2026年4月1日、改正GX推進法がついに施行されました。これにより、これまで企業の自主的な参加に委ねられてきた排出量取引制度(GX-ETS)は、CO2を年間10万トン以上排出する大規模事業者にとって法的な義務へと姿を変えています。「うちは対象企業ではないから関係ない」――そう感じている経営者の方もいらっしゃるかもしれません。しかしGX-ETSの対象企業は日本全体のCO2排出量の約6割を占めており、サプライチェーン上の中小企業にも排出削減の協力要請が確実に広がっていきます。
一方で政府は、2025年12月に成立した令和7年度補正予算において、GX分野に約7,000億円規模の支援を措置しました。高効率給湯器の導入支援、クリーンエネルギー自動車の購入支援、GX関連サプライチェーンの構築支援など、企業の脱炭素投資を後押しするメニューが豊富に用意されています。
この記事では、2026年に大きな転換点を迎えた日本のGX戦略を、改正GX推進法・GXリーグ第2フェーズ・令和7年度補正予算の3つの軸からわかりやすく解説します。
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この記事の目次
2026年4月施行 改正GX推進法で何が変わるのか
GX(グリーン・トランスフォーメーション)とは、化石燃料中心の産業構造をクリーンエネルギー中心へ転換することで、温室効果ガス削減と経済成長を両立させる変革のことです。日本は2050年カーボンニュートラルの実現と、2030年度に温室効果ガスを2013年度比46%削減する目標を掲げています。
この目標を達成するための中核的な制度として整備されたのが「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」です。2023年5月に成立した同法は、2025年5月の改正を経て、2026年4月1日に改正法が施行されました。
改正のポイントは、これまで自主的な取組だった排出量取引制度(GX-ETS)を法的義務化したことにあります。今後10年間で官民合わせて150兆円超のGX投資を引き出すための「鞭」と「飴」のうち、「鞭」にあたるカーボンプライシングが本格的に動き出した形です。
GX-ETSの3つのフェーズ
GX-ETSは、企業の準備期間を確保しながら段階的に強化される設計となっています。
| フェーズ | 期間 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 第1フェーズ | 2023年度〜2025年度 | GXリーグ参画企業による自主的な排出量取引(試行期間) |
| 第2フェーズ | 2026年度〜2032年度 | CO2を年10万トン以上排出する事業者を対象とした義務化フェーズ。排出枠は原則無償割当 |
| 第3フェーズ | 2033年度〜 | 発電部門を対象とした有償オークションを段階的に導入 |
第2フェーズの対象となるのは、前年度までの直近3カ年度平均でCO2直接排出量(Scope1)が10万トン以上の事業者です。鉄鋼、化学、セメント、紙・パルプ、電力、運輸といったエネルギー多消費産業を中心に、約300〜400社が該当すると見込まれています。
改正GX推進法における3つの柱
改正法では、GX-ETSの法定化に加えて、以下の3つの政策が一体的に進められます。
② 化石燃料賦課金の導入:2028年度から化石燃料の輸入・採取事業者に対しCO2排出量に応じた賦課金を課す
③ GX経済移行債による先行投資支援:10年間で20兆円規模の国債を発行し、脱炭素技術や設備への投資を国が積極支援
施行直後の2026年度は、対象事業者にとって排出量算定の基礎となる「計測期間」に位置づけられています。2027年度には初年度の排出枠が割り当てられ、排出量取引市場も2027年秋頃に開設される予定です。
GXリーグの目的と活動内容【2026年最新】
GXリーグは、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、企業がリーダーシップを発揮して取り組むための官民協働プラットフォームです。2023年4月に発足し、2024年度には参画企業が大幅に拡大しました。・参画企業数:747社(2024年度から新たに179社が加入)
