人材開発支援助成金とは、事業主が労働者に対して教育訓練を実施した場合、発生した経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。複数あるコースのうち「人への投資促進コース」については、大きく以下5つの訓練メニューが用意されています。
1.デジタル・成長分野(高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練):高度デジタル人材育成に向けた訓練や大学院での訓練を行う事業主に対する高率助成
2.IT分野未経験(情報技術分野認定実習併用職業訓練):IT分野未経験者の即戦力化に向けた訓練を実施する事業主に対する高率助成
3.サブスクリプション(定額制訓練):サブスクリプション型の研修サービスによる訓練への助成
4.自発的能力開発(自発的職業能力開発訓練):労働者が自発的に受講した訓練費用を負担する事業主への助成
5.教育訓練休暇(長期教育訓練休暇等制度):働きながら訓練を受講するための休暇制度や短時間勤務等制度を導入する事業主への助成
本記事では上記5つの訓練メニューのうち、時代にマッチした労働者の多様な訓練の選択・実施を支援する「3:定額制訓練(サブスクリプション型の研修サービス)」で活用できる助成金制度について解説します。
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この記事の目次
定額制訓練とは何か?
定額制訓練(サブスクリプション型の研修サービス)とは、ひとつの訓練に対する対象経費が明確でなく、同額で複数の訓練を受けられる「eラーニング」および「同時双方向型の通信訓練」という形式で実施されるサービスのことです。
ここでの「eラーニング」「同時双方向型の通信訓練」の定義も確認しておきましょう。
まず「eラーニング」とは、コンピュータなどの情報通信技術を活用した遠隔講習のことを指します。訓練の受講管理のシステム(Learning Management System)などによって、訓練の進捗管理を実施できるものが対象です。
そして「同時双方向型の通信訓練」とは、OFF-JTあるいはOJTにおける情報通信技術を活用した遠隔講習であるうえで、一方的な講義ではなく「リアルタイムで質疑応答ができる」など、同時かつ双方向的に実施される形態のものを指します。
サブスクリプション型の研修サービスを活用することで受けられるメリット
定額制訓練(サブスクリプション型の研修サービス)を活用することで受けられるメリットは、大きく以下の6つです。
(1)複数の教育訓練をまとめて契約できるため、管理費用や業務量を削減できる |
(2)訓練カリキュラムが固定されていないため、時間に縛られることなく業務のスキマ時間に訓練できる |
(3)すでに契約済の定額制訓練についても対象となる |
(4)労働者が訓練科目を選択して実施できるためモチベーション向上につながりやすい |
(5)何回でも繰り返し受講できる |
(6)すべての労働者が受講できる |
定額制訓練では複数の教育訓練をまとめて契約できるため、管理コストや時間を削減できる点が大きなメリットです。講義のために日程調整したり場所を確保したりするというのは、会社の業務を圧迫します。
定額制訓練であれば、プログラミングや人材開発、財務・会計、営業・販売、マネジメントなど幅広い講義を一括で契約できるため、自社の管理コストを削減しつつ従業員のスキルアップ効果が期待できるでしょう。
また、映像授業のようなイメージで好きなタイミングで講義を受けられるため、「業務の隙間時間で勉強したい」「わからない部分を何度も繰り返し学習したい」というニーズにも応えられます。講義内容は労働者の希望に合わせて選択できるため、学習意欲の維持にもつなげやすいです。
人材開発支援助成金 人への投資促進コース 定額制訓練の概要
上記で解説した定額制訓練は、厚生労働省による「人材開発支援助成金〜人への投資促進コース〜」のひとつとして、助成金の支給対象になっています。人材開発支援助成金とは、事業主が従業員に対して訓練を実施した場合に、該当の経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。
