 |
砂糖製造業の上限規制の態様は一般則と同様です。
砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県) | |
36協定の見直し | ・月80時間を超える時間外労働を月60時間以下に短縮 補助上限額…250万円 ・月80時間を超える時間外労働を月60~80時間に短縮 補助上限額…150万円 ・月60~80時間の時間外労働を月60時間以下に短縮 補助上限額…200万円 |
まとめ
働き方改革は、より多様な働き方を認め、多くの人が気持ちよく働ける環境を作るためのものです。中小企業では、労働者に魅力的な職場を作ることが優秀な人材の確保にもつながります。
猶予期間が終わると、規制の適用対象が広がります。上限規制の適用が控えている業種は、いまのうちに準備をしておかなくてはなりません。時間外労働短縮等に向けた助成金をうまく活用して費用の面での負担を減らし、より効果的な働き方改革を行いましょう。