・参画企業の排出量シェア:日本のGHG排出量の5割以上を占める
・カーボン・クレジット市場:2023年10月に東京証券取引所に創設
GXリーグの活動は、大きく3つの柱で構成されています。
1. 排出量取引システム(GX-ETS)
GX-ETSは、企業が自ら設定した削減目標の達成を目的として排出量取引を行う仕組みです。第1フェーズでは自主目標の設定と達成状況の開示を中心に、参画企業が排出量取引のノウハウを蓄積してきました。
第2フェーズでは、対象事業者に対して以下の義務が課されます。
- 移行計画の策定・提出:2050年カーボンニュートラル実現に向けた排出削減目標、設備投資計画、研究開発投資の状況等を毎年度9月末までに経済産業大臣等へ提出
- 排出量の算定・報告:登録確認機関による第三者確認を受けたうえで、毎年度の排出実績を国に報告
- 排出枠の保有・償却:確認を受けた排出実績と同量の排出枠を翌年度1月31日までに保有することを義務付け
- 価格安定機構(プライスカラー):2026年度の排出枠価格は上限4,300円/t-CO2、下限1,700円/t-CO2で運用
2. 市場創造のためのルール形成
カーボンニュートラル市場を生み出すためには、製品の評価基準や情報開示のルールを国際的に通用する形で整備する必要があります。GXリーグでは、参画企業が自らテーマを提案してワーキンググループ(WG)を組成し、ルールの設計から実証、国内外への発信までを一気通貫で進めます。代表的なWGには「適格カーボンクレジットWG」「GX経営促進WG」「GX人材市場創造WG」などがあり、いずれもカーボンニュートラル時代の競争領域を切り拓く役割を担っています。
3. GXスタジオでの企業間交流
GXスタジオは、参画企業同士がフラットな立場で気候変動対応の実務課題を議論する場です。生活者の行動変容、サプライチェーン全体の脱炭素化、GX人材育成など、各社単独では解決が難しいテーマを取り上げ、ベストプラクティスの共有と共創を促進します。隔月で開催され、関心度の高い議題を柔軟に取り入れる運営方針が特徴です。
第2フェーズでは、対象外の中堅・中小企業に対しても、Scope3(サプライチェーン上流の排出)の削減目標設定や、GX製品・サービスの積極調達といった役割が期待されています。GX-ETS対象の大手企業は、取引先に対してCO2排出量の算定・報告や削減目標の設定を強く要請するようになるため、間接的な影響は確実に広がっていきます。
排出量取引制度(GX-ETS)第2フェーズの仕組み
GX-ETSの第2フェーズは、2026年4月1日から正式に始動しました。ここでは、対象事業者が押さえておくべき制度の要点を整理します。
対象事業者と判定基準
対象となるのは、前年度までの直近3カ年度平均でCO2直接排出量が10万トン以上の事業者です。グループ単位での履行も認められており、親会社等が密接な関係にある子会社(会社法上の子会社、関連会社、兄弟会社)と一体で義務を果たすことが可能となっています。
第1フェーズで参画企業の約4割がグループ単位で削減目標の設定や排出量の算定を実施していた実態を踏まえた制度設計です。
排出枠の割当方式
第2フェーズの排出枠は原則として無償で割り当てられます。割当方式は業種ごとの特性を考慮して以下の2方式が採用される予定です。
| 方式 | 計算方法 | 主な対象業種 |
|---|---|---|
| 業種別ベンチマーク方式 | 基準生産量×目指すべき排出原単位の水準 | 鉄鋼、セメント、紙・パルプなど製品単位の排出量を比較しやすい業種 |
| グランドファザリング方式 | 基準排出量×(1−目指すべき削減率) | 製品の多様性が高く原単位での比較が難しい業種 |
なお、貿易財の製造業に属する事業者については、収益に占める排出枠調達コストの割合に配慮した特例措置も検討されています。
登録確認機関による第三者確認
排出実績の信頼性を担保するため、対象事業者は国の登録を受けた登録確認機関による確認を受けることが義務化されました。第1フェーズで保証・検証を担っていた監査法人系・ISO系の機関のうち、登録基準を満たした機関が確認業務を担います。すでに登録確認機関の登録申請は2025年12月から開始されており、対象事業者は契約手続きを早期に進める必要があります。