今回の記事では、この「サブスクリプション(定額制訓練)」の具体的な対象事業者や対象訓練などについて解説していきます。
対象となる事業主 |
(1)雇用保険適用事業所の事業主である |
(2)労働組合等の意見を参考にして、事業内職業能力開発計画およびこれに基づく職業訓練実施計画届を作成し、その計画内容を従業員に周知している |
(3)職業能力開発推進者を選任している |
(4)職業訓練実施計画届の提出日前日から起算して6ヶ月前の日から支給申請書の提出日までの間に、当該計画を実施した事業所において、雇用する被保険者を解雇等事業主都合により離職させていない。 |
(5)職業訓練実施計画届の提出日前日から起算して6ヶ月前の日から支給申請書の提出日までの間に、雇用保険法第23条第1項に規定する特定受給資格者となる離職理由のうち、離職区分1Aまたは3Aに区分される離職理由により離職した者として、同法第13条に規定する受給資格の決定が行われた者の数を、当該事業所の支給申請書提出日における被保険者数で除した割合が6%を超えていない事業主である |
(6)従業員に職業訓練を受けさせる期間中も、賃金を適正に支払っている事業主である |
(7)助成金の支給、または不支給の決定に係る審査に必要な書類等を整備して、5年間保存している事業主である |
(8)助成金の支給、または不支給の決定に係る審査に必要であると管轄労働局長が認める書類等を、管轄労働局長の求めに応じ提出、または提示する、管轄労働局長の実地調査に協力する等、審査に協力できる事業主である |
対象となる人材
対象となる人材は以下のとおりです。
(1)助成金を受ける事業所において被保険者である |
(2)訓練実施期間中において被保険者である |
(3)職業訓練実施計画届時に提出した「訓練別の対象者一覧」(定額制訓練の場合は「定額制訓練に関する対象者一覧」)に記載のある被保険者である |
(4)訓練を受講した時間数が、実訓練時間数の8割以上である |
(5)(育成休業中の従業員に対する訓練の場合)育児休業中に自発的な申し出により訓練を受講する者である |
対象となる訓練
(1)定額制サービスによる訓練である
(2)業務上義務付けられ、労働時間に実施される訓練である
(3)OFF-JTであり、かつ、指定の事業外訓練であること
(4)各支給対象従業員の受講時間数を合計した時間数が、支給申請時において10時間以上である
※(3)については、のちほど「助成金活用で従業員が学べる内容とは?」の項で解説します。
対象経費
(1)定額制訓練の基本料金
(2)定額制訓練のオプション料金
例:「初期設定費用」「アカウント料」「管理者ID付与料金」「修了証の発行」「IPアドレス制限機能」「データ容量追加料金」「LMSの管理者研修」など、訓練に直接必要な経費が助成対象
また、事業主がOFF-JTを実施した場合に支給対象となる経費は以下のとおりです。なお、支給申請までに対象経費の全額を申請事業主が負担していると証明できる書類が必須です。従業員などに負担させた場合、助成金は支給されません。
【事業内訓練:OFF-JTであって事業主自身が主催し、事業内において集合形式で実施する訓練のこと】
(1)部外の講師への謝金・手当
所得税控除前の金額(旅費・車代・食費等は含めない)
(2)部外の講師の旅費
勤務先、あるいは自宅から訓練会場までに発生した旅費(車代・食費等は含めない)
(3)施設・設備の借上費
教室や実習室、ホテルの研修室等の会場使用料、マイク、OHP、ビデオ、スクリーンなど、訓練で使用する備品の借料で助成対象コースのみに使用したと確認できるもの
(4)学科や実技の訓練を行う場合に必要な教科書・教材の購入費
【事業外訓練:OFF-JTであって公共の職業能力開発施設や学校教育法上の教育機関、各種学校、専修学校、認定職業訓練施設、その他事業主団体などが企画し、主催している訓練のこと】
受講の際に必要な入学料・受講料・教科書代等(あらかじめ受講案内等で定めているもの)
助成率
(1)中小企業:60%(+15%)
(2)大企業:45%(+15%)
「定額制訓練」に対する助成については、受講者1人当たりの経費助成限度額は設定されていません。また(+15%)という助成率については、賃金要件・資格等手当要件(コースのご案内P.32参照)を満たした場合の割合です。
助成金活用で従業員が学べる内容とは?
