令和6年度経済産業省の概算要求が公開されました。
今回は、4つのポイントを中心に予算要求の内容を確認し、経済産業省の令和6年度の主要な方針や取り組みを理解しましょう。
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この記事の目次
令和6年度経済産業省の概算要求
まず、令和6年度の大きなテーマとして、「国内投資の拡大とイノベーションの加速」が挙げられます。そのために、次の4つに取り組みます。
(1)世界をリードする先端分野への投資促進
(2)イノベーションの推進
(3)構造的課題への対応
(4)有志国連携による産業政策・経済安全保障
それぞれの内容を簡単にみていきましょう。
まず初めに、(1)先端技術への注力があります。GX技術の普及とエネルギー安定供給の確保、デジタル化とAI導入によるデジタル社会の実現に取り組んでいきます。
(2)イノベーションの推進では、スタートアップの育成やビジネスの新陳代謝を強化し、イノベーションを生むエコシステムの構築を目指します。
労働市場の人手不足問題、賃上げの推進、人材への投資は、避けては通れない重要課題となっているため、(3)社会の構造的課題への取り組み、も重要です。あわせて、地域をけん引する中堅・中小企業の発展と投資環境の充実、物価上昇や危機時のレジリエンス向上策に取り組みます。
さらに、日本経済の安定と成長のための経済安全保障の実現のため、(4)国際協力を通じた産業政策・経済安全保障に取り組みます。
また、福島の復興については、最重要課題と位置付け、更なる加速を図る取り組みを進めていくとしています。
令和6年度 要求額は?
出典:経済産業省 令和6年度 概算要求概要
要求額についても確認しましょう。
一般会計 4286億円、エネルギー対策特別会計 7820億円、GX推進対策費には1兆985億円を計上しました。要求の総額は2兆4615億円と、令和5年度予算を約8000億円上回るものとなっています。
上記のほか、以下の項目については、金額を示さない「事項要求」とし、予算編成過程で検討するとしました。
- 産業競争力強化・経済成長及び排出削減の効果が高いGXの促進
- 物価高騰下で生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者等の成長の下支え
- 大阪・関西万博の会場整備に関する施策
- 総合的な防衛力の強化に資する研究開発
- 福島復興の着実な実施
以上が、経済産業省令和6年度概算要求の大枠となっています。
ここからは、前述の4つの柱における主要な取り組みを抜粋してご紹介します。
(1)世界をリードする先端分野への投資促進
令和6年度の概算要求では、先端技術への大きな注目が確認できます。特に、GX技術の普及とエネルギー安定供給の確保が強調されており、さらにデジタル化とAI導入を通じたデジタル社会の実現へとシフトする動きが強まっています。※以下、【 】は令和6年度概算要求額と( )内に令和5年度当初予算額を記載
①GXの実現とエネルギー安定供給の確保【1兆 6241億円(1兆1076億円)】
- 工場や中小企業の省エネ性能を向上させるための設備更新や診断を推進。
- 住宅の省エネ改修や高効率給湯器の導入を支援。
- 目指すのは、エネルギーコストが高い状況でも対応できる社会の構築。
■予算配分
- 省エネルギー投資促進・需要構造転換支援【910億円(新規)】
- 省エネルギー設備への更新を促進するための補助金【360億円(261億円)】
- 中小企業のエネルギー利用最適化推進【32億円(8億円)】
- 家庭の省エネ推進補助金(高効率給湯器導入促進)【314億円(新規)】
- 住宅・建築物の省エネ投資促進【72億円(68億円)】
- 多種多様な再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、バイオマス、水力)の導入促進。
それらを支える系統整備の加速や系統用蓄電池・水電解装置の導入・高効率化。
■予算配分
- GXサプライチェーン構築支援【1171億円(新規)】
- 蓄電池製造サプライチェーン強靱化【4958億円(新規)】
- 半導体製造サプライチェーン強靱化【1078億円(新規)】
