コロナ禍の影響が一定の落ち着きを見せ、経済活動が活発になりつつあるいま、企業にとっては事業の再構築や人材確保が切実な課題になっています。
令和5年度補正予算案では、こうした課題への対策として、産業雇用安定助成金に「産業連携人材確保等支援コース」(仮称)が新設されます。今回は産業雇用安定助成金の産業連携人材確保等支援コースについて、詳しく見ていきましょう。
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この記事の目次
施策の目的
令和5年度補正予算案では、「物価高から国民生活を守る」「地方・中堅・中小企業を含めた持続的賃上げ、所得向上と地方の成長を実現する」「成長力の強化・高度化に資する国内投資を促進する」「人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変⾰を起動・推進する」「国土強靱化、防災・減災など国民の安全・安心を確保する」の5つの「柱」に対応する対策が盛り込まれました。
このうち、産業連携人材確保等支援コースは「地方・中堅・中小企業を含めた持続的賃上げ、所得向上と地方の成長を実現する」に関連するものとして掲げられています。
本コースは人材確保に向けた産業政策との連携を図るため、社会情勢の変化によって一時的な事業縮小を余儀なくされた事業主に対し、雇用の安定や人材確保の円滑化を支援するものです。
優秀な人材を確保するには、なにが必要なのでしょうか。
総務省が発表した令和4年就業構造基本調査 では、2022年10月1日時点での有業者は6,706万人と、5年前に比べて85万人増加したことが示されました。
出典:令和4年就業構造基本調査
また「正規の職員・従業員」も63.1%と、こちらも5年前と比較すると、1.3ポイントの上昇です。さらに育児や介護をしながら就業する者の割合も上昇しています。
生活様式の変化に伴い、テレワークを実施した者の割合も高くなりました。全有業者のうち、19.1%が「テレワークを実施した」と回答しています。この傾向は、25歳から34歳の年齢階級で、特に強く見られました。
個人や社会の状況にあわせた多様な働き方への対応が、雇用状況にも影響していることが推測されます。必要な人材を確保するためには、労働環境の改革が鍵となりそうです。
施策の概要
産業雇用安定助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響によって事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた企業を対象に、失業の予防や雇用の安定を図ることを目的に2021年に創設された制度です。
その後、令和5年4月に「事業再構築支援コース」が創設され、10月31日には「雇用維持支援コース」が廃止されるなど、時代の変化に合わせた変更が行われました。
今回新設予定の「産業連携人材確保等支援コース」では、中小企業事業主等が、生産性向上等に必要な人材を雇入れた場合に補助金が交付されます。
詳細や申請時期などは補正予算成立後に公表されますが、まずはいまわかっている要件等について見てみましょう。
対象事業主
本コースは、産業政策との連携を図るものです。申請には、すでに指定の補助金にて交付決定を受けている必要があります。
産業連携人材確保等支援コースの対象となる事業主の要件は、以下のとおりです。
- 景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた中小企業事業主等
- 生産性向上等に必要な人材を、新たに雇入れた事業主
- 「中小企業庁の事業再構築補助金」または「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の一部の枠において採択され、交付決定を受けている事業主
要件のひとつに挙げられた、他の補助金の概要も確認しておきましょう。
事業再構築補助金の概要
ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応する中小企業等の事業再構築を支援する制度です。
日本経済の構造転換を促すため、新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換・事業再編等の挑戦を補助の対象とします。
■主な要件 |
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①事業計画について、認定経営革新等支援機関や金融機関の確認を受けること ②以下のいずれかを達成すること ・補助事業終了後、3~5年で、付加価値額の年率平均を3~5%以上増加する ・従業員1人あたり付加価値額の年率平均3~5%以上増加する |
そのほか、コースごとに要件があります。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金の概要
中小企業・小規模事業者等が直面する制度変更等に対応するために行う、革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善による生産性向上のための設備投資等を支援します。
■主な要件 |
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・給与支給総額を年率平均1.5%以上増加 ・最低賃金を、毎年地域別最低賃金+30円以上の水準とする ・事業者全体の付加価値額を、年率平均3%以上増加させる |
なお、現在は第17次締切分の公募要領が準備中です。申請の際には、必ず最新の要件を確認してください。
助成要件
産業連携人材確保等支援コースの要件は、以下のとおりです。
■労働者の雇用を確保した上で、生産性向上等に必要なスキル等を保有する労働者を1人以上、常時雇用する労働者として雇い入れること
なお、「生産性向上等に必要なスキル等を保有する労働者」とは、「専門的な知識等を有する年収350万円以上の者」を指します。
助成額
助成額は、以下のとおりです。
中小企業 | 250万円(6か月ごとに125万円×2期) |
中小企業以外 | 180万円(6か月ごとに90万円×2期) |
助成金支給までの流れ
助成金支給までの主な流れは、以下のとおりです。
①補助金応募書類提出 |
②採択審査委員会による審査・採択 |
➂補助金の交付申請・交付決定 |
④新たな人材の雇入れ ※補助事業実施期間内に行います |
⑤労働局・ハローワークに支給申請 ※雇入れから6か月および12か月経過後に行います |
⑥助成金受給 |
この施策が業界に与える影響は?
岸田政権は「新しい資本主義」として、人への投資を強化することを明言しています。継続的な賃上げ要請もそのひとつです。さらに「リスキリングによる能力向上支援」「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」「成長分野への労働移動の円滑化」の三位一体の改革を通じて、分厚い中間層の形成を目指しています。
11月の記者会見において、岸田首相は「経済活性化が優先」であることを明確に示し、国民へ、その順番への理解を求めました。岸田政権では、賃金が物価上昇を上回るのは2024年から2025年になると想定されています。経済支援に対する強化は、もうしばらく続くとみてよいでしょう。
コロナ禍や不安定な社会情勢下で長い苦境の時期を過ごしてきた企業にとって、これは好機です。産業雇用安定助成金に「産業連携人材確保等支援コース」の活用は、雇用される労働者の雇用の安定の確保につながるとともに、新たな人材の円滑な受け入れが促進されることが期待されています。
生産性を高め、企業としての体力を養うためには、優秀な人材が必要です。いっぽうで、人材の奪い合いはすでに国内外で起きています。日本では賃金や労働環境を理由に、優秀な人材の海外流出が増えていることが指摘されています。優秀な人材を確保するためには、労働環境の見直しが必要です。
産業雇用安定助成金「産業連携人材確保等支援コース」をはじめとした国の支援が強化されているいまこそ、予算的余裕を作りながら、「よりよい企業」への改革を進めていきましょう。
まとめ
回復の兆しが見えてきたとはいえ、世界経済は未だ多くの不安要素を抱えています。しかし変化する時代の動きに対処するには、すでに動き出す必要があります。
産業雇用安定助成金に「産業連携人材確保等支援コース」では、他の補助金の交付に加え、最大250万円が助成されます。要件も少なく、比較的容易に取得できる助成金です。
この機会に産業雇用安定助成金に「産業連携人材確保等支援コース」を上手に活用し、時代の変化を乗り切りましょう。