経産省が令和3年度の概算要求の重点(案)を公表しました。総要求額は20年度から12.7%増加の1兆4335億円となる見込みです。
政策の重点には、新型コロナの影響を受ける中での事業と雇用を守るための緊急対策、顕在化した日本の経済産業の構造的問題の解決、そして将来を見据えた新たなトレンドへの対応の促進など、危機的な状況にある企業等への緊急支援や「新たな日常」の先取りなどが挙げられています。
今回はこの令和3年度の概算要求の重点(案)の中から、今後の日本の成長戦略として掲げられた6つの柱について紹介したいと思います。
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この記事の目次
令和3年経産省概算要求「新たな日常」の先取りによる成長戦略
経産省はウィズコロナ/ポストコロナ時代に求められる構造転換に向け、長期視点に立った日本企業の変革を後押し・加速するため、成長戦略の柱として下記の6つの分野を設定しています。
1.デジタル~仕組みと事業のアップデート~
(1)デジタル基盤・ルールの整備
本年度は経産省の電子申請システム「jGrants」が実装され、いよいよ補助金申請が本格的にオンライン化されましたが、令和3年度も引き続きこうしたデジタルガバメントの推進や、社会システムの再設計と規制・制度改革などが推し進められることになります。
(2)デジタルを活用した産業の転換
企業経営のデジタル・トランスフォーメーションの加速、キャッシュレスを始めとする非接触化の促進、AIロボット、自動走行などの研究開発への集中投資を行います。
具体的な政策としては、産業界と大学等の研究機関が協調して取り組む研究開発や、実証実験に係る費用への補助金制度などとして実施されることになるのではないでしょうか。
2.グリーン~コロナを機に脱炭素化を深化~
(1)脱炭素化に向けたエネルギー転換
太陽光発電システムをはじめとする再生可能エネルギーの更なる導入を通じた主力電源化、電気自動車の普及等による脱炭素化を始め、水素社会、CCUS・カーボンリサイクルの推進など「ビヨンド・ゼロ」を目指す環境技術の研究開発・実証や国際研究拠点の強化に取り組みます。
この分野では来年度も省エネルギー設備、太陽光発電システム、蓄電池システム、V2Hなど、様々なエネルギー関連の補助金制度が実施されることになりそうです。
(2)循環経済への転換
中国をはじめとするアジア諸国の廃プラスチックの輸入規制が始まり、廃プラスチックの国内での新たな資源循環ルートの構築が急務となっています。
東京都では現在セメント工場で原燃料として使用する石炭を廃プラスチックに切り替える取り組みについて実証事業なども行われており、政府はマテリアルリサイクル(素材としての再利用)、ケミカルリサイクル(化学的に分解して化学製品の原料として再利用)、サーマルリサイクル(焼却と気の熱エネルギーとして再利用)の3つの側面から、廃プラスチックの有効利用を促進する制度整備等を進めています。
3.健康・医療~健康な暮らしの確保~
(1)国民の命を守る物資の確保
マスクやアルコールなど国民の命に係わる生活物資等の安定生産拠点の確保や、高度医療機器の開発体制の強靭化、先進的な介護福祉用具・バイオ医薬品の研究開発の加速に取り組みます。
本年度実施されたマスク生産設備への補助金制度等も引き続き実施される可能性があるのではないでしょうか。
(2)予防・健康づくりの実現
従業員等の健康管理を経営的な視点で考え実践する「健康経営」の見える化等への支援や、イベント等での新型コロナ感染拡大を防ぐ新技術の実証・普及などへの投資を行います。
経産省のIT導入補助金においても令和元年度から健康データ管理ツールが対象ツールに登録されており、従業員の健康管理は企業の生産性向上の観点においても近年は重要なものと認知されています。
4.中小企業・地域
(1)中小企業の新陳代謝
新型コロナウイルス感染症の影響により、国内中小事業者の置かれる経営環境は現在も非常に厳しいものとなっています。
政府は生産性向上、規模拡大、利益率の向上など成長を志向する中小事業者に向けた事業承継・M&A・再生の更なる円滑化支援などを行います。
本年度も実施された「事業承継補助金」や、「経営資源引継ぎ補助金」なども引き続き実施されることになりそうです。
(2)地域経済の強化と一極集中是正
国内ではなかなか普及が進まなかったリモートワークも、コロナ禍の中で一気にニーズが高まり、これに伴い労働者の働き方にも大きな変革が訪れています。
社会問題となっている都心部への一極集中の緩和に向け、地方移住を捉えたリモートワークの拡大と、地域企業の強化、人材の移転等への様々な支援が計画されています。
5.レジリエンス
(1)サプライチェーン強靭化
製造業の分野では、国内での新型コロナウイルスの感染拡大を前に、コロナウイルスの発生源である中国からの資源の供給が途絶えたことによる「サプライチェーンの毀損」が大きな問題となりました。
政府は将来に向けこうした状況を回避するため、中小企業の事業継続力強化への支援や、戦略物資について国内の生産拠点の確保の推進に取り組み、特に実用化が目前となった5Gの基盤となる半導体等の重要産業分野に対しては重点的な支援を行います。
本年度も中小企業生産性革命推進事業等において「コロナ対応の特別枠」として補正予算でサプライチェーンの毀損等への支援が行われましたが、令和3年度は当初予算による支援策等も期待できそうです。
(2)経済・安全保障を一体として捉えた政策の推進
災害時にも持続可能な強靭な電力システムの構築に必要な投資を確保するための制度整備、エネルギー・資源の海外権益の確保、国際的な機微技術(武器又は大量破壊兵器に転用可能なもの)管理強化の動き等を踏まえた、半導体などの要となる技術に係る内外一体の包括的な戦略の推進などに取り組みます。
6.人材・イノベーション
(1)変革を実現する人材の育成
義務教育における1人1台PC下でのEdTechの展開とSTEAM教育の推進、社会人を対象としたリカレント教育の推進とその能力を事業で活用できる環境の整備に取り組みます。
(2)イノベーション・エコシステムの創出
地域の新たな成長産業創出に向けた支援や、新しい産業を生み出す担い手の創出促進・成長段階に合わせた育成の支援などを包括的に行い、日本が目指すべきイノベーション・エコシステムの構築に取り組みます。
【イノベーション・エコシステムとは?】
①事業会社とベンチャーによる価値共創によって新たな付加価値を創出
②さらぶ、大学・国研の【知】が産学「融合」によってシームレスかつ迅速に市場へと繋がる
③これらの結果、グローバルに通用するサービスを創出。その利益や人材を還流
※経産省資料より抜粋
令和3年経産省概算要求まとめ
今回は経産省の令和3年度概算要求の重点(案)の中から、企業向けの支援策にも直結する、成長戦略について内容を紹介いたしました。
これから年末に向けて各省庁の発表が相次いでいくことになりますので、事業者の方は来年度の経営計画の策定のため、政策の動向もお見逃しないようお願いいたします。
他省庁についても以下にまとめております。
【令和3年各省庁概算要求(案)について】
■厚労省概算要求(案)
■総務省概算要求(案)
■経産省概算要求(案)
■文部科学省概算要求(案)
■各省庁まとめ
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