9月25日、厚労省の2021年度予算の概算要求(案)が発表されました。
内容としては「年金・医療などに係る経費」「義務的経費」「その他の経費(裁量的経費・公共事業関係費)」について、いずれも今年度(2020年度)の当初予算と同額が要求されており、これとは別に今後の重要な課題である「新型コロナ感染症対策」などについて、具体的な金額を示さない項目のみの要求(事項要求)が行われています。
新型コロナ感染症対策が事項要求に至った経緯としては、現在も国内では新型コロナの新規感染が収束していないころから今後の対策の規模を決定することが困難なためで、取り組みの具体的な内容や要求額については年末にかけておこなわれる予算編成の過程で決定することになります。
今回の記事では厚労省2021年度概算要求のポイントとともに、厚労省がこれまで実施してきた新型コロナへの対応がどのようなものであったかについて振り返ってみたいと思います。
厚労省令和3年度予算概算要求のポイント ※厚労省資料より
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この記事の目次
令和3年度 厚生労働省予算概算要求における重点要求
厚労省の令和3年度概算要求では、令和元年度、令和2年度の補正予算・予備費で行われてきた新型コロナへの対応(新型コロナウイルス感染症から国民のいのちや生活を守る)に続く、「ウィズコロナ時代に対応した社会保障」の構築を大きなテーマに掲げています。
まずは、これまで実施されてきた政府の新型コロナ対策について振り返ってみたいと思います。
これまで行われてきた新型コロナへの対応とは?
新型コロナウイルス感染症は2019年11月ごろに中国の武漢市で発生したとみられ、国内では令和2年2月3日に横浜港に入港したクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」での集団感染により、初めて新型コロナウイルス感染症が国内の問題としても認知されるようになりました。
新型コロナ国内感染者数の推移※厚労省HPより
【令和元年度補正 新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策(第1回)】
集団感染が発生したクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号への対応を中心に、帰国者等の受入支援や、帰国者・接触者外来の設置などの水際対策として、令和2年2月13日に139億円の予算を閣議決定。
今後の対策について医学的な見地から助言等を受けるため「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が設置されました。
・帰国者等の受入れ支援
・帰国者・接触者及び帰国者外来
・水際対策の強化に必要な物品等の確保
・検査体制及び感染症患者の受け入れ体制の強化
・接触者相談センターの設置 など
【令和元年度補正 新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策(第
2回)】
国外での新型コロナウイルス感染症の爆発的な拡がりを受け、政府は国内における感染防止対策の強化を図るため、新型コロナ緊急対応策第二弾として令和2年3月10日に3168億円の予算を閣議決定。
後に大きな物議を醸すことになった「アベノマスク」の配布もこの予算により実施されています。
また、海外からの渡航制限による観光産業への打撃も大きく、製造業では中国企業からの部品供給の断裂(サプライチェーンの毀損)による工場の操業停止などが発生、企業の事業継続のための資金繰り支援や、雇用維持のための「雇用調整助成金」の拡充にも大きな予算が充てられています。
・マスクの緊急配布
・医療提供体制の整備
・雇用調整助成金の特例措置の拡大
・個人向け緊急小口資金等の特例貸付の実施
・保育所や介護施設等における感染拡大防止策
・小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援 など
【令和2年度1次補正 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策(第1弾)】
令和2年3月26日には国内で初めて1日の新規感染者数が100人を超え、累積感染者数は3月末で2000人に達しました。
経済への打撃に加え医療体制のひっ迫なども大きな社会問題になりつつあるなか、政府は国民の命と生活を守り抜き、日本経済の再生を果たすため、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策第一弾として、1兆6371億円の巨額の予算を令和2年4月30日に成立させました。
・PCR等の検査体制の確保
・新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療)の創設
・マスク・消毒用エタノール等の物資の確保
・雇用調整助成金の特例措置の更なる拡大
・ワクチン・治療薬の開発促進
・小学校等の臨時休業などに伴う保護者の休業等に伴う保護者の休暇取得支援等
【令和2年度2次補正 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策(第2弾)】
政府は令和2年4月以降の新型コロナ新規感染者数の増加を受け、全国に1カ月以上に及ぶ緊急事態宣言を発令、緊急事態宣言解除後となる令和2年6月12日には感染流行の早期終息と日本経済の復興に向けて、4兆9733億円の補正予算を成立。
・PCR等の検査体制の強化
