
近年、最低賃金の引き上げが全国で進められています。令和6(2024)年の改定では、全国加重平均で過去最大となる51円の引き上げが実施され、すべての都道府県で最低賃金が950円を超えました。地方においても人手不足や若年層の流出が深刻化する中、賃金水準の底上げは避けて通れない課題となっています。
こうした背景を踏まえ、国は中小企業・小規模事業者による生産性向上と賃金引上げの両立を支援するため、「業務改善助成金」を令和7年度も実施します。本記事では、制度の内容や変更点、申請のポイントをわかりやすく解説します。最低賃金対応に課題を感じている事業者の方は、ぜひご覧ください。
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この記事の目次
業務改善助成金とは?
業務改善助成金は中小企業・小規模事業者の業務の改善を国が支援し、労働者の賃金引上げを図るために設けられた制度です。
生産性向上のための設備投資(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)などを行い、事業場※内の最低賃金を一定額以上引き上げた中小企業・小規模事業者に対しその設備投資などにかかった経費の一部を助成します。
※事業場とは?
事業場の適用範囲は、原則として、同じ場所にあれば一つの事業場とみなしますが、例外として、労働状態が違う場合は別々の事業場とみなします。例えば、工場で生産にあたる労働者と工場内の食堂で食事を作る労働者は業態が全く異なる為、別々の事業場とみなすことになります。
また、本社と営業所が離れた場所にあった場合でも、営業所に常駐しているのは1人だけ・業務は営業のみ・管理的な業務は一切行っていない場合などは、一つの事業場とする事が可能です。もし会社が大きくなってきて、同じ建物の中にあっても、○○事業部と○○事業部といったように、業態が違い、かつ労働安全衛生法がより適切に運用できる場合は、2つの事業場としてみなすことができます。
業務改善助成金の対象者
事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内の事業場の中小企業・小規模事業者が対象です。以下の要件をすべて満たした場合に、事業場ごとに申請します。なお、過去に業務改善助成金を受給したことがあっても対象になります。(同一事業場の申請は年度内1回まで)
【支給要件】
(1)賃金引上計画を策定し、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げること
(2)引上げ後の賃金額を支払うこと
(3)生産性向上に資する機器・設備などを導入して業務改善を行い、その費用を支払うこと
(4)解雇、賃金引下げ等の不交付事由がないこと
(3)について、
・単なる経費削減のための経費
・職場環境を改善するための経費
・通常の事業活動に伴う経費などは、除きます。
業務改善助成金はいくらもらえる?支給金額は?
業務改善助成金は賃金・時給の引き上げと設備投資を行うことで、最大600万円が支給されます。具体的には、30円、45円、60円、90円といった申請コースごとに定める引き上げ額以上、事業場内最低賃金を引き上げた場合に、生産性向上のための設備投資等にかかった費用の一部が助成されます。なお申請コースごとに、引き上げ額、引き上げる労働者数、助成の上限額が定められています。まとめたものが下図になります。
出典:厚生労働省 業務改善助成金
【特例事業者】
助成上限額の拡充は、特例事業者に該当し、引き上げる労働者が10人以上の場合に対象となります。また、助成対象経費の拡充については、物価高騰等要件に当てはまる特例事業者のみが対象となります。令和7年(2025)度における特例事業者の要件は以下のとおりです。
(1)賃金要件
申請事業場の事業場内最低賃金が1,000円未満である事業者
(2)物価高騰等要件
原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、申請前3か月間のうち任意の1か月の利益率が前年同月に比べ3%ポイント以上低下している事業者
助成率
申請を行う事業場の引き上げ前の事業場内最低賃金によって、助成率が変わります。
1,000円未満 | 4/5 |
1,000円以上 | 3/4 |
業務改善助成金の支給額
活用例から、支給額を計算してみましょう。
【設備投資費用が600万円の場合の例】
ある事業所で、事業場内の最低賃金を980円から1,070円に引き上げた場合、事業場内最低賃金が1,000未満なので助成率は4/5になります。
8人の労働者の最低賃金90円引き上げを行い、「90円コース・7人以上」の区分により、助成上限額は450万円です。
【支給額】
設備投資費用が600万円かかった場合の計算式は、600万円×4/5=480万円、となりますが、助成上限額が450万円のため、上限額を超える分は助成されません。この場合の支給額は450万円となります。
業務改善助成金 令和7年(2025)の変更点
令和7年度の業務改善助成金に関する変更点は以下のとおりです。
項目 | 変更内容 |
---|---|
助成率の見直し | 事業場内最低賃金が1,000円未満の場合は助成率4/5、1,000円以上の場合は3/4に変更。 |
生産性要件の廃止 | 令和6年度まで設けられていた「生産性要件」は廃止され、助成率の割増し制度がなくなる。 |
申請期間の分割 | 申請は第1期(4/14~6/13)、第2期(6/14~地域別最賃改定日前日)に分割。第3期以降実施の際は別途告知。 |
1事業主あたりの支給上限の設定 | 事業主単位での申請上限600万円までに明確化。 |
基準労働者の要件変更 | 賃上げ対象となる基準労働者の雇用期間が「3か月以上」から「6か月以上」に変更。 |
この変更点を踏まえ、今年度の業務改善助成金を活用する際には、要件やスケジュールの見直しを早めに行うことが重要です。特に対象者の雇用期間要件の変更、生産性要件の廃止、申請期間の分割などは実務に直接影響するため、しっかり確認しておきましょう。
申請のタイミングによっては、希望の期に間に合わない可能性もあるため、ご不明な点がある場合は早めに労働局へ確認することをおすすめします。
業務改善助成金スケジュール・いつまで
令和7年度の業務改善助成金は、【第1期】【第2期】の2回に分けて募集・受付が行われます。それぞれのスケジュールは次の通りです。
※第3期以降の募集を行う場合はホームページにて告知。
申請期間 | 賃金引上げ期間 | 事業完了期限 | |
第1期 | 令和7年4月14日~ 令和7年6月13日 | 令和7年5月1日~ 令和7年6月30日 | 令和8年1月31日 |
第2期 | 令和7年6月14日~ 申請事業場に適用される地 域別最低賃金改定日の前日 | 令和7年7月1日~ 申請事業場に適用される地域 別最低賃金改定日の前日 | 令和8年1月31日 |
各期ともに、予算の範囲内で交付するため、申請期間内に募集を終了する場合があります。
賃金引き上げの注意点
業務改善助成金を活用するうえで、賃金の引き上げにはいくつか重要なルールがあります。まず、引き上げは必ず交付申請の後に実施しなければなりません。申請前に賃金を上げた場合、その引上げは助成の対象外となります。
また、地域別最低賃金の改定に合わせて賃金を引き上げる場合には、発効日の前日までに実施してください。就業規則や労働条件通知書への記載も必須であり、引き上げ後の賃金額をしっかりと明文化しておくことが重要です。
さらに、引き上げは1回限りでなければならず、数回に分けて段階的に上げることは認められていません。これらのポイントを理解したうえで、計画的に賃金の引上げを進めていきましょう。
出典:厚生労働省 令和7年度業務改善助成金の一部変更のお知らせ
業務改善助成金でパソコンも導入できる?
