ものづくり補助金は、中小企業等が生産性向上に資する革新的サービスの開発や試作品開発、生産プロセスの改善を行うための設備投資を支援する制度です。原則として返済義務がなく、資金として使いやすいことが補助金の特徴ですが、これは会計上、企業の収入として扱われます。
企業の収入は、規則に従って課税の対象となります。ものづくり補助金をはじめとする補助金は税制上、どう扱えばよいのでしょうか。
今回はものづくり補助金を例に、補助金と法人税の関係や、負担軽減措置としての「圧縮記帳」について解説していきます。
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この記事の目次
ものづくり補助金は法人税の対象になる?
ものづくり補助金をはじめとする補助金は、多くの場合法人所得とみなされて法人税の課税対象となります。交付された補助金額は売り上げと同様に「収入」に数えられ、企業は定められた税率に従って納税します。
そのため、多額の補助金を受け取った場合には、法人税が高額となって企業の負担となることもあるのです。
補助金は、資金的な余裕の少ない中小企業等を支援するためのものです。補助金を受け取ったために納税の負担が極度に増し、企業運営を圧迫することのないように設置されたのが、「圧縮記帳」です。
圧縮記帳で減税できる?
圧縮記帳は、納付するべき法人税を数年間にわたって分散させ、該当年度における法人税の納付額を減らす制度です。一時的な節税効果はありますが、納付義務が免除されるわけではありません。
まずはその概要について、見ていきましょう。
圧縮記帳とは
圧縮記帳は、所得税法や法人税法で定められた制度です。法人税法では第42条から第51条までが該当しますが、ここでは補助金に関連する、第42条から第44条について見ていきましょう。
各条文のうち、補助金の圧縮記帳に関わる基本的な内容は以下のとおりです。
■国内の法人が国庫補助金等の交付を受けた場合、その交付の目的に適合した固定資産額に関して、補助金額に相当する金額を損金として会計処理することができる。
■この処理は、補助金等を固定資産として交付された場合にも適用できる。
つまり、圧縮記帳を利用すると、交付を受けた補助金等は収益ではなく、「損金 (圧縮損)」として会計処理することできるのです。また、圧縮記帳では、経理方法として積立金として積み立てる方法も選択できます。
しかしこのことは、「補助金分が非課税になった」という意味ではありません。あくまで、一部の納税を翌年以降へ繰り延べる「課税繰延措置」です。また、圧縮記帳が適用されるのは、補助金の返還を要しないことが確定している場合に限られます。
圧縮記帳と減価償却
圧縮記帳と減価償却はどちらも損金として一定金額を計上することで課税所得を減らし、納税の負担を軽減させる効果があります。ひとつの固定資産に対して同時に適用されることもあるため、混乱するかもしれません。
しかし、圧縮記帳と減価償却は目的や計算方法が大きく異なります。それぞれの主な違いは、以下の通りです。
■圧縮記帳
主に国や地方自治体からの補助金を受けて固定資産を取得または改善した場合に、税負担を減らすのが目的です。
固定資産の取得額から補助金額を減額し、この減額額を圧縮損として計上します。損金として計上するのは、初年度に1度だけです。
■減価償却
経年によって価値が減少する固定資産を、正しく会計処理に反映させるための手続きです。固定資産の取得コストをその耐用年数で分割し、減価償却費として算出します。
固定資産の取得後、毎年、一定額の減価償却費を経費として計上します。
圧縮記帳と減価償却は対象となる固定資産が一部異なります。「建物」や「機械」などは双方の対象となりますが、「土地」は価値が低下しないと考えられ、減価償却の対象にはなりません。また、圧縮記帳の対象になるのは、補助金等で取得された固定資産のみです。
税務処理は複雑です。誤りのない手続きを行うために、迷ったときには専門家に相談しましょう。
ものづくり補助金には、圧縮記帳が適用される
令和3年1月27日、全国中小企業団体中央会が「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」における圧縮記帳等の適用について、国税庁に問い合わせを行ったことが公表されました。その結果「本補助金は圧縮記帳等の適用が認められる」との回答を得ています。