・新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療・介護・福祉)の抜本的拡充
・医療用物資の確保・医療機関などへの配布
・雇用調整助成金の抜本的拡充
【その他令和2年度新型コロナウイルス感染症対策予備費による対応】
補正予算による事業がほぼすべて実行に移され、現在は令和2年度の当初予算で積み増しされた予備費により時間の経過とともに顕在化する様々な課題への対応が順次進められています。
8月7日閣議決定分(2107億円)
・入国者に対する検疫機能の確保
9月8日閣議決定分(6714億円)
・ワクチンの確保
9月15日閣議決定分(1兆6350億円)
・PCR検査機器等の整備補助
・新型コロナウイルス感染症患者の病床・宿泊療養施設確保支援、診療報酬・病床確保料の引上げ
・COVAXファシリティ参加に書かある拠出金
・個人向け緊急小口資金等の特例貸付の実施、住居確保給付金の支給
令和3年度の重点「ウィズコロナ時代に対応した社会保障」について
新型コロナウイルス感染症の拡大防止と経済活動の両立に向け国民には「新しい生活様式(3密回避など)」への対応がもとめられています。
しかし、大きな環境変化と経済の縮小の中でこの課題を達成するためには、政府によるウィズコロナ時代に対応した社会保障の確立が必要不可欠となります。
厚労省はこの課題に対応するため、令和3年度の予算案において下記の3つの柱を重点に掲げています。
1.ウィズコロナ時代に対応した保険・医療・介護の構築
PCRを始めとする新型コロナの検査体制の充実や、感染者情報の把握・管理支援の効率化や機能強化、二次感染防止に向けた非接触化への対策として医療・福祉施設におけるICT・ロボット等の導入支援などを実施、保険・医療・介護分野の変革を促進します。
・感染防止に配慮した医療・福祉サービス提供体制の確保
・医療機関等に係る情報の効率的な取得、感染防護具等の確保
・PCR検査・治療薬の開発・確保
・保健所等の機能強化、HER-SYS等による情報収集の効率化・機能強化
・感染拡大防止に向けた研究開発の推進(33億円+事項要求)
・地域医療構想の実現等による柔軟かつ持続可能な医療提供体制の構築
・地域包括ケアシステムの構築、認知症施策の推進、介護の受け皿整備
・予防・健康づくり、PHRの拡充等のデータヘルス改革、全ゲノム解析等実行計画の推進
・化学技術、イノベーションの推進、水道の基盤強化
2.ウィズ・ポストコロナ時代の雇用就業機会の確保
コロナの影響により企業では業績不振による解雇や、新規学卒者の内定取り消しなどが相次ぎ大きな社会問題となりました。
失業予防に向けた業種・地域・職種を超えた再就職等の促進や、新規学卒者への就職支援、企業に対しては業務の非接触化や、生産性向上等に向けた支援を行い、テレワークなどの新たな働き方の定着による雇用就業機会の確保を促進します。
・雇用の維持・継続に向けた支援
・失業予防に向けた業種・地域・職種を超えた再就職等の促進
・産業雇用安定センターによる出向・移籍あっせんの推進
・派遣労働者など非正規雇用労働者の再就職支援、新規学卒者への就職支援
・医療介護福祉保育等分野への就職支援
・就職氷河期世代・高齢者・女性・障害者・外国人などの活躍推進
・男性の育児休業取得の促進
・「新しい働き方」に対応した良質なテレワークの定着
・最低賃金・賃金の引上げに向けた生産性向上等の推進、雇用形態にかかわらない公正な待遇確保
3.「新たな日常」の下での生活支援
国内では年度当初からの新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、2020年の国民総生産(GDP)は戦後最大の落ち込みとなる前年度比28%(4-6月)の減少となりました。
特に大きな影響を受ける観光業、外食産業などでは現在も倒産・廃業が相次いでおり、その他の産業においても大企業が今期の賞与の減額や見送りの発表を行うなど経済復興に向けた兆しはなかなか見ることが出来ない状況です。
厚労省は今後も増加が懸念される生活困窮者等への支援を拡大するとともに、将来の働き手となる子どもの見守り体制の強化、子育てのしやすい環境づくりの推進にも注力します。
・地域共生社会の実現に向けた重層的支援体制の整備、生活困窮者への支援
・生活困窮者等への住まい確保・定着支援、住居確保給付⾦の支給等
・成年後⾒制度の利⽤促進、⾃殺総合対策の推進
・⼦ども⾷堂や⼦どもへの宅⾷等を⾏う⺠間団体等も含めた地域における⼦どもの⾒守り体制の強化
・保育等の受け皿確保をはじめとした⼦どもを産み育てやすい環境づくりの推進
・児童虐待防止対策・社会的養育の推進
・産後ケア事業の推進・不妊治療に対する助成等の⺟⼦保健医療対策の推進、ひとり親家庭等の⾃⽴支援
・障害児・者支援の推進、依存症対策の推進
・戦没者遺骨収集等の推進
まとめ
今回は先日発表された令和3年度の厚労省の概算要求の重点(案)について紹介しました。
多くの事項で具体的な要求額が確定していない状況ではありますが、新型コロナへの対応に向けた今後の方針がどのようなものであるかは十分把握できる内容といえるのではないでしょうか。
年末に決定する予算編成で更に具体的な政策や予算は発表されることになりますので、経営者の方は来年度の事業計画策定に向け、事業者向けに実施される制度の動向等にもご注目ください。
他省庁についても以下にまとめております。
【令和3年各省庁概算要求(案)について】
■総務省概算要求(案)
■経産省概算要求(案)
■文部科学省概算要求(案)
■各省庁まとめ
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