政府は11月29日、2024年(令和6年)度補正予算案を閣議決定しました。中小企業・小規模事業者等関連予算では、生産性向上や事業承継、新規事業進出への支援など、厳しい経営環境に直面する中小企業の「稼ぐ力」を強化するための施策が大きな柱となっています。特に、新たな補助金制度の創設や既存制度の見直しを通じ、賃上げを含む中小企業の成長を後押しする内容が目立ちます。
今回は、中小企業庁関連の補正予算案のポイントをまとめました。
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この記事の目次
中小企業庁の令和6年度補正予算案
出典:中小企業庁 令和6年度補正予算案 中小企業・小規模事業者等関連ポイント
補正予算案では、以下の5つの主要な取り組みを進めます。
2.価格転嫁対策の強化
3.資金繰り支援、経営改善・事業再生・再チャレンジ支援
4.中小企業・小規模事業者活性化 (相談体制強化等)【203億円】
5.災害からの復旧・復興【223億円】
それぞれみていきましょう。
持続的な賃上げを実現するための生産性向上・省力化・成長投資支援
中小企業や小規模事業者が直面する物価高や人手不足といった厳しい経営環境に対応し、「稼ぐ力」を強化するために、生産性向上や省力化、成長に向けた投資を支援し、企業が賃上げの原資を確保できる環境を整備します。
生産性向上支援の拡充【3,400億円(生産性革命推進事業内数)】
「ものづくり補助金」「IT導入補助金」「持続化補助金」「事業承継・M&A補助金」を通じて、中小企業の設備投資や販路開拓、IT導入、事業承継などを支援します。特に、以下のような施策の拡充が進められます。
【最低賃金近傍の事業者への補助率引き上げ】
2025年から、最低賃金付近の従業員を雇用している事業者への支援が強化され、ものづくり補助金やIT導入補助金の補助率が従来の1/2から2/3に引き上げられる予定です。
また、補助金をより使いやすくするため、設備投資や事業内容に応じて補助の上限や条件が見直されます。
ものづくり補助金 | 製品・サービスの高付加価値化を目指す企業向けに、従業員数21人以上の中小企業を対象に補助上限を引き上げます。また、賃上げ要件や制度運用も見直されます。 |
IT導入補助金 | セキュリティ枠の補助上限額の引き上げと、要件の見直しが行われます。また、汎用ツールや導入後のサポートも補助対象に加えられます。 |
小規模事業者持続化補助金 | 経営計画の策定を重視し、枠を通常枠や創業枠に整理・再編するなど、制度を簡素化します。 |
事業承継・M&A補助金 | 買収後の統合を支援する新しい枠を設けるほか、M&A時のトラブル防止に必要な費用を支援します。さらに、売上高100億円を目指す企業の支援強化のため、補助上限が引き上げられます。 |
新事業への進出にかかる支援の推進(新事業進出補助金の創設) 【既存基金の活用(1,500億円規模)】
中小企業や小規模事業者が新たな事業に挑戦し、成長や事業転換を進めるための「新事業進出補助金」が創設されます。
この補助金は、新規性のある事業に取り組む企業を対象に、建物や機械設備の導入、システム構築、技術導入、専門家への相談費用などを支援します。補助を受けるには、成長拡大に向けた新規事業への挑戦や賃金要件などが必要とされます。
成長支援の新設・強化
成長支援の新設・強化では、意欲ある中小企業や地域経済を支える中堅企業の成長を多角的に後押しするものとして、以下のような取り組みを予定しています。
中小企業成長加速化補助金の創設【3,400億円(生産性革命推進事業)の内数】 |
売上高100億円を目指す意欲ある中小企業等を対象に、設備投資や経営課題(M&A、海外展開、人材育成など)への対応を支援する補助金が創設されます。対象となる経費は建物費、機械装置費、ソフトウェア費、外注費、専門家経費などです。 |
中堅・中小成長投資補助金の拡充【1,400億円、新規3年3,000億円】 |
地域経済を支える中堅・中小企業が、人手不足や地域課題に対応するための大規模投資(工場等の拠点の新設等)を支援します。また、大企業から経営人材を受け入れる企業への給付金を拡充し、事業成長等を実行可能な経営体制の整備を促進します。 |
