エネルギー価格や原材料費、労務費の上昇に対処するため、2021年9月から毎年9月と3月が「価格交渉促進月間」として設定されています。
この期間中、広報活動や講習会が行われ、業界団体を通じて価格転嫁の要請も行われます。月間終了後には、中小企業とその取引先との価格交渉・転嫁の状況について調査が実施され、その結果がまとめられます。状況が芳しくない親事業者に対しては、大臣名での指導・助言が行われます。
本記事では、このような背景を踏まえ、価格交渉促進月間のフォローアップ調査の結果と今後の取り組みについてみていきます。各業界の事例も交えて、価格交渉と価格転嫁の現状を解説していきますので、価格交渉を進めていきたいとお考えのかたは、ぜひ、最後までお付き合いください。
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この記事の目次
価格交渉促進月間の概要
政府は、価格交渉が活発に行われる時期である9月と3月を、発注側企業と受注側企業の間での価格交渉や価格転嫁をスムーズに進める目的で「価格交渉促進月間」と定めています。以下は、今年(3月)の価格交渉促進月間の取り組み内容です。
【発注側企業への積極的な対応要請】
経済産業大臣名で、発注側企業に対して価格交渉や価格転嫁に遅滞なく対応するよう、下請中小企業振興法を基に要請。
【フォローアップ調査の実施】
価格交渉促進月間の後、受注側中小企業に対し、発注側企業との価格交渉や価格転嫁の実態を把握するためにアンケート調査とヒアリングを実施。
【調査結果の公表と指導・助言】
フォローアップ調査の結果に基づき、業種ごとの価格転嫁率を算出し、問題のある事例や良い事例を公表。また、不適切な対応をしている発注側企業に対しては、法に基づいて指導や助言を行う。
【教育と研修】
月間中には価格交渉や下請代金法に関する講習会やセミナーを開催し、業種別に特化した講習も追加で実施。
【周知活動】
月間開始前には、業界団体を通じて発注側企業にこの取り組みを広く周知。
【動画メッセージの発信】
経済産業大臣から価格交渉促進月間の取り組みについて動画メッセージを発信。
このような多角的なアプローチにより、政府は発注側企業と受注側企業の間での公正で健全な価格交渉・価格転嫁を促進しようとしています。
価格交渉促進月間のフォローアップ調査と今後の取り組み
各価格交渉促進月間の終了後、価格交渉、価格転嫁それぞれの実施状況について、中小企業を対象にアンケート調査とヒアリングを実施して取りまとめられたのが「フォローアップ調査」です。
フォローアップ調査の結果によると、2023年3月の価格交渉促進月間において、中小企業の60%以上が「交渉の申し入れが受け入れられた/発注側からの働きかけで価格を交渉できた」と述べました。さらに、約40%の企業が「高い割合を価格転嫁できた」と答えています。「価格交渉促進月間」のフォローアップ調査の概要は以下のとおりです。
【アンケート調査】
調査期間は4月7日から5月31日で、対象となる企業数は300,000社、回答企業数は17,292社でした。
【下請Gメンによるヒアリング調査】
調査期間は4月17日から4月28日で、ヒアリング件数は約2,243社で、調査方法は電話調査でした。
調査結果の概要
価格転嫁率の微増
価格転嫁率は46.9%から47.6%へと微増しています。
結果の二極化
良好な価格交渉結果が増加する一方で、良くない結果も増加しており、二極化が進行しています。
業種別の価格交渉と価格転嫁状況
【価格交渉に応じた業種】
出典:価格交渉促進月間(2023年3月)フォローアップ調査の結果について
造船や繊維の業種では、価格交渉に応じている傾向があります。一方で、通信、トラック運送、放送コンテンツの業種では、価格交渉にあまり積極的でないようです。
【価格転嫁に応じた業種】
出典:価格交渉促進月間(2023年3月)フォローアップ調査の結果について
石油製品・石炭製品および卸売の業種では価格転嫁に対して比較的協力的な様子です。それに対して、トラック運送、放送コンテンツ、通信の業種では価格転嫁に応じていない傾向が見られます。
今後の取り組み
フォローアップ調査の結果から、価格転嫁率が微増している一方で、その結果が二極化していることが明らかになりました。このような状況を踏まえ、以下のような取り組みが計画されています。
まず、発注側企業ごとに交渉や転嫁の状況をリスト化し、その情報を公表することで、より透明性を高める予定です。また、政府レベルでの取り組みとして、大臣名での指導や助言を行います。
さらに、業種ごとに自主行動計画やガイドラインを拡大する方針です。これは、業種特有の問題やニーズに柔軟に対応できるようにするための措置です。このような取り組みにより、価格交渉や価格転嫁に関する認識や取り組みが一層進むことが期待されます。
価格転嫁サポート体制の強化
フォローアップ調査の結果によると、価格転嫁が成功した企業の多くが「原価を示した価格交渉」が有効であると回答しています。そのため、効果的な価格交渉を行うためには、原価を正確に計算し、それを交渉のテーブルに持ってくることが非常に重要です。
これに応える形で、7月から全国のよろず支援拠点に「価格転嫁サポート窓口」が設置されています。この窓口では、中小企業に対して価格交渉における基本的な知識の習得や原価計算の方法についての支援を提供しています。
【地域支援機関との連携】
さらに、商工会議所や商工会などの地域支援機関に対しても「価格交渉ハンドブック」が配布されています。これにより、地域レベルでの価格転嫁に関する基本的な知識やスキルの習得が促進され、中小企業の価格転嫁能力が全体的に向上するようなサポート体制の整備に取り組んでいます。
成功事例
最後に、価格交渉と価格転嫁における成功事例を4つ紹介します。
1.経営トップによる発信 | 経営層が社内及び取引先に対して、適正な価格転嫁を推進する方針を明確に発信することで、全社を挙げた一致団結を促しています。 |
2. 発注者側からの価格交渉の働きかけ | 調達部門のスタッフが取引先を訪問し、積極的に価格交渉を行います。原材料、電力、労務費、運送費などの費目を明示した交渉フォーマットを用意し、これを基に取引先に交渉を呼びかけています。 |
3.原材料費だけでなく、エネルギーコスト・労務費も考慮した価格転嫁 | 輸送コスト高騰に対応するため、原油価格の上昇を反映させた燃料サーチャージを導入。労務費が上がる可能性に備え、その対応策として適切な転嫁ができるように予算を設定しています。 |
4.社内体制の整備 | 取引先との交渉内容をしっかりと記録し、上長がその内容を確認するというルールを設けています。さらに、交渉の進捗状況や結果を社内で一元管理し、可視化を行っています。 |
これらの事例は、価格交渉と価格転嫁のアプローチの参考になるのではないでしょうか。こういった実践例から、自社の戦略に活かせる方法を探してみてください。
まとめ
今後、原材料費の上昇や労務費の増加が予想される中で、価格転嫁が今以上に重要性を持つようになると考えられます。アンケートやフォローアップ調査によって明らかになった価格交渉と価格転嫁の現状では、若干の改善が見られましたが、業種や企業規模による二極化も進行しています。そのため、成功している企業とそうでない企業とのギャップを埋めるための施策もこれから必要になるのではないでしょうか。
国が支援策を講じることはもちろん重要ですが、価格交渉と価格転嫁は、企業が持続的に成長し、環境変化に適応する上で不可欠なスキルです。各企業がこれらのポイントをしっかりと把握し、今後の交渉に反映させていくことも重要になってくるでしょう。