2026年4月1日、改正労働安全衛生法のうち、高年齢者の労働災害防止に関する規定が施行されました。これにより、事業者は高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理など、必要な措置を講じるよう努めることが求められています。施行から3か月が経過した今、「対応の必要性はわかっているが、対策コストの捻出が難しい」と対応に踏み切れない企業も多いのではないでしょうか。
厚生労働省の統計では、2024年に労働災害による休業4日以上の死傷者数のうち60歳以上が占める割合が3割台となり、過去20年で倍増しました。60歳以上男性の墜落・転落は20代の約3.6倍、60歳以上女性の転倒による骨折等は20代の約19.5倍にのぼります。もはや「一部の高齢者雇用企業だけの問題」ではありません。
出典:厚生労働省「令和6年 労働災害発生状況について」
この状況で注目されている支援策が、厚労省の「エイジフレンドリー補助金」です。しかし、実は改正安衛法対応で使える助成金は、エイジフレンドリー補助金以外にも複数存在します。この記事では、エイジフレンドリー補助金以外に活用できる6つの助成金を目的別に整理し、改正安衛法対応を進めるうえでの選び方・組み合わせ方をわかりやすく解説します。
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この記事の目次
改正労働安全衛生法「高年齢労働者労災防止措置」とは?努力義務施行3か月で企業に求められる対応
改正労働安全衛生法により、事業者は高年齢労働者の心身の状況に応じた労働災害防止措置を講じることが努力義務となりました。2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法にもとづき、高年齢者の労働災害防止に関する規定は2026年4月1日から施行されています。
これまで参考指標であった「エイジフレンドリーガイドライン」は、2026年3月31日付で廃止され、労働安全衛生法第62条の2にもとづく「高年齢者の労働災害防止のための指針」が適用されています。任意のガイドラインから、法律にもとづく大臣指針へと位置付けが変わった点が大きな変化です。
「努力義務」は罰則がないから対応しなくてよい、は誤解
努力義務には直接的な罰則はありません。しかし、労災が発生した場合、企業には安全配慮義務の履行状況が問われる可能性があります。高年齢労働者の転倒、墜落・転落、重量物取扱いなどのリスクが把握できるにもかかわらず、必要な対策を講じていなかった場合、労務管理上のリスクとして無視できません。
企業が講じるべき5つの措置
指針で示された事業者の措置は、大きく次の5つに分けられます。
| 措置の柱 | 主な取組例 |
|---|---|
| 安全衛生管理体制の確立等 | 経営トップによる方針表明、対策に取り組む担当部署・担当者の明確化、安全衛生委員会等での調査審議 |
| 職場環境の改善 | 危険箇所の把握、ハード面(手すりの設置、段差の解消、照度の確保、重量物取扱いの補助機器導入)、ソフト面(作業スピードや作業姿勢の見直し)等の対応 |
| 健康・体力状況の把握 | 雇入時・定期健康診断、体力チェック、健康・体力情報の適正な取扱い |
| 健康・体力状況に応じた対応 | 勤務時間の短縮、深夜業の回数削減、作業内容の変更、休憩時間の確保、必要に応じた配置転換 |
| 安全衛生教育 | 雇入時教育、作業内容変更時教育、危険有害業務に関する特別教育、写真・図・動画を使ったわかりやすい教育 |
これらの措置には、当然ながら設備投資費・教育研修費・制度整備費・人件費といった相応のコストがかかります。次章で紹介する助成金・補助金は、それぞれの措置類型に対応する形で活用できます。
高年齢労働者労災防止対策に使える助成金・補助金カタログ|エイジフレンドリー補助金以外の6制度
改正安衛法対応で活用できる助成金・補助金は、目的別に大きく分けて「制度整備型」「設備投資型」「教育研修型」「雇用転換型」の4カテゴリに整理できます。以下、エイジフレンドリー補助金も含めた比較表で全体像を確認しましょう。
| 制度名 | カテゴリ | 上限額・支給額 | 補助率・助成率 | 所管・申請先 |
|---|---|---|---|---|
| エイジフレンドリー補助金(参考) | 設備投資・環境改善等 | 上限100万円(コラボヘルスコースは30万円) | 1/2・3/4・4/5 | 厚生労働省・都道府県労働局等/日本労働安全衛生コンサルタント会 |
