「103万円の壁」は、所得税がかかり始める基準として知られています。この壁を意識して働き方を調整する人も多く、労働市場や経済にも影響を与えています。現在、この「年収の壁」を見直そうとする動きが活発になっています。本記事では、「103万円の壁」の仕組みや、見直しによる変化について説明します。
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この記事の目次
年収の壁とは?
働く人々が「年収の壁」を意識するのは、その収入を超えると税金や社会保険料の負担が増えるからです。特に、103万円、106万円、130万円という年収のラインは、「税の壁」と「社会保険料の壁」として就業調整の要因になることが多いです。ここでは103万円の壁の仕組みを中心に見ていきましょう。
103万円の壁は「税の壁」
103万円の壁は、所得税が発生する基準を指します。年収が103万円を超えると、超過分に対して所得税が課税されます。
▼所得金額に応じた税率は以下のとおりです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1000円~194万9000円 | 5% | 0円 |
195万円~329万9000円 | 10% | 9万7500円 |
330万円~694万9000円 | 20% | 42万7500円 |
695万円~899万9000円 | 23% | 63万6000円 |
900万円~1799万9000円 | 33% | 153万6000円 |
1800万円~3999万9000円 | 40% | 279万6000円 |
4000万円以上 | 45% | 479万6000円 |
たとえば、年収105万円の場合、103万円を超えた2万円に5%を乗じた1,000円が所得税額です。所得が増えると税率は上がり、控除額も増加します。
年収が103万円を少し超えただけなら税の負担は少ないといえます。年収105万円では、所得税と復興特別所得税(所得税額の2.1%)を合わせても1,021円の負担です。超過分にのみ課税されるため、急激な負担増にはなりません。
【参考】106万円・130万円の壁は「社会保険料の壁」
103万円の税の壁に加え、年収が106万円や130万円を超えると「社会保険料の壁」が生じます。
勤務先が従業員数51人以上の場合、年収が106万円を超えると厚生年金や健康保険の加入が義務付けられます。これにより、社会保険料が引かれ、手取り収入が減少します。
上記以外の勤め先の場合、国民健康保険や国民年金の保険料の支払いが発生する年収です。
これらの壁が、パートタイムやアルバイトで働く人たちにとって、「これ以上働くと手取りが減る」といった就業調整(いわゆる「働き控え」)の要因になっています。
年収の壁が引き起こす問題
これらは、単に個人の収入や税負担に影響するだけでなく、以下のような社会的な問題も引き起こします。
労働力不足の深刻化 |
壁を意識した働き控えにより、スーパーや飲食業など、パートに依存する業種で慢性的な人手不足が発生しています。特に非正規労働者が多い職場では、壁が業務運営の課題となることが多いです。 |
就労意欲を低下させる |
年収の壁を超えた場合の手取り収入の減少が心理的負担となり、積極的に働きたいと思う人の意欲をそいでいるとの指摘があります。特に高齢者や女性が多いパートの分野では、この影響が顕著です。 |
経済活性化の妨げになる |
壁を意識した働き控えにより、個人の可処分所得(手取り)や消費が伸び悩み、その結果、地域や国の経済が停滞する原因となっているのです。 |
103万円の壁を超えたらどうなる?
次に、103万円の壁を超えることで、具体的にどのような影響があるのかを見ていきます。
配偶者控除への影響
夫婦の一方Aが正社員で、もう一方Bがパートで働いている場合、条件を満たせば正社員の配偶者が控除を受けられます。年収が103万円を超えると、扶養している配偶者の「配偶者控除」が適用されなくなります。控除の種類はパート側の年収によって次のように決まります。
【ポイント】 |
---|
・パートの年収が103万円以下の場合 配偶者は「配偶者控除」を受けられます。 ・パートの年収が103万円を超え、201.6万円未満の場合 配偶者は「配偶者特別控除」を受けられます。年収150万円までは「配偶者控除」と同額の控除が適用されます。 |
年収が増えると段階的に控除額が減少しますが、201.6万円未満までは一定の控除が続くので、控除が完全になくなるわけではありません。
適用される控除と控除額は、Aの合計所得金額やBのパート収入に応じて以下のようになります。年収計画を立てる際の参考にしてください。
Aの合計所得金額 (給与所得のみの場合の給与等の収入金額) | ||||
900万円以下 (1,095万円以下) | 900万円超950万円以下 (1,095万円超 1,145万円以下) | 950万円超1,000万円以下 (1,145万円超 1,195万円以下) | ||
配偶者 控除額 | Bのパート収入 103万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
配偶者特別 控除額 | Bのパート収入 103万円超150万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
150万円超155万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | |
155万円超160万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | |
160万円超166.8万円未満 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | |
166.8万円以上175.2万円未満 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | |
175.2万円以上183.2万円未満 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | |
183.2万円以上190.4万円未満 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | |
190.4万円以上197.2万円未満 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | |
197.2万円以上201.6万円未満 | 3万円 | 2万円 | 1万円 | |
201.6万円以上 | 0円 | 0円 | 0円 |
出典:国税庁 家族と税
所得税・住民税の負担が増える
【所得税の発生】
前述のとおり、年収が103万円を超えると、超えた分に所得税がかかるようになります。
【住民税の発生】
また、年収が100万円を超えると住民税がかかり始める場合があります。たとえば、東京23区では、住民税がかからない収入の上限は、給与所得控除(55万円)と基礎控除(45万円)を足した年収100万円です。このラインを超えると、住民税の支払いが必要になります。
※住民税には「所得割」と「均等割」があり、地域によって課税基準や金額が異なります。そのため、収入が100万円以下でも「均等割」が課されるケースもあります。
年収を103万円以内におさえたい場合はどうすればいいか
年収を103万円以内に抑えるためには、月収を85,000円以下にする必要があります。この金額を超えると103万円のラインを超えてしまう可能性があります。以下に、勤務時間を計算する方法を説明しますので、ご自身の時給にあわせて確認してみてください。
【1か月の勤務時間の計算】
月収の上限を時給で割ることで、1か月に働ける時間が求められます。今回のように月収の上限が85,000円で、時給が1,055円の場合、85,000円 ÷ 1,055円 =約80.6時間となります。これが、1か月に働ける時間です。
【1週間の勤務時間の計算】
1か月の勤務時間を、1か月あたりの平均週数である4.33週で割ることで、1週間あたりの勤務時間を算出します。先ほど求めた1か月の勤務時間が80.6時間であれば、80.6時間 ÷ 4.33 = 約18.6時間となります。これが、1週間の勤務可能な時間です。
年収を103万円以内に抑えたい場合は、働く時間を計算し、月収を85,000円以下に調整する必要があります。ただし、103万円の壁を超えて働く選択肢もあり、その場合は税金や社会保険料の負担が増える一方で、手取りや将来の年金額が増える可能性があります。
一般的に扶養範囲内で「働き損」を避けるための目安は、年収130万円といわれています。税金や保険料の負担をできるだけ抑えながら、効率的に収入を増やす方法を考えることが大切です。自身の状況に合わせて、無理のない働き方を選びましょう。
103万円の壁が178万円へ引き上げられるとどうなる?減税効果と課題
国民民主党は、「103万円の壁」を解消するために、所得税の基礎控除を現行の48万円から75万円引き上げて123万円とし、非課税となる収入の上限を178万円まで引き上げる提案を行っています。
基礎控除の引き上げは、多くの給与所得者に影響するため、減税効果が広範囲に及ぶとされています。政府は年末にかけて行われる税制改正の議論で、所得税の控除額をどこまで引き上げるかなど制度の検討を進めます。
減税効果は?
大和総研の試算によると、基礎控除を引き上げた場合、年収に応じて以下のような減税効果が見込まれます。
年収200万円の場合 | 8万2000円の減税 |
年収300万円の場合 | 11万3000円の減税 |
年収500万円の場合 | 13万3000円の減税 |
年収800万円の場合 | 22万8000円の減税 |
非課税枠が拡大することで、特に年収178万円以下の人にとっては所得税がゼロになるメリットがあり、家計への負担軽減が期待されます。
税収への影響と課題
基礎控除の引き上げは、働く人々にとっての減税効果が大きい一方で、政府や地方自治体の税収には大きな影響を及ぼします。
政府試算によると、基礎控除が178万円に引き上げられると、国と地方を合わせた税収は7兆円から8兆円減少する可能性があるとされています。また、減税効果は高所得者ほど大きくなるため、所得格差が広がる懸念も指摘されています。
【社会保険料の壁を含む議論が必要】
「103万円の壁」が「税の壁」として注目されていますが、それだけでは不十分です。年収の壁には、106万円や130万円を超えると生じる「社会保険料の壁」も存在するため、税制上の壁を解消しても働き方の変化は限定的になる可能性があります。税と社会保険負担を含めた包括的な見直しが求められています。
まとめ
「年収の壁」と呼ばれる制度上のラインは、働く人々の就業意欲や生活設計に大きな影響を及ぼしています。特に「税の壁」や「社会保険料の壁」は、パートやアルバイトなどの働き方に制約を与え、労働力不足や経済活性化の障害となってきました。
政府や政党の提案による基礎控除の引き上げは、働き手の手取り収入を増やし、消費の活性化につながる可能性があります。一方で、税収の減少や高所得者に偏った減税効果など、制度改正には解決すべき課題が多く残されています。今後の政策動向を注視しながら、自分や家族にとって最適な働き方や収入計画を考えていきましょう。