- 需要家主導太陽光発電導入促進事業【158億円(105億円)】
- 地熱発電資源量調査【128億円(102億円)】
- 地域共生再生可能エネルギー発電設備導入実態調査【5億円(新規)】
- 次世代電力制御技術開発【80億円(63億円)】
- 再生可能エネルギー導入拡大のための分散型エネルギーリソース導入支援【120億円(新規)】
- GX分野のディープテック・スタートアップ支援【407億円(新規)】
- 水素とアンモニアのサプライチェーン構築、利用拡大、産業育成を目的として、技術開発と規制緩和・支援策を一体で推進。
■予算配分
- 水素・アンモニア供給基盤整備【30億円(新規)】
- 水素・アンモニア製造・資産買収等に対する出資金【100億円(新規)】
- 競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発【86億円(80億円)】
- 2050年のカーボンニュートラルを目指し、電気車(EV)・燃料電池車(FCV)の普及、充電・水素充填インフラの整備、そして鉄鋼、航空機、素材産業の構造転換を支援。
- 蓄電池・部素材等の製造基盤の更なる拡大に向けた設備投資及び技術開発等を支援。
■予算配分
- クリーンエネルギー自動車導入促進補助金【1076億円(200億円)】
- クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金【205億円(100億円)】
- 蓄電池等の製品の持続可能性向上に向けた基盤整備・実証事業【17億円(新規)】
- 電気自動車用革新型蓄電池技術開発【24億円(24億円)】
- 次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術の開発【18億円(18億円)】
- 航空機向け革新的推進システム開発事業【13億円(新規)】 等
②デジタル社会の実現・生成 AI への対応【1591億円(366億円)】
- 先端半導体、パワー半導体、先端的なパッケージング技術、製造装置・部素材等の製造基盤を整備等を支援。
■予算配分
- GXを実現する半導体の製造サプライチェーン強靱化支援【1078億円(新規)】※再掲
- チップレット設計基盤構築に向けた技術開発【20億円(5億円)】
- 省エネAI半導体及びシステムに関する技術開発【50億円(34億円)】 等
- 計算資源の拡充、生成AI(人工知能)の基盤モデル開発、量子技術の産業化、デジタル人材の育成などを進める。
- G7サミットで合意されたDFFT具体化に向けた国際枠組みの立ち上げ、セキュアなソフトウェアとIoT機器の流通促進、サイバーセキュリティ能力の強化を目指す。
■予算配分
- 次世代人工知能・センシング等の技術開発【38億円(35億円)】
- 生成AIの情報処理基盤産業振興【4億円(新規)】
- 量子・古典ハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発【15億円(10億円)】
- 地域の中堅・中核企業の経営力向上支援【27億円(25億円)】
- 産業サイバーセキュリティ強靭化【28億円(24億円)】
- サイバーセキュリティ経済基盤構築【22億円(20億円)】
- サプライチェーン・中小企業サイバーセキュリティ対策促進【2億円(新規)】 等
(2)イノベーションの推進
イノベーションの推進も一つの大きな柱となっており、スタートアップの育成やビジネスの新陳代謝を強化する方針が確認されます。これに加えて、イノベーションを後押しするためのエコシステムの構築にも積極的に取り組む姿勢が見受けられます。
①スタートアップ育成・新陳代謝の促進【168億円(141億円)】
- スタートアップに対する資金供給、人材確保、出口戦略の強化を目的とした環境整備を進める。
- 未踏事業の拡大、研究開発支援、研究者と経営人材のマッチング、女性起業家の育成、医療研究開発、海外ビジネス拠点設立なども推進。
- 自動車部品サプライヤーの事業転換とWeb3.0の推進にも取り組む
■予算配分
- GX分野のディープテック・スタートアップ支援【407億円(新規)】※再掲