| 65歳超雇用推進助成金 65歳超継続雇用促進コース | 制度整備(定年引上げ等) | 15〜240万円 | 定額 | 厚生労働省・JEED |
| 65歳超雇用推進助成金 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース | 制度整備(評価・賃金・健康管理) | 60万円(中小企業以外45万円)+機器導入分は対象経費上限50万円に60%等を乗じて上乗せ | 定額+機器導入分は中小企業60%・中小企業以外45% | 厚生労働省・JEED |
| 65歳超雇用推進助成金 高年齢者無期雇用転換コース | 雇用転換 | 中小企業は1人あたり40万円(中小企業以外は30万円) | 定額 | 厚生労働省・JEED |
| 業務改善助成金 | 設備投資(賃上げ連動) | 最大600万円 | 3/4または4/5 | 厚生労働省 |
| 産業雇用安定助成金 スキルアップ支援コース | 在籍型出向によるスキルアップ | 出向中賃金の一部(1人1日8,870円上限等) | 中小企業2/3・中小企業以外1/2 | 厚生労働省 |
| 人材確保等支援助成金 雇用管理制度・雇用環境整備助成コース | 雇用管理制度・業務負担軽減機器等の導入 | 雇用管理制度:上限80万円(賃金要件達成時100万円)/業務負担軽減機器等:上限150万円(賃金要件達成時187.5万円または225万円) | 制度導入は定額/機器等は1/2等 | 厚生労働省 |
どの制度から着手すべきか?目的別の選び方
改正安衛法対応の観点から、企業が置かれた状況に応じて優先順位を検討することが重要です。
・転倒防止マット・手すり・重量物補助機器の導入 → エイジフレンドリー補助金・業務改善助成金
・定年引上げ・継続雇用制度の見直し → 65歳超継続雇用促進コース
・高年齢者向けの評価制度・賃金制度・健康管理制度の整備 → 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
・有期契約の高齢従業員を無期雇用に転換 → 高年齢者無期雇用転換コース
・高齢従業員のリスキリング・技能習得支援 → 産業雇用安定助成金スキルアップ支援コース
エイジフレンドリー補助金は単発の設備投資に強く、65歳超雇用推進助成金は中長期の制度整備に強いという特性があります。両者は目的が異なるため、併給調整に注意しつつ組み合わせて活用することも可能です。
制度整備で使える「65歳超雇用推進助成金」の3コースを整理
65歳超雇用推進助成金は、高年齢者の雇用安定に取り組む事業主を支援する助成金です。3コースが目的別に用意されており、高年齢者の雇用管理や制度整備を見直す際に、改正安衛法対応とあわせて検討できます。
65歳超継続雇用促進コース|定年引上げで最大240万円
65歳超継続雇用促進コースは、65歳以上への定年引上げ・定年廃止・66歳以上の継続雇用制度導入等を実施した事業主に助成する制度です。令和8年度版の手引きでは、支給額は措置内容や対象被保険者数に応じて15万〜240万円とされています。また、段階的な定年引上げ等では、条件により2回目の申請ができる場合があります。
70歳以上への定年引上げや定年廃止といった思い切った措置を検討する企業にとって、受給メリットが最も大きいコースです。60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いることが要件で、業種を問わず活用できます。
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース|評価・賃金・健康管理制度の整備で最大60万円
高年齢者評価制度等雇用管理改善コースは、改正安衛法が求める「安全衛生管理体制の確立」「健康・体力状況の把握」措置と最も親和性が高い助成金です。賃金・人事処遇制度、労働時間、健康管理制度等の整備措置を実施した中小企業に対し60万円、中小企業以外に45万円が支給されます。
さらに、これらの措置の実施に伴って必要となる機器等を導入した場合、対象経費の額(上限50万円)に60%(中小企業以外は45%)を乗じた額が上乗せされます。健康チェック機器や作業負担軽減機器の導入を検討している企業には、負担軽減効果が期待できる制度です。
高年齢者無期雇用転換コース|有期契約の高齢従業員1人あたり40万円
