政府は7月7日の臨時閣議で、来年度予算の編成に向けて各省庁が要求する際のルールとなる「概算要求基準」を了解しました。この基準にそって各省庁は8月末までに予算を要求(概算要求)し、財務省の査定を経て年末に予算案ができます。
今回公表された概算要求基準によると、成長分野に予算を重点配分する「特別枠」が2年ぶりに戻ってきます。菅政権が重視するグリーン化(脱炭素)やデジタル化、地方活性化、子育て支援の4分野への予算配分を進めるため「新たな成長推進枠」として設置されます。
本記事では、予算を要求する際のルールである「概算要求基準」の内容と、「新たな成長推進枠」で対策が強化される4つの分野についてご紹介します。8月末から公表される概算要求の予習としてご確認ください。
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この記事の目次
令和4年度予算の概算要求基準
概算要求基準では、要求額が膨らまないように予算額に上限を設けています。歳出総額の上限は設定されず、「地方交付税 交付金等」「年金・医療等」「裁量的経費」「義務的経費」の項目別に設定されています。
出典:令和4年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について
【概算要求基準の要点】
・高齢化などに伴う社会保障費の自然増は6,600億円を見込む
・裁量的経費の10%削減が求められる
・成長分野の政策について、削減額の3倍まで特別枠として要求できる
・新型コロナウイルス対策については「事項要求」を認める
年金・医療等の社会保障は、前年度当初予算額の33兆7,000億円に、自然増分を加えた金額まで要求が認められます。自然増については、団塊の世代が75歳以上(後期高齢者)に入り始め、医療、介護関連の費用が膨らむことから6,600億円と見込まれています。
裁量的経費(政策によって柔軟に増減できる裁量性の高い経費)を10%削減する一方で、削減した額の3倍までを特別枠として要求することが認められています。義務的経費(人件費、扶助費など)についても、削減額に応じて特別枠への要求に上乗せすることができます。
新型コロナウイルスへの対応は、予見することが難しいため、具体的な金額を示さない「事項要求」が認められています。
特別枠(新たな成長推進枠)で対策が強化される4つの分野
予算の重点化が進められる特別枠(新たな成長推進枠)とはいったいどのようなものでしょうか。
菅政権が発足してから、2050年カーボンニュートラルの宣言、デジタル庁の創設、地方の所得向上を重視した地方活性化、不妊治療の保険適用を始めとする少子化対策や子育て支援といった、今後日本が進めていく改革の方向性が示されました。
政府はこれらの改革を実現するために、時代をリードする「成長を生み出す4つの原動力」として位置付けて、投資を進めていきたい考えです。この基本方針に基づいて、グリーン、デジタル、地方活性化、子供・子育てへの重点的な予算配分を行うとしています。
出典:経済財政運営と改革の基本方針2021 概要
それでは4つの原動力としてあげられた分野を確認し、どのような補助金・助成金がこれから実施されるか探ってみましょう。
1.グリーン社会の実現
- グリーン成長戦略による民間投資・イノベーションの喚起
- 脱炭素化に向けたエネルギー・資源政策
- 成長に資するカーボンプライシングの活用
国は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しています。また、2030年度の温室効果ガス排出削減目標を「2013年度比46%減」という目標にしました。産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるようカーボンプライシング(二酸化炭素を排出した量に応じて、企業等が金銭的なコストを負担する仕組み)にも取り組んでいく考えです。
目標の実現に向けて、脱炭素を軸とした政策の推進や再生可能エネルギーの主力電源化が徹底されていくことが予測されます。それに伴って、再生可能エネルギーに関連する補助金や税制優遇の拡充などが行われる可能性も考えられます。
2.官民挙げたデジタル化の加速
