コロナ克服・新時代開拓のための経済対策の実施にむけ、本年度の補正予算で「1.新型コロナウイルス感染症の拡大防止」「2.ウィズコロナ下での社会経済活動の再開と次なる危機への備え」「3.未来社会を切り拓く新しい資本主義の起動」「4.防災・減災、国土強靱化の推進など安全・安心の確保」という4つの柱を掲げて、各省庁が関連事業を計画しました。
厚生労働省の追加額は一般会計8兆4,628億円を含む8兆9,733億円で、新型コロナ緊急包括支援交付金等による支援や、ワクチン接種体制の確保、雇用保険財政の安定等に大きな予算が充てられる見込みです。今回は、令和3年度厚生労働省の補正予算案から、今後実施予定の事業のポイントや助成金の拡充情報をご紹介します。
この記事の目次
令和3年度厚生労働省補正予算の内容
1.新型コロナウイルス感染症の拡大防止 | 8兆1,832億円 |
2.「ウィズコロナ」下での社会経済活動の再開と次なる危機への備え | 3,803億円 |
3.未来社会を切り拓く「新しい資本主義」の起動 | 1兆4,661億円 |
4.防災・減災、国土強靱化の推進など安全・安心の確保 | 2,603億円 |
4つの柱のうち、厚生労働省では「1.新型コロナウイルス感染症の拡大防止」と「3.未来社会を切り拓く「新しい資本主義」の起動」に大きな予算を計上しています。ここから、感染拡大の可能性に備えて危機管理を徹底しつつ、「成長と分配の好循環」を実現する上で必要不可欠な生産性引き上げのために、「人」への思い切った投資を行う、といった方向性がみえてきます。
(※事項によっては複数の柱に計上しているものがあるため、厚生労働省の追加額として示された8兆9,733億円は、1~4の各柱の合計額とは一致しません。)
では、それぞれどのような取り組みに予算が計上されているのか順番にみていきましょう。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止【8兆1,832億円】
1. 医療提供体制の確保等
・新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金等による支援:2兆1,033億円
・医療用物資等の確保等:467億円
・ワクチン接種体制の確保等:1兆3,879億円
・治療薬の実用化支援・供給確保等:6,075億円
・行政検査の実施等の感染拡大防止対策:1,972億円
・児童福祉施設等における感染症対策への支援:181億円
新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金を増額し、都道府県が地域の実情に応じて行う、重点医療機関等の病床確保や宿泊療養施設の確保、医療人材の確保などを引き続き支援し、医療提供体制等の強化等を図ります。また、ワクチン、検査、治療薬等の普及による予防、発見から早期治療までの流れをさらに強化する予定です。
2. 感染症の影響により厳しい状況にある方々の事業や生活・暮らしの支援
・雇用調整助成金等による雇用維持の取組への支援:1兆854億円
・雇用保険財政の安定等:2兆1,611億円
・小学校等臨時休業等に伴う保護者の休暇取得支援:55億円
・個人向け緊急小口資金の特例貸付等の各種支援の実施:5,621億円
・生活困窮者・ひきこもり支援体制、自殺防止対策、孤独・孤立対策の強化等:66億円
・通いの場をはじめとする介護予防や施設での面会等の再開・推進の支援:4.1億円
・生産活動が停滞している就労系障害福祉サービス事業所への支援:6.5億円
・生活衛生関係営業者への経営に関する相談等支援:2.0億円
・国民健康保険・介護保険等への財政支援:273億円
雇用調整助成金の特例措置について、令和4年3月まで延長し、雇用の維持・確保に取り組むとしています。特に業況が厳しい事業主への配慮を続けながら、原則的な措置における上限額は1月以降段階的に縮減とする予定です。
雇用保険の積立金残高が大幅に減少している中で、雇用保険制度のセーフティネット機能を十分に発揮できるようにするため、2兆1,611億円が計上されています。これは雇用保険財政の安定を図ることを目的としています。
また、コロナの影響で生活に困窮する世帯を支援するため、緊急小口資金・総合支援資金(初回)および住居確保給付金の特例措置並びに生活困窮者自立支援金について、申請期限を令和4年3月末まで延長するなど、各種支援を実施するとしています。
「ウィズコロナ」下での社会経済活動の再開と次なる危機への備え【3,803億円】
1.安全・安心を確保した社会経済活動の再開
・検疫におけるワクチン接種証明書の電子化への対応:9,700万円
・障害福祉サービス事業所等に対するサービス継続支援:36億円
・イベントの実施等による生活衛生関係営業の消費喚起:4.2億円
・新型コロナウイルス感染症に対応した心のケア支援:5,100万円