高年齢者無期雇用転換コースは、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した場合に受給できます。令和8年度から支給額が対象者1人あたり40万円に増額されました(従来は30万円)。
高齢従業員の雇用安定は、改正安衛法対応の前提となる「継続的な健康管理・体力把握」を実施するうえでも重要です。ただし1年度あたり10人が上限で、キャリアアップ助成金正社員化コースとは併給できない点に注意してください。
設備投資・教育研修に使える「業務改善助成金」「産業雇用安定助成金」
高年齢労働者の労災防止措置には、設備面・教育面の対策も欠かせません。エイジフレンドリー補助金でカバーしきれない領域は、業務改善助成金と産業雇用安定助成金で補完できます。
業務改善助成金|転倒防止設備・重量物対応設備の投資に最大600万円
業務改善助成金は、事業場内最低賃金の50円以上の引上げと、生産性向上に資する設備投資等をセットで支援する制度です。最大600万円、助成率は事業場内最低賃金額に応じて3/4または4/5です。高年齢労働者の負担軽減につながる設備であっても、生産性向上に資する計画として認められる必要があります。
エイジフレンドリー補助金の上限100万円では収まらない大規模な設備更新を検討する場合、業務改善助成金の活用が有効です。最低賃金引上げが要件となる点は制約ですが、賃上げを伴う設備投資計画があれば、改正安衛法対応と賃上げ対応を一本化できるメリットがあります。
産業雇用安定助成金 スキルアップ支援コース|高年齢者のリスキリングを支援
産業雇用安定助成金スキルアップ支援コースは、在籍型出向により労働者のスキルアップと賃金アップに取り組む場合の助成金です。一般的な社内研修費を直接補助する制度ではないため、高年齢労働者向けの安全教育そのものよりも、出向を通じた技能習得や安全管理技能の習得などに活用できる制度として位置付けるのが適切です。
エイジフレンドリー補助金との使い分けと申請の優先順位
エイジフレンドリー補助金は設備改善や専門家による指導などの取組に使いやすく、65歳超雇用推進助成金は中長期の制度整備に強いという棲み分けが基本です。令和8年度のエイジフレンドリー補助金は予算9.5億円(前年度比25%増)と拡充されており、まずは同補助金で対応可能な環境改善に着手し、並行して制度整備型の助成金を活用する二段構えが現実的です。
申請時に押さえておきたい3つの注意点
① 併給調整:同一の措置・経費に対して複数の助成金を重ねて受給することはできません。65歳超雇用推進助成金と他の雇用関係助成金の併給調整については、厚労省の「雇用関係助成金の申請にあたって」を必ず確認してください
② 予算枠と申請時期:65歳超雇用推進助成金には月次・四半期の予算上限があり、申請が集中すると受付停止になる場合があります。措置実施予定が決まったら早めに準備を開始しましょう
③ 申請先の違い:65歳超雇用推進助成金の申請先は都道府県労働局ではなく、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の都道府県支部です。他の助成金と申請先が異なる点に注意してください
改正安衛法・高齢者雇用助成金に関するよくある質問
改正安衛法の高年齢労働者労災防止措置はいつから施行されましたか?
2026年(令和8年)4月1日から施行されています。2025年5月14日に公布された「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和7年法律第33号)にもとづくもので、施行から3か月が経過した2026年7月時点で、すべての事業者が努力義務の対象となっています。
「努力義務」なので罰則はないと聞きましたが、対応しなくてもよいのでしょうか?
直接的な罰則はありませんが、労災が発生した場合には、企業の安全配慮義務の履行状況が問われる可能性があります。高年齢労働者の転倒、墜落・転落、重量物取扱いなどのリスクを把握できるにもかかわらず対策を講じていなかった場合、労務管理上のリスクとして無視できません。
対象となる「高年齢労働者」の年齢は何歳からですか?
法令上は「高年齢者」の範囲について、厚労省の指針や関連法令に沿って「おおむね60歳以上」を目安に対応することが求められます。ただし、身体機能の変化には個人差が大きいため、指針では55歳以上を含めた幅広い年代を対象に段階的な対応を進めることが推奨されています。健康診断・体力チェックの結果にもとづく個別対応が基本となります。
エイジフレンドリー補助金と65歳超雇用推進助成金は併給できますか?