100億企業育成ファンド出資事業【30億円】 |
中小機構が出資するファンドを通じて、売上高100億円超を目指す中小企業にリスクマネーを供給します。 |
省力化投資支援の運用改善
中小企業が効率的な生産や業務の省力化を進められるよう、「省力化投資支援」の仕組みが整備されます。(既存の基金を活用し、3000億円規模の支援)この支援では、各企業のニーズに応じたオーダーメイド形式の支援が幅広く対象となるほか、「カタログ形式」の支援についても運用が改善されます。
出典:中小企業庁 中小企業省力化投資補助事業
価格転嫁対策の強化
中小企業や小規模事業者が適正な価格で取引を行えるよう、「中小企業取引対策事業」に8.3億円を計上しました。この事業では、価格交渉促進月間を通じた取り組みの成果を調査・フォローアップし、取引条件の改善や適正な価格転嫁の実現を目指します。
資金繰り支援、経営改善・事業再生・再チャレンジ支援
中小企業や小規模事業者が直面する資金繰りの課題や経営環境の変化に柔軟に対応し、成長や再生への道筋を支援するための支援策が展開されます。
日本政策金融公庫による資金繰り支援
成長志向の中小企業を支えるため、日本公庫の資本性劣後ローンの要件が見直され、省力化投資を行う企業を対象に金利引き下げや貸付限度額の拡充が行われます。また、以下の資金繰り支援を実施します。
- コロナ特別貸付を終了し、当該貸付の借換等への対応を目的とした制度(基準金利)を創設
- 物価高騰の影響を受けた事業者へのセーフティネット貸付の金利引下げ措置(▲0.4%)を継続
- 賃上げに取り組む場合の金利低減措置(賃上げ貸付利率特例制度)を継続
- 令和6年能登半島地震特別貸付等、能登半島への資金繰り支援の継続
信用保証協会による資金繰り支援
民間金融機関と連携した協調支援型信用保証制度が新たに創設され、3年間に限り保証料が補助されます。また、物価高騰などで影響を受けた事業者を対象とした、経営改善サポート保証の支援が継続されます。
経営改善・事業再生・再チャレンジ支援の拡充
早期経営改善計画策定支援を通じた金融機関の支援が拡充されます。また、中小企業活性化協議会による再チャレンジ支援が強化により、法人破産及び経営者保証ガイドライン手続きに係る各種手続費用・専門家費用等が支援されます。
中小企業・小規模事業者活性化 (相談体制強化等)【203億円】
中小企業や小規模事業者が経営の課題を乗り越え、活力を取り戻すためには、専門的な支援と相談体制の充実が欠かせません。そこで、相談支援の強化を柱とする取り組みに予算が計上されています。
事業環境変化対応型支援事業【112億円】
商工会や商工会議所に専門家を派遣し、各地域での相談体制を強化します。また、よろず支援拠点におけるコーディネーターを増員し、事業者が直面する多様な経営課題に対応します。
中小企業活性化・事業承継総合支援事業【61億円】
中小企業の事業再生や事業承継を支援するため、中小企業活性化協議会や事業承継・引継ぎ支援センターの体制が強化されます。
災害からの復旧・復興【223億円】
災害からの復旧と地域経済の再建を支援するため、被災事業者への支援が引き続き実施されます。
令和6年能登半島地震等の切れ目ない復旧支援の継続【213億円】
能登半島地震をはじめ、過去の災害の被災地域を対象に、「なりわい補助金」や「グループ補助金」を活用した支援を行います。
地方公共団体による小規模事業者支援推進事業の拡充【10億円】
局激指定災害に関わる補助金の対象範囲が拡大され、中小企業も支援対象に含まれます。さらに、施設建替えも補助対象となり、補助金の上限が5億円まで引き上げられることで、被災事業者の負担軽減と復興促進が図られます。
まとめ
中小企業や小規模事業者が直面するさまざまな課題に対応するため、中小企業・小規模事業者等関連予算には、賃上げを促進するための生産性向上支援や、新事業への挑戦を支援する補助金の創設、資金繰りや災害復興の支援など、幅広い施策が盛り込まれました。
具体的な制度内容については、今後の詳細発表を注視し、積極的に活用していくことが求められます。この補正予算案は12月9日から臨時国会で審議が始まる見込みです。