- デジタル・ガバメントの確立
- 民間部門におけるDXの加速
- デジタル人材の育成、デジタルデバイドの解消、サイバーセキュリティ対策
新型コロナウイルス感染症を機に、経済社会は大きく変化しました。また、新型コロナウイルス感染症に対応していくなかで、日本のデジタル化の遅れが浮き彫りになりました。今後5年で、デジタル庁を核としたデジタル・ガバメントの確立、民間のDXを促す基盤整備を加速し、全ての国民にデジタル化の恩恵が行き渡る社会の構築を目指すとしています。
デジタルの基盤整備を追い風にして、国は、地方における中小企業も含めて非対面型ビジネスモデルへの変革や新産業モデルの創出に取り組んでいく考えです。そのために、企業全体で取り組むデジタル投資を税制により支援し、特に中小企業においては、IT導入サポートを拡充してDX推進を進めていくとしています。
3.日本全体を元気にする活力ある地方創り
- 地方への新たな人の流れの促進
- 活力ある中堅・中小企業・小規模事業者の創出
- 賃上げを通じた経済の底上げ
- 観光・インバウンドの再生
- 輸出を始めとした農林水産業の成長産業化
- スポーツ・文化芸術の振興
- スマートシティを軸にした多核連携の加速
- 分散型国づくりと個性を活かした地域づくり
今回の新型コロナウイルス感染症で、テレワークの拡大などにより地方への関心が高まり、東京一極集中が変化する兆しもみられました。国は、こういった変化を後押しして地方への大きな人の流れを生み出して、新たな地方創生を展開したい考えです。活力ある地方を創り、地方の所得を引き上げ、日本全体を元気にしていくことを目指すとしています。
地方への人の流れの促進に関しては、地方でテレワークを活用することによる「転職なき移住」を実現するためのサテライトオフィスの整備・利用促進の補助金などが、今後も実施されていくことが予測されます。
また、経済の底上げを図る地域を中心に、生産性向上等に取り組む中小企業・小規模事業者に対し思い切った支援を行うとしています。活力ある中堅・中小企業等の創出を促すことを目的として、デジタル等の無形資産投資、EC活用や信用供与等を通じた輸出などの海外展開の促進や人材の確保・育成等による、中小企業の規模拡大を支援します。そのほか、地域の女性起業家、社会起業家等への支援や、中小企業等の事業承継・再生の円滑化のための環境整備にも取り組む考えで、これらも補助金制度の実施が見込まれます。
地方を支えている観光関連産業に関しては、観光業や観光地の再生のため、観光客が戻るまでの時間を活用して宿泊施設や飲食、土産物店等の施設改修や廃屋撤去、経営力底上げやDX推進等を行い、収益性・生産性向上を図りたい考えです。受入環境整備の補助金はこれまでもありましたが、感染防止対策の徹底や新たなコンテンツ造成などでも補助事業が行われていくと思われます。
4.少子化の克服、子供を産み育てやすい社会の実現
- 結婚・出産の希望を叶え子育てしやすい社会の実現
- 未来を担う子供の安心の確保のための環境づくり・児童虐待対策
出生数の減少が予測を上回る速度で進行し人口減少に歯止めがかからない危機的状況のもと、安心して結婚、妊娠・出産、子育てができる環境整備を進めて、地域全体で子育て家庭を支えていく社会の実現を目指すとしています。
賃上げや正規・非正規の格差是正など少子化の背景として指摘される雇用環境の改善に取り組むとともに、社会全体で男性が育児休業を取得しやすい環境の整備を進めるとしており、この分野も補助金・助成金の実施が期待されます。
まとめ
今回は「概算要求基準」の内容と、成長市場と目されるグリーン化やデジタル化、地方活性化、子育て支援の4分野についてご紹介しました。
グリーン化については、世界が脱炭素に向けて動きだし、ビジネスチャンスが拡大していることから、持続的な成長に向けた投資が加速していくと思われます。また、日本の少子高齢化はますます進むことが見込まれ、一層の支援が必要となる分野です。今後「新たな成長推進枠」の4分野に関する補助金・助成金の要求が行われる可能性は大いにありますので、注目したいところです。
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