同一の措置・同一の経費に対して重ねて受給することはできません。ただし、対象となる措置や経費が異なれば、両制度を組み合わせて活用することは可能です。たとえば、エイジフレンドリー補助金で設備投資、65歳超雇用推進助成金で制度整備、というように役割を分けることが実務的な使い方となります。詳細は厚労省の「雇用関係助成金の併給調整早見ツール」で確認してください。
個人事業主や小規模事業者も改正安衛法の対象になりますか?
はい、対象になります。改正安衛法の努力義務は、従業員数や事業規模にかかわらず、60歳以上の労働者を雇っているすべての事業者に適用されます。むしろ、労災発生時の経営インパクトは中小企業・個人事業主のほうが大きくなる傾向があるため、規模が小さい事業者ほど早期の対応と助成金活用が重要です。
業務改善助成金は高年齢者向けの設備投資でも使えますか?
使えます。業務改善助成金は「生産性向上に資する設備投資」を対象としており、転倒防止マット・段差解消スロープ・重量物搬送機器・自動運搬装置など、高年齢労働者の労災防止に役立つ設備も対象になります。ただし、事業場内最低賃金の引上げが要件となる点は要注意です。賃上げを伴う設備投資計画がある場合には有力な選択肢です。
予算が限られる中小企業はどの助成金から着手すべきですか?
改正安衛法対応を初めて進める中小企業は、まず「エイジフレンドリー補助金(最大100万円)」で緊急度の高い環境改善に着手し、次に「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース(最大60万円+機器導入上乗せ50万円)」で制度整備を進める順序が現実的です。両者は目的と対象経費が異なるため、組み合わせて活用しやすい制度設計になっています。
エイジフレンドリーガイドラインが廃止されたと聞きましたが、参考にできる資料はありますか?
従来のエイジフレンドリーガイドラインは2026年3月31日で廃止されましたが、その内容は労働安全衛生法第62条の2にもとづく「高年齢労働者の労働災害防止のための指針」に引き継がれ、法律上の位置付けが強化されました。厚労省のホームページで指針本文が公開されているほか、都道府県労働局・労働基準監督署でも相談を受け付けています。
65歳超雇用推進助成金の申請から入金までどのくらいかかりますか?
コースや審査状況によって異なりますが、支給申請から入金までおおむね数か月を要するのが一般的です。65歳超雇用推進助成金は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の都道府県支部と本部の両方で審査が行われるため、修正依頼や問い合わせが複数回発生することもあります。書類不備がないよう、事前準備を丁寧に行うことが早期入金のポイントです。
労災が発生した場合、努力義務違反として追及される可能性はありますか?
努力義務そのものへの直接的な罰則はありませんが、労災発生時には安全配慮義務違反が問われる可能性があります。労働安全衛生法第62条の2にもとづく大臣指針が公示されたことで、企業が果たすべき安全配慮義務の内容がより明確になりました。指針に沿った対策を講じていなかった場合、「予見可能なリスクを認識しながら対策を怠った」と判断される余地が広がり、損害賠償責任のリスクが高まります。
まとめ|改正安衛法対応は複数制度の組み合わせで負担を軽減できる
改正労働安全衛生法の高年齢労働者労災防止措置は、2026年4月1日に施行されて3か月が経過しました。60歳以上の労災発生率が高止まりする現状を踏まえれば、「努力義務だから」と対応を先送りにするのは経営リスクそのものです。
対策コストの負担軽減には、エイジフレンドリー補助金だけでなく、65歳超雇用推進助成金の3コース・業務改善助成金・産業雇用安定助成金など複数の制度を組み合わせて活用することが有効です。設備投資はエイジフレンドリー補助金や業務改善助成金、制度整備は65歳超雇用推進助成金、教育研修は産業雇用安定助成金というように、目的別に助成金を使い分けることで、改正安衛法対応の総コストを大きく圧縮できます。
自社にどの制度が使えるかの判断や、併給調整の可否など、複雑な実務判断は専門家に相談することでスムーズに進められます。
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