GXとは、グリーン・トランスフォーメーションの略称で、化石燃料に依存しないクリーンなエネルギー源への移行を目指す変革のことを指します。そこには、私たちの暮らしや産業のあり方を見直し、環境への負荷を減らしながらも、経済的に持続可能な社会を築いていくための活動が含まれています。
令和5年度の補正予算では、くらしや産業の環境への配慮を後押しするための補助金に予算が計上されています。これは、温室効果ガスの削減やクリーンエネルギーの利用を促すもので、家庭や事業者が環境に優しいプロジェクトに容易に取り組めるようにすることを狙いとしています。本記事では、GX推進のために企業が産官学と協働する場である「GXリーグ」の活動と、令和5年度補正予算案におけるGX支援対策費関係事業についてご紹介します。
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この記事の目次
GXリーグの目的と活動内容
GXリーグの目的は、参画企業がリーダーシップを持って取り組むことで、2050年のカーボンニュートラルを目指した社会構造変革のための価値を提供することです。具体的な活動としては、次のようなものがあります。
参画企業が自ら目標を定め、GX投資と温室効果ガス(GHG)削減、さらにその取り組みを社会に対して開示する <排出量取引システム(GX-ETS)>。 |
新しい市場を創出するために、政府と民間が共同でルール形成に取り組むこと。これにはルール設計、実証、そして世界に向けての情報発信が含まれる。 |
2050年のカーボンニュートラル実現を前提とした新たな経済社会システムをビジネス機会と捉え、官民のルール作りや企業の中長期戦略、事業開発、研究テーマの開発に活用し、異業種間の対話を行う。 |
企業間の自由な交流を通じて、気候変動対応に関する関心事項や実務上の課題についてのディスカッションや情報交換を行う <GXスタジオ>。 |
これにより、企業が世界へのリーダーシップを発揮し、GXとイノベーションで利益を得る仕組みを築き、その投資が金融、労働、市民から支持される体制となることを目指します。
排出量取引システム(GX-ETS)とは
GXリーグの活動のひとつ、排出量取引システム(GX-ETS)は、企業が設定する野心的な排出削減目標を達成するために、社会全体での効率的な排出削減を目的として排出量取引を行うシステムです。
実施事項は以下のとおりです。
1.プレッジ
企業は、国内の直接および間接排出に関して、2030年度と2025年度の排出削減目標等を設定します。
2.実績報告
企業は国内の直接・間接排出の実績を算定し、報告します。この排出量の算定結果には、第三者による検証が必要とされます。
3.取引実施
排出量取引の対象は、国内の直接排出分のみです。目標を達成できなかった場合、企業は超過削減枠や適格カーボン・クレジットを調達するか、未達理由を説明する必要があります。また、NDC(国が決定する貢献)の水準を超える削減を行った「超過削減分」は他社に売却することが可能です。
4.レビュー
目標達成状況や取引状況は、「GXダッシュボード」という情報開示プラットフォームで公表されます。排出削減と成長を積極的に進める多排出企業に対しては、様々な支援策と連携することが検討されています。
市場創造のためのルール形成
GXリーグの活動「市場創造のためのルール形成」は、カーボンニュートラルを達成するために産業間の壁を取り払い、企業が自らの利益を追求しながら世界への貢献を目指す新しい市場とルールを作ることを目的としています。この取り組みは、ルールの設計に留まらず、実際の実証、実装および国際社会へのルールの発信までを含みます。
実施事項としては、GXリーグ運営事務局が設定するテーマ、または参画企業が提案するテーマに基づきワーキンググループ(WG)を組成し、ルールの策定に向けて議論を行います。テーマの提案は年間を通じて行われ、特に5月から6月にかけての募集が予定されています。
プロセスは以下のように進行します。
1.WGテーマ提案
参画企業はテーマ案を提出し、事務局が設立するWGにメンバーを募集します。
2.アジェンダ設計
テーマや想定されるアウトプットに関する現状と課題を整理し、論点を明確化し、検討プロセスを整理します。
3.議論
WGメンバー間で密接な議論を行い、必要に応じて国内外の専門家と連携し、テーマやアジェンダの見直しも行います。
4.実証
議論を踏まえて、ルールメイキングのアウトプットを具体化し、策定したルールの試運用などの実証を行います。
5.評価
実証結果を評価し、改善案を検討します。また、他の参画企業からのフィードバックを求め、意見を反映させることも行います。
GXスタジオでの企業間交流
「GXスタジオ」は、GXに関連するテーマについて、参画企業間で取り組みやベストプラクティスを共有し、連携や共創を促進するための交流の場です。
具体的な実施事項としては、GXに関連するテーマに関するプレゼンテーションやディスカッションを定期的に開催しています。2023年6月からは隔月での実施を予定し、8月19日には「生活者の行動変容」をテーマに第一回のGXスタジオが開催されました。これに続き、8月25日には「サプライチェーン全体の取り組みと課題」に焦点を当てた第二回のセッションが行われました。このセッションでは、サプライチェーンの脱炭素化と持続可能性向上を急務と考え、最終製品メーカーや需要家、サプライヤー企業が各自の取り組みと課題を共有し、視点を合わせることが目的でした。