定額制訓練で可能な研修プログラムやセミナーの例としては、具体的に以下のようなものが挙げられます。
【事業内訓練】 |
---|
(1)自社で企画・主催・運営を行い、以下いずれかの要件を満たす社外講師によって実施される訓練 ・事業外訓練のうち(1)(3)(4)の施設に所属する指導員など ・当該職業訓練の内容に直接関係する職種に係る職業訓練指導員免許を持つ者 ・当該職業訓練の内容に直接関係する職種に係る1級技能検定に合格した者 ・当該訓練等の科目や職種等の内容について、専門知識あるいは技能を有する指導員、または講師 ※指導員・講師経験が3年以上の者 ・当該職業訓練の科目や職種等の内容について、専門知識あるいは技能を有する指導員、または講師 ※実務経験が10年以上の者 (2)自社で企画・主催・運営する訓練計画により、以下いずれかの要件を満たす自社従業員である内部講師により行われる訓練 ・当該職業訓練の内容に直接関係する職業に係る職業訓練指導員免許を持つ者 ・当該職業訓練の内容に直接関係する職業に係る1級技能検定に合格した者 ・当該職業訓練の科目や職種等の内容について、専門知識もしくは技能を有する指導員、または講師 ※実務経験が10年以上の者 (3)事業主が自ら運営する認定職業訓練 |
【事業外訓練】 |
---|
(1)公共職業能力開発施設、職業能力開発総合大学校、職業能力開発促進法第15条の7第1項ただし書に規定する職業訓練を行う施設、認定職業訓練を行う施設 (2)助成金の支給を受ける事業主以外の事業主・事業主団体の設置する施設 (3)学校教育法による大学等 (4)各種学校等(学校教育法第124条の専修学校、同法第134条の各種学校、これと同程度の水準の教育訓練を実施できるもの) (5)その他、職業に関する知識や技能、技術の習得・向上を目的とした教育訓練を行う団体が設置する施設 |
助成金活用の流れ
定額制訓練の支給申請は以下の流れで実施しましょう。
申請プロセスの流れ |
(1)「事業内計画の作成」などを実施する 「事業内職業能力開発計画」を作成し、労働者に対して段階的・体系的な訓練を実施できる状況を整えましょう。また社内において、職業能力開発の取り組みを推進するキーパーソンである「職業能力開発推進者」を選ぶことが必要です。 |
(2)計画届を申請する 「職業訓練実施計画届 」を作成し、訓練開始日から起算して1ヶ月前までに、必要書類を都道府県労働局に提出しましょう。 |
(3)訓練を実施する 「職業訓練実施計画届」に基づき、訓練を実施しましょう。なお、計画を変更して訓練を実施する場合は、あらかじめ「職業訓練実施計画変更届」の提出が必要です。 |
(4)支給申請を行う 訓練計画に記載された訓練終了日の翌日から起算して2ヶ月以内に「支給申請書」および必要書類を労働局に提出しましょう。 |
チェックポイントと注意点
定額制訓練に申請する際は以下のポイントや注意点をチェックしておきましょう。
(1)支給申請時に提出する「支給申請承諾書」については、訓練機関が記載します。そのため、あらかじめ「提出に協力してもらえる訓練機関か?」という点を確認しておきましょう。
(2)業務命令として労働時間中に実施させる意図がなく、従業員が自発的に実施していると判断される場合(自宅パソコンからの受講など)には、助成金が支給されません。
(3)原則として、契約した定額制サービスを利用する主たる適用事業所(該定額制サービスを利用する被保険者数が最も多い事業所のこと)から申請しましょう。
(4)受講予定ではなかった従業員に対して訓練を受講させることはできます。ただし変更届を提出していない場合は「10時間要件」の時間数に含められないため、その他の「定額制訓練に関する対象者一覧」に記載される者(当初からの受講予定者)により、助成金支給要件を満たすことが必要です。
人材開発支援助成金 活用のメリット
人材開発支援助成金のうち、定額制訓練を活用することで企業は大きく以下2つのメリットを享受できます。
- 競争力の強化
- 高いスキルを持つ労働者の獲得と維持
先ほども解説したように、定額制訓練ではプログラミングや人材開発、財務、営業などまで幅広いジャンルの講義を受講できます。従業員に必要な講義を選択し受講してもらうことで、他社に負けないスキルを持つ人材を育成し、最終的な自社の競争力強化につなげられるでしょう。
まとめ
今回は、人材開発支援助成金の訓練コースのひとつである「定額制訓練」についてご紹介しました。助成金利用にあたっては、多くの必要書類や申請ハードルがあるため「導入が難しいのでは?」と考える企業も多いでしょう。しかし、申請のハードルをクリアし助成金を有効活用できれば、従業員のスキルアップを推進して自社の長期的な利益を生み出せます。今回の記事を参考にして、自社が対象になりそうであれば積極的に申請してみましょう。