令和7年度補正予算における主要GX関連支援事業
2025年12月16日に成立した令和7年度補正予算では、GX分野に国庫債務負担行為を含めて約7,000億円規模の予算が措置されました。ここでは、企業や個人が活用できる代表的な4事業を解説します。
1. 高効率給湯器導入促進事業(給湯省エネ2026事業)
家庭部門のエネルギー消費の約3割を占める給湯分野を対象に、ヒートポンプ給湯機(エコキュート)、ハイブリッド給湯機、家庭用燃料電池(エネファーム)といった高効率給湯器の導入を支援する事業です。予算額は570億円で、賃貸物件オーナーや一般家庭、新築・リフォームを問わず幅広く活用できます。
| 機器種別 | 基本補助額 | 性能加算(最大) |
|---|---|---|
| ヒートポンプ給湯機(エコキュート) | 7万円/台 | +3万円(最大10万円/台) |
| ハイブリッド給湯機 | 10万円/台 | +2万円(最大12万円/台) |
| 家庭用燃料電池(エネファーム) | 17万円/台 | 性能加算なし |
導入と併せて電気蓄熱暖房機を撤去する場合は1台あたり4万円(最大2台)、電気温水器を撤去する場合は1台あたり2万円が加算されます。対象工事は2025年11月28日以降に着手したもので、申請期間は遅くとも2026年12月31日まで(予算上限到達次第終了)となっています。
2. クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)
電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)、軽EV、電動二輪車を対象に購入費用を補助する制度です。令和7年度補正予算では約1,100億円が措置され、2026年3月31日から申請受付が開始されました。
運輸部門は日本のCO2排出量の約2割を占め、そのうち自動車分野が約9割を占めています。2050年カーボンニュートラル実現に向けて、環境性能の高い車両の普及加速は不可欠です。日米関税協議の合意を踏まえ、2026年1月1日以降に新車登録される車両については、補助上限額が大幅に見直されました。
・中古車および事業用車両は補助対象外
・メーカー希望小売価格(税抜)840万円以上の高額車両は算定額の8割に減額
・補助金の交付を受けた車両は、届出日から原則4年間の保有義務あり
・申請期間内であっても予算到達次第、受付終了
3. GXサプライチェーン構築支援事業
GX分野の国内製造サプライチェーンを構築するため、水電解装置、浮体式洋上風力発電設備、ペロブスカイト太陽電池、燃料電池、関連部素材、製造設備への投資を支援する事業です。令和8年度当初予算で497億円、令和7年度補正予算で55億円(国庫債務負担行為を含めると845億円規模)が措置されています。
中小企業を含めて高い産業競争力を有する形で国内製造サプライチェーンを確立することが目的です。世界で競争しうる大規模投資を計画する製造事業者だけでなく、現に国内で生産が限定的な部素材や固有の技術を有する製造事業者も対象に含まれている点が特徴です。
4. 省エネルギー・非化石転換の投資促進・社会実装支援事業
工場・事業場における省エネ設備の更新や、化石燃料から電気・水素・低炭素燃料への転換を支援する大型事業です。令和8年度当初予算で840億円、令和7年度補正予算で550億円が措置されており、4つの事業区分(工場・事業場型、電化・脱炭素燃転型、設備単位型、エネルギー需要最適化型)から選択して申請します。
中小企業者等は補助率1/2、大企業は1/3が基本で、設備単位型のトップ性能枠では更新時に1/2の補助率が適用されます。補助上限額は事業区分により最大15億円/事業までと幅広く、中小企業の生産性向上と脱炭素化を同時に進める強力なツールです。
GXリーグ・改正GX推進法に関するよくある質問
Q1. GX-ETSの義務対象になる「CO2排出量10万トン」とはどう判定されますか?
前年度までの直近3カ年度平均でCO2直接排出量(Scope1)が10万トン以上の事業者が対象です。間接排出(Scope2)は判定基準に含まれませんが、移行計画では2030年度までの直接・間接排出量の削減目標を提出する必要があります。
Q2. 義務対象企業は具体的にどのような業種が中心ですか?