また、令和5年3月31日には、同会より、令和3年度補正・令和4年度2次補正「ものづくり・商業・サービ ス生産性向上促進補助金」も同法の適用範囲内であることが明言されています。
ただし、ものづくり補助金のうち「技術導入費」「専門家経費等」の「経費を補填するための補助金」については、圧縮記帳の対象外です。
圧縮記帳を利用するメリット・デメリットとは
納税の負担を分散させる効果のある圧縮記帳ですが、利用する際には注意してほしいこともあります。ここでは、ものづくり補助金で圧縮記帳を利用するときのメリットとデメリットについて確認しておきましょう。
【メリット】補助金分の法人税を分散して納税できる
繰り返しになりますが、圧縮記帳を利用する最大のメリットは、納税の負担を分散させることができる点です。
法人税は、該当の事業年度終了後2か月以内に納付する必要があります。普通法人等では所得金額の23.2%が法人税額です。年間所得が1億円以下の中小企業等では、800万円以下の金額部分の税率が15%となる減税処置が適用されます。
参考:財務省 法人課税に関する基本的な資料
例えば企業が1000万円で固定資産を購入し、200万円の補助金を受けた場合、圧縮記帳の適用前後では以下のようになります。
■圧縮記帳適用前
課税所得は800万円(1000万円の購入価格から200万円の補助金を差し引いた額)です。法人税率23.2%を適用すると、法人税負担は185.6万円となります。
■圧縮記帳適用後
企業は圧縮記帳を適用することで、固定資産の帳簿価額は200万円の減少となります。これにより課税所得は600万円となり、法人税負担は139.2万円となりました。
このケースでは、圧縮記帳が適用されることで、初年度の企業の法人税負担は46.4万円減少しました。減少した金額は、翌年以降に納税することとなります。
この試算における圧縮記帳適用前後の税額等については、こちらの表も参考にしてください。
項目 | 圧縮記帳適用前 | 圧縮記帳適用後 |
固定資産の購入価格 | 1000万円 | 1000万円 |
国庫補助金等の額 | 200万円 | 200万円 |
帳簿価額の減額 | 0円 | 200万円 |
課税所得 | 800万円 | 600万円 |
法人税負担 | 185.6万円 | 139.2万円 |
また補助金を受け取り、収益が200万円増加したことで年間所得が1億円を超えた場合には、15%の減税措置も受けられなくなります。
ものづくり補助金は、通常枠でも最大1,250万円の交付を受けられるほか、大幅な賃上げを行うことで上限額が引き上げになるなど、補助額が大きい制度です。そのぶん、該当年度の法人税額にも大きな影響を及ぼします。
圧縮記帳を行うことで、法人税の負担を大きく軽減できる可能性があるのです。
【デメリット】事務作業が煩雑になる
圧縮記帳を行うには適切な事務作業の遂行が必要です。帳簿への損金等記載のほか、「圧縮記帳資産」として台帳を分けて管理する必要があります。資産数が増えると管理が難しくなることもありますので、専門家への依頼も検討するなど、事前に体制を整えておきましょう。
また、圧縮記帳を実施した翌年以降は法人税等の税負担が増加します。この負担は複数年にわたって続くものです。
補助事業を活用して設備等の導入を行った場合、収益が上がったり、業務効率が良くなったりして、業績が改善します。利益が増えれば納税での負担も軽減されるはずですので、一般的には圧縮記帳を活用し、税の負担を分散させたほうが企業にとって有利になります。
しかし事務処理の増加や長期的な納付額の増加が負担になる場合には、圧縮記帳を利用しないほうがよいかもしれません。
どちらがより利益が大きいのかは、事前によく検討する必要があるでしょう。
まとめ
ものづくり補助金をはじめとする補助金は、企業の負担を減らしつつ、成長するための支援です。一方で、交付された金額は企業にとっては所得です。特に軽減処置を受けている中小企業では、法人税の負担増加を恐れ、補助金の利用をためらうこともあるかもしれません。
圧縮記帳は、そうした負担を分散させるための制度です。翌年度以降、複数年にわたって法人税が増加するデメリットはありますが、補助金の活用で得られる利益は、将来的な企業成長を支えてくれます。大きな課題を解決し、飛躍的な成長につなげたい企業には、圧縮記帳の活用が力となるはずです。
補助金の申請時には、ぜひ圧縮記帳の活用も検討してください。