- ディープテック・スタートアップの起業・経営人材確保等支援【31億円(20億円)】
- ユニコーン創出支援【12億円(7億円)】
- 医療機器等の研究開発等強化【42億円(40億円)】
- 医工連携イノベーション推進【20億円(19億円)】
- 予防・健康づくり研究開発基盤整備【18億円(14億円)】
- スタートアップ知財支援基盤整備【3億円(2億円)】
- 自動車部品サプライヤー事業転換支援【7億円(6億円)】 等
②イノベーションエコシステムの構築【1030億円(895億円)】
- 若手研究者、特にバイオ分野での支援と新産業・革新技術の研究開発促進。
- JAXAによる宇宙開発、特に衛星コンステレーションの加速。
- ディープテックの人材発掘・起業家育成支援等。
■予算配分
- 創薬基盤技術開発【57億円(53億円)】
- 再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発【41億円(37億円)】
- 新産業・革新技術創出に向けた先導研究【28億円(19億円)】
- 宇宙産業技術情報基盤整備研究開発【27億円(19億円)】
- 若手研究者発掘支援【17億円(13 億円)】
- 国際ルール形成・市場創造型標準化推進【25億円(22億円)】
- エネルギー需要構造高度化基準認証推進【25億円(25億円)】 等
- 多様な学びのニーズに応える教育イノベーション。
- アート、ファッション、コンテンツの海外展開。
- 大阪・関西万博での健康・医療技術の国際発信
■予算配分
- 学びと社会の在り方改革推進【10億円(新規)】
- コンテンツ海外展開促進【13億円(11億円)】
- 国際博覧会【44億円(24億円)】
- ヘルスケア産業国際展開推進【5億円(4億円)】 等
(3)構造的課題への対応
経済産業省は、労働市場の人手不足問題や、賃上げ、人材への投資などの社会構造的な課題にも目を向けています。地域の中堅、中小企業の発展と投資環境の整備にも力を入れ、物価上昇や危機時のレジリエンスを高めるための方策も模索されています。
①人手不足への対応、賃上げ、人への投資【66億円(65億円)】
- 中小企業の自動化・IT化を推進し、物流の2024年問題に対応。
- 介護における公的保険外サービスの振興による健康増進・介護離職防止、高度外国人材の受入れ拡大。
■予算配分
- 革新的ロボット研究開発等基盤構築【11億円(10億円)】
- IT導入補助金(中小企業生産性革命)【2000億円(R4補正)の内数】
- 流通・物流効率化等基盤構築【7億円(7億円)】
- ヘルスケア産業基盤高度化推進【13億円(9億円)】
- 製造業における外国人材受入れ支援【3億円(3億円)】
- 少子化対策関連サービス需要創出・基盤強化【0.4億円(新規)】 等
- 補助金等による賃上げ支援、人材育成、出向起業、女性活躍、健康経営を促進。
- 労働者のスキル転換(リスキリング)と労働移動を円滑にする。
■予算配分
- 中小企業等事業再構築促進事業【5800億円(R4補正)】
- 中小企業生産性革命推進事業【2000億円(R4補正)】※再掲
- 多様な人材の活躍による企業価値向上促進事業【5億円(6億円)】
- リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業【753億円(R4補正)】 等
②地域の中堅、中小企業・小規模事業者の発展、投資環境の整備【1143億円(936億円)】
- 工業用水道の整備を支援し、半導体等の重要産業の立地に対応。
- 中小企業・小規模事業者の事業再構築、生産性向上、資金繰り支援、親族内承継やM&A等での事業変革、イノベーション支援等を進める。
- 中堅企業に対する国内投資、イノベーション、人材確保の支援。
■予算配分
- 工業用水道事業費【47億円(20億円)】
- 中小企業信用補完制度関連補助【70億円(35億円)】
- 中小企業活性化・事業承継総合支援【223億円(157億円)】
- 後継者支援ネットワーク【6億円(2億円)】
- 成長型中小企業等研究開発支援【134億円(133億円)】
- 中小企業等事業再構築促進事業【5800億円(R4補正)】※再掲