今後、増加が見込まれる入国者に対応するため、検疫所における新型コロナワクチンの電子接種証明の活用に必要なシステムの構築を行う予定です。また、障害福祉サービス事業所等で感染者等が発生した場合でも、影響を最低限に留めてサービスの提供を継続するため、消毒や人員確保等の経費への支援を行うとともに、緊急時に備え、職員の応援体制等の構築を推進するとしています。
2.感染症有事対応の抜本的強化
・新興感染症の治療薬等に関する研究開発等の推進:145億円
・新型コロナウイルスワクチン開発支援等:2,562億円
・プレパンデミックワクチンの備蓄等様々な感染症対策の充実・強化:48億円
・国立感染症研究所等の体制強化:14億円
・機動的な水際対策の推進、入国者の健康確認の体制確保:788億円
・国際機関と連携した国際的な研究開発等の推進:5.0億円
コロナウイルスワクチン開発支援等には2,562億円を計上し、国産ワクチン開発企業に対する実証的な研究費用の補助に加えて、開発に成功した場合のワクチンの買上、ワクチン生産に必要な部素材の国産化の支援等を行うことで、国産ワクチンの開発を進めていくとしています。
そのほか、今後、増加が見込まれる入国者に対応するとともに、新たな変異株等の流入防止のため、待機施設の確保や検査の民間委託等、機動的な水際対策の推進を図るとして788億円を計上しています。
未来社会を切り拓く「新しい資本主義」の起動 【1兆4,661億円】
1.成長戦略
◆科学技術立国の実現
・全ゲノム解析等の確実な推進:24億円
・介護ロボット開発等の加速化支援:3.9億円
◆地方を活性化し、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」
・保健医療分野のデータ連携基盤の整備の推進:2.9億円
・審査支払システム等のICT化の推進:131億円
・救急等における保健医療情報の利活用、オンライン資格確認の推進:21億円
・自治体等における介護・障害福祉分野等のシステム標準化等の推進:41億円
・障害福祉分野のICT・ロボット等導入支援:7.5億円
◆経済安全保障
・医薬品等の安定供給の確保:75億円
成長戦略の分野では、生産性向上等を通じた安全・安心な介護サービス提供等のための介護ロボット開発の加速化支援や、審査支払システム等のICT化のほか、介護保険関係業務や障害福祉関係業務等について、自治体等における業務プロセスや情報システムの標準化等の推進とマイナンバー連携等を推進して業務の効率化や利用者の利便性向上を図る取り組みなどに予算を計上しています。
2.分配戦略 ~安心と成長を呼ぶ「人」への投資の強化~
◆民間部門における分配強化に向けた強力な支援
・最低賃金の引上げへの対応を支援するための業務改善助成金の拡充:135億円
・コロナ禍での非正規雇用労働者等に対する労働移動支援等:808億円
・IT分野への重点化によるデジタル人材の育成等:216億円
・良質なテレワークの定着促進のための企業支援:制度要求
分配戦略では、助成金の拡充が予定されています。民間部門における分配強化に向けた強力な支援として、コロナ禍においても事業場内の最低賃金の引上げを図る中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援するため、業務改善助成金の拡充が筆頭に挙げられています。
業務改善助成金の拡充について
【現行の制度内容】
生産性向上に資する設備投資等(機械設備、コンサルティング、人材育成等)を行った場合にその費用の一部を助成する制度です。
以下の要件をすべて満たす事業場が対象になります。
・事業場内最低賃金を一定額以上引き上げること
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内であること
・事業場規模100人以下であること
【特例的な拡充の内容】
コロナ禍で売上高等が30%以上減少している事業者が、事業場内最低賃金を30円以上引き上げた場合に、特例的に範囲を拡大する予定です。具体的には、業務改善計画を策定し、計画全体として生産性向上が認められる場合、生産性向上に資する設備投資等の他、助成対象経費の特例として、生産性向上に資する設備投資等に関連する費用についても助成対象として認めるとしています。
特例で、助成対象費用として計上されるものの例は以下のとおりです。
・広告宣伝費
・執務室の拡大、机、椅子等の増設
・汎用事務機器購入費 等
(ただし、特例で認める費用については、生産性向上に資する設備投資等の額を上回らない範囲とします)
【対象事業場】
以下の要件をすべて満たす事業場が対象になります。
・前年または前々年同期比較で売上高や生産量等の指標が30%以上減少していること。
・事業場内最低賃金を、令和3年7月16日から同年12月までの間に30円以上引き上げること。