ここからは、実際に、どのようなものに対して助成金が交付されているかを紹介していきます。
助成の対象となる設備や機器は、「どのように業務を改善し、結果として最低賃金を引き上げることにつながるか」が重要な判断基準となります。たとえば、以下のような例が示されています。
- POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
- リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
- 専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上
- 顧客管理情報のシステム化
上記以外にも、店舗改装による配膳時間の短縮などにも利用されています。
特例事業者のうち、物価高騰等要件に該当する場合は、通常、助成対象経費として認められていない以下の経費も対象となります。
- 定員7人以上又は車両本体価格200万円以下の乗用自動車
- 貨物自動車
- パソコン、スマホ、タブレット等の端末及び周辺機器(新規導入)
特にパソコンなどのIT機器は、業務効率化の大きなカギとなるため、導入目的や業務改善の具体的な効果を明確に説明できれば、助成対象として認められる可能性があります。申請の際は、導入によって「どのように時間や手間が削減され、その結果どのように賃金引き上げが可能になるのか」を具体的に示すことがポイントです。
飲食業の取り組み例
『デリバリー拡充のためのコンサルティングと必要なシステム・機材の導入により売上拡大』
出典:令和4年度 業務改善助成金(通常コース)のご案内より抜粋
デリバリー販売を拡大し、揚げ物を短時間で調理し多くの注文を受けるため、助成金を活用してコンサルティングを受け「受注システム」「宅配用3輪バイク」「二層フライヤー」を導入。その結果、デリバリーの注文受付から配達までと、揚げ物調理の効率化により生産性が向上し、1人の労働者の時間給を100円引上げることができた。また、事業場内最低賃金を上回る賃金の引上げも実施した。
食洗機も助成金の対象になる?
手作業での食器洗浄は、作業効率が悪く時間がかかります。そこで、食洗機を導入して、作業時間を大幅に短縮し、作業効率の向上を図ったという例もあります。
食洗機の導入というと、まず飲食業を思い浮かべますが、配達飲食サービス業やホテル業のほか、医療・福祉の現場でも食洗器の導入事例がありました。
参考:業務改善助成金業種別事例集(宿泊業・飲食サービス業編)
参考:業務改善助成金業種別事例集(医療・福祉編)
業務改善助成金の申請から入金までの流れ
最後に、業務改善助成金の申請から入金までの流れを確認しましょう。
【STEP1:交付申請の提出】
事業場所在地を管轄する都道府県労働局に対して、所定の様式に基づいた交付申請書を提出します。申請には、賃金引上げ計画や設備投資内容、対象労働者の情報などを明記する必要があります。
↓
【STEP2:労働局による審査・交付決定】
提出書類に基づき、都道府県労働局が内容を審査します。内容に問題がなければ、「助成金の交付決定通知」が発行されます。この通知を受けてから、事業に着手することができます(交付決定前の着手は原則として対象外)。
↓
【STEP3:事業の実施】
交付申請書に記載した計画に従って、設備投資や業務改善の取組、賃金引上げの実施を行います。実施内容は、後の報告・審査に備え、証拠となる資料(領収書や契約書など)をきちんと保管しておきます。
↓
【STEP4:事業実績報告書の提出】
事業が完了したら、事業実績報告書とともに、賃金引上げや経費支出に関する証拠資料を都道府県労働局に提出します。内容が適正と認められれば助成金額の確定通知が届きます。
↓
【STEP5:入金】
確定通知後に、所定の請求書類を提出することで、指定口座に助成金が振り込まれます。
まとめ
多くの中小企業にとって、継続して費用の負担が増加する最低賃金引き上げは難しい課題です。今回ご紹介した業務改善助成金は、最低賃金引き上げに向けた国の中小企業・小規模事業者支援事業のうちの1つです。
パソコンや食洗機など、業務改善に資する機器の導入も可能です。本制度をうまく活用し、働く環境の改善と賃金引上げの実現を目指してみてはいかがでしょうか。
▼2024年 最低賃金引き上げについてはこちらの記事もご覧ください。
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