- 中小企業生産性革命推進事業【2000億円(R4補正)】※再掲
- 地域の中堅・中核企業の経営力向上支援【27億円(25億円)】
- 地域の社会課題解決企業支援のためのエコシステム構築実証【7億円(新規)】 等
- 中小企業の海外展開と現地人材の育成を支援。
- 貿易プラットフォームの活用と国際標準の改定で、効率的なサプライチェーンを構築し、輸出入コストを削減。
- 海外からの資金、高度な人材、革新的技術の取り込みにつながる対日投資を促進。
■予算配分
- 現地進出支援強化【45億円(35億円)】
- 貿易プラットフォーム活用による貿易手続きデジタル化推進事業【15億円(新規)】 等
③物価上昇への対応、レジリエンス【190億円(157億円)】
-価格交渉の支援、中小企業の価格転嫁の推進、パートナーシップ構築宣言の拡大と実効性向上。
- スマート保安の導入と、子ども向け製品の安全対策、クレジットカード決済のセキュリティ確保に関する制度検討。
■予算配分
- 中小企業取引対策事業【36億円(24億円)】
- スマート保安実証支援事業【3億円(3億円)】 等
(4)有志国連携による産業政策・経済安全保障
国際的な視野での取り組みも強化されています。有志国との協力を基盤に、新たな国際秩序の構築を目指し、同時に日本経済の安全保障を実現する方向での予算配分が行われています。
①国際秩序の再構築に向けた取組【336億円(298億円)】
- G7貿易大臣会合や第13回WTO閣僚会合を通じ、多角的貿易体制の中核となるWTOの改革を主導。
- G7で合意した「強靭で信頼性のあるサプライチェーンに関する原則」を基に、サプライチェーンの強化を推進。
- G20、CPTPP、RCEP、IPEF、QUADなどの国際フォーラムや枠組み、そしてASEAN、アフリカ諸国との対話を活用して、自由で公正な経済秩序の形成とグローバルサウス各国との連携を強化。
■予算配分
- 東アジア経済統合研究協力拠出金【10億円(10億円)】
- 日・ASEAN 経済産業協力拠出金【2億円(1億円)】
- 独立行政法人日本貿易振興機構運営費交付金【295億円(266億円)】
②経済安全保障の実現【97億円(89億円)】
- 産業競争力の向上、産業防衛の確保、国際枠組みの構築を目指す。
- 物資や資源の供給途絶リスクを低減し、産学官で連携して経済活動の自律化及び強靭化を図る。
■予算配分
- 重要技術総合管理事業【18億円(新規)】
- 希少金属資源開発推進基盤整備【5億円(4億円)】
- 資源自律経済システム開発促進【15億円(12億円)】
- プラスチック有効利用高度化【10億円(14億円)】
- 産学官連携によるサーキュラーエコノミー加速化【4億円(新規)】 等
まとめ
今回は、令和6年度経済産業省の概算要求についてみてきました。
主な補助金情報として、下記支援事業の実施が推測されます。
- 省エネルギー投資促進・需要構造転換支援:910億円(新規)
- 省エネルギー設備への更新を促進するための補助金:360億円
- 家庭の省エネ推進補助金(高効率給湯器導入促進):314億円(新規)
- 住宅・建築物の省エネ投資促進:72億円
- GXサプライチェーン構築支援:1171億円(新規)
- 蓄電池製造サプライチェーン強靱化:4958億円(新規)
- 半導体製造サプライチェーン強靱化:1078億円(新規)
- 需要家主導太陽光発電導入促進事業:158億円
- クリーンエネルギー自動車導入促進補助金:1076億円
- クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金:205億円
- (引き続き実施)中小企業等事業再構築促進事業<事業再構築補助金>:5800億円(R4補正)
- (引き続き実施)中小企業生産性革命推進事業<IT導入補助金、ものづくり補助金、持続化補助金>:2000億円(R4補正)
令和6年度経済産業省の概算要求は、先端技術の普及やデジタル社会への移行、イノベーションの加速、社会構造の課題解決、そして国際協力を通じた経済安全保障の実現を主要な柱としていることが分かりました。今後の日本経済の方向性や政府の重点政策を示すものとして、これらのポイントに注目していきましょう。