【助成率】
3/4
【助成上限額】
100万円
出典:令和3年度 厚生労働省補正予算案(参考資料)Ⅲ.未来社会を切り拓く「新しい資本主義」の起動
このほか、コロナ禍で厳しい雇用情勢にある非正規雇用労働者等に対して、職業訓練と再就職支援を組み合わせ、労働移動やステップアップを強力に支援するため、求職者支援制度やトライアル雇用助成金等の拡充、民間派遣会社を通じた研修・紹介予定派遣等を行うとしています。また、キャリアアップ助成金による非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を推進する予定です。
デジタルなどの成長分野を支える「人」への投資としては、デジタル人材の育成等を図るため、事業主等が行うIT技術の知識・技能を習得させる訓練を人材開発支援助成金の高率助成に位置づけるとしています。
コロナ禍で一気に広がったテレワークの「定着」に関しては、通信機器の導入経費等を支援する人材確保等支援助成金(テレワークコース)において対象事業主・助成対象経費の見直しを含め、一層の活用を図る予定です。具体的には、テレワーク勤務を新規導入する場合のほか、「試行的に導入している、または導入していた場合」も助成対象とするとともに、助成対象となる取り組みにおけるテレワーク用通信機器等の導入について「テレワーク用サービス利用料」を追加し、助成対象とする見直しを行うとしています。
◆公的部門における分配機能の強化等
・看護、介護、保育など現場で働く方々の収入の引き上げ:1,665億円
・介護福祉士修学資金等貸付事業による人材の確保:9.3億円
・母子保健と児童福祉の一体的提供に向けた支援:602億円
・虐待防止のための情報共有システムの整備等ICT活用による児童虐待防止対策の強化:76億円
・産後ケア事業を行う施設整備の促進、妊産婦等への支援:53億円
・「新子育て安心プラン」に基づく保育の受け皿整備・人材確保:515億円
・医療的ケア児支援センターの開設の促進:7,100万円
・ひとり親家庭等に対するワンストップ相談体制の構築・強化:1.6億円
・ひとり親家庭等の子どもの食事等支援:22億円
・不妊治療の保険適用の円滑な移行に向けた支援:67億円
保育士等、介護・障害福祉職員を対象に、賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための措置を令和4年2月から実施する予定です。看護については、まず地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、段階的に収入を3%程度引き上げていくこととし、収入を1%程度(月額4,000円)引き上げるための措置を令和4年2月から実施するとしています。
このほか、「新子育て安心プラン」に基づき、保育所等の整備を推進するとともに、保育人材の確保のため、ICT化の推進による保育士の業務負担軽減や、指定保育士養成施設に通う学生の修学資金等の貸付原資の積み増しを行うとして515億円を計上しています。
防災・減災、国土強靱化の推進など安全・安心の確保【2,603億円】
・水道施設の耐災害性強化等:395億円
・医療施設等の耐災害性強化等:31億円
・社会福祉施設等の耐災害性強化等:241億円
・建設アスベスト給付金の支給等:1,730億円
・B型肝炎訴訟の給付金等の支給:156億円
児童福祉施設や障害者支援施設、介護施設等の災害復旧や、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に基づく耐震化整備、非常用自家発電設備の設置、浸水対策等について支援を行うとして、社会福祉施設等の耐災害性強化等に241億円を計上しています。
まとめ
令和3年度厚生労働省の補正予算案からは、感染力が倍になった場合にも対応可能な医療提供体制を確保するとともに、長引くコロナの影響を受ける方々の事業や生活の支援を行うこと、また、新しい資本主義のうち特に「分配戦略」に注力し、賃上げへの支援、人的資本への投資や非正規雇用労働者等への分配強化を進めていくという方針がみてとれます。
また、コロナ禍での雇用維持対策として重要な役割を果たしている雇用調整助成金に関しては、当面の雇用調整助成金等の財源確保および雇用保険財政の安定を図るため、一般会計から労働保険特別会計(雇用勘定)に繰入を行うとして2兆1,611億円が予算案に盛り込まれています。
これにより、懸念されていた雇用保険の財源枯渇は回避される見込みですが、厚生労働省は雇用保険料の引き上げを検討しているとも報じられており、雇用調整助成金が今後どのようにして制度として持続していくのか動向を注視する必要があるでしょう。
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