エネルギー多消費型産業が中心で、鉄鋼、化学、セメント、紙・パルプ、電力、石油、運輸、自動車などの業種に属する大規模事業者です。約300〜400社が該当し、日本全体のCO2排出量の約6割をカバーします。
Q3. 義務対象でない中小企業もGXリーグに参画できますか?
はい、GXリーグは規模を問わず参画可能です。2026年度以降は、排出量の少ない企業に対してもサプライチェーン全体でのGX実現に資する取組を求める方針が示されており、中堅・中小企業にとっても自社の脱炭素方針を明確化する有効な選択肢となります。
Q4. 排出枠の調達コストはどの程度を想定すればよいですか?
2026年度の排出枠価格はプライスカラーにより上限4,300円/t-CO2、下限1,700円/t-CO2で運用されます。2027年度以降は毎年3%+インフレ率で調整される設計です。基本的に排出枠は無償で割り当てられるため、削減努力で割当量を達成できれば調達コストは発生しません。
Q5. 義務対象企業が排出枠を不足した場合のペナルティはありますか?
排出実績量と同量の排出枠を翌年度1月31日までに保有することが義務付けられており、不足する場合は市場での調達か適格カーボン・クレジットの活用が必要です。最終的に保有義務を満たせない場合は、国による命令や是正措置の対象となります。
Q6. GX-ETS対象企業から取引先として排出量算定を求められたら、どう対応すべきですか?
まずはScope1(自社の直接排出)とScope2(電気等の使用に伴う間接排出)の算定から始めるのが基本です。GHGプロトコルや環境省の温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)に沿って算定し、削減目標を策定することで、取引先からの要請にも対応しやすくなります。
Q7. 給湯省エネ2026事業の補助金はいつまで申請できますか?
遅くとも2026年12月31日までですが、予算上限570億円に達した時点で受付終了となります。例年、秋頃には予算が枯渇する傾向があるため、検討中の方は早期の申請がおすすめです。
Q8. CEV補助金は法人も申請できますか?
はい、個人だけでなく法人や地方公共団体、リース会社も申請対象です。ただし、新車の自家用車両に限られ、中古車および事業用車両(トラック・タクシー・バスなど)は対象外です。商用車については、別途環境省の「商用車等の電動化促進事業」が用意されています。
Q9. 化石燃料賦課金はいつから始まりますか?
2028年度から導入される予定です。化石燃料の輸入・採取事業者に対し、CO2排出量に応じた賦課金を徴収する制度で、燃料価格や電気料金への転嫁を通じて全企業の事業コスト上昇要因となります。GX-ETSと並ぶ成長志向型カーボンプライシングの柱と位置づけられています。
Q10. 自社が排出量取引制度の対象になるか確認するには、どうすればよいですか?
経済産業省が公表する「排出量取引制度の詳細設計」関連資料や、GXリーグ公式サイト、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)の公表データから自社の排出量を確認できます。判定が難しい場合は、補助金や脱炭素経営に詳しい専門家への相談も有効です。
まとめ
2026年は日本のGX政策が「試行」から「本格運用」へと大きく舵を切る年となりました。改正GX推進法の施行により、CO2を年10万トン以上排出する大規模事業者にはGX-ETSへの参加が義務化され、移行計画の提出や排出枠の保有・償却といった新たな実務対応が求められます。GXリーグは第1フェーズで蓄積したノウハウを土台に、第2フェーズでは法的義務制度を支える基盤として機能していくことになります。
一方で、令和7年度補正予算ではGX分野に約7,000億円規模の支援が措置され、給湯省エネ2026事業、CEV補助金、GXサプライチェーン構築支援事業、省エネ・非化石転換補助金など、多彩な活用機会が用意されています。義務対応のコストを補助金で抑えながら、自社の競争力を高める投資へとつなげる発想が、これからの脱炭素経営には欠かせません。
GX-ETSの直接対象でない中堅・中小企業も、サプライチェーンを通じた排出削減要請とは無関係ではいられない時代です。まずは自社の排出量を「知る・測る」ことから始め、補助金を活用した具体的な削減投資につなげていく――この一歩が、これからの10年を生き抜く企業の生存戦略となるでしょう。
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