GXスタジオは今後も定期的に開催され、参画企業同士がフラットな立場で自由に意見交換する場となることを目指しています。参画企業からの意見を反映し、関心の高いテーマを取り上げることで、参加企業にとって有益な交流の機会を提供する予定です。
令和5年度補正予算案におけるGX支援対策費関係事業
ここからは、令和5年度補正予算案におけるGX支援対策費関係事業を4つご紹介します。
1.高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金
出典:高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金
令和5年度の補正予算案には、家庭部門の省エネルギー推進を目的とした「高効率給湯器導入促進事業費補助金」が含まれており、予算案額は580億円です。この事業は、家庭でのエネルギー消費の大部分を占める給湯を対象に、ヒートポンプ給湯機や家庭用燃料電池などの高効率給湯器の導入を支援し、その普及を目指します。これにより、「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」の目標達成に貢献するとともに、温室効果ガスの排出削減と日本の産業競争力の強化を目的としています。
具体的には、高効率給湯器の導入に必要な費用を補助することで、エネルギー消費量を削減します。特に、昼間の余剰再生可能エネルギー電気を活用できる機種の導入には、補助額の上乗せがあり、寒冷地で高い電気代を発生させる蓄熱暖房機などの設備撤去時には、さらなる加算措置が提供されます。
2.クリーンエネルギー自動車導入促進補助金
「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」には1291億円が計上されています。この補助金の目的は、運輸部門で発生する二酸化炭素排出量の削減と自動車産業の競争力強化を両立させることにあります。運輸部門は日本のCO2排出量の約20%を占め、そのうち自動車分野が約90%を占めるため、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、環境性能が優れたクリーンエネルギー自動車(電気自動車(EV)、軽電気自動車(軽EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)、電動二輪車)の普及が重要です。
事業概要としては、導入初期にあるこれらの車種の購入費用の一部を補助することで、初期需要を創出し、量産効果による価格低減を促進します。これにより、企業の生産設備投資や研究開発投資も促進され、需要の拡大を見越した投資が行われることが期待されます。
3.経済環境変化に応じた重要物資サプライチェーン強靱化支援事業(半導体)
出典:経済環境変化に応じた重要物資サプライチェーン強靱化支援事業
「経済環境変化に応じた重要物資サプライチェーン強靱化支援事業(半導体)」には4376億円(GX関連で2806億円)が割り当てられています。この事業の目的は、国民の生存、生活、経済活動に甚大な影響を及ぼす可能性のある重要物資の供給途絶を防ぐため、安定供給を支援する事業環境を整備することにあります。
事業概要としては、半導体の国内供給の安定化を目指し、サプライチェーンの強化を図ることで、従来型半導体だけでなく、製造装置、部素材、原料の製造能力の強化に対して支援を実施することが含まれています。
4.蓄電池の製造サプライチェーン強靱化支援事業
「蓄電池の製造サプライチェーン強靱化支援事業」には、2658億円が割り当てられています。この事業の目的は、自動車の電動化や再生可能エネルギーの需給調整に必要な蓄電池の国内製造サプライチェーンを強化し、安定供給を確保することです。5G通信基地局のバックアップ電源など、今後の電化・デジタル化社会の基盤維持にも蓄電池は不可欠とされています。
本事業では以下の2つの取り組みが行われます。
【蓄電池・部素材等の設備投資支援】
国内での蓄電池や部素材の製造基盤を強化するために、大規模な製造基盤や限定的に生産されている部素材の製造基盤、固有技術を用いた製造基盤の整備を行う事業者に対して補助が実施されます。
【蓄電池・部素材等の技術開発支援】
蓄電池・部素材に関する優位性・不可欠性を確立する技術、製造工程の脱炭素化、データ管理や生産性向上を図るデジタル技術等の開発を行う事業者に対しても補助が行われます。
まとめ
GXリーグは、企業がリーダーシップを発揮し、2050年のカーボンニュートラルを目指すための共同プラットフォームです。この取り組みでは、企業が自ら設定した野心的な環境目標に沿って行動し、経済成長と環境保護の調和を目指します。
国が目指すGXの戦略は、令和5年度の補正予算案にも見ることができます。例えば、高効率給湯器の導入促進や、クリーンエネルギー自動車への移行支援など、家庭や産業レベルでのエネルギー消費の効率化を推進する制度を通じて、温室効果ガスの排出削減の実現を目指します。さらに、半導体や蓄電池製造サプライチェーンの強靱化を支援し、安定供給と産業競争力の強化を図ることもこの戦略の一環です。
これから、GXと関連政策は、技術の進化と市場の拡大を通じて、環境と経済を両立させる体制を確立していきます。家庭や産業レベルでは、個々が環境意識を高めエネルギー効率の良い製品やサービスを選択することで、大きな力となり、社会構造の変革につながっていくでしょう。