▼11月15日更新
※「省力化」について、以下の補助事業の情報を更新しました。
・省力化等の大規模成長投資補助金
・中小企業省力化投資補助事業
・中小企業生産性革命推進事業
政府は10日、2023年度の補正予算案を決定し、その規模は13兆1272億円にのぼります。この補正予算によって、エネルギー費用の負担軽減策が2024年4月末まで延長され、生活費の軽減が図られます。また、国内の半導体産業を強化するための工場整備費用の補助なども計画されています。本記事では、経済産業省が主導する分野の補正予算案について、解説していきます。
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・令和5年度補正予算案 環境省
・令和5年度観光庁補正予算案
・令和5年度補正予算こども家庭庁
・令和5年度補正予算 農林水産省
・令和五年度補正予算案 厚労省
この記事の目次
経済産業省令和5年度補正予算案の概要
経済産業省の令和5年度補正予算案は、総額4.5兆円に及びます。予算は大きく分けて、国民生活を物価高から守る措置、地方や中小企業の支援、国内投資の促進、社会変革の推進、国土強靱化と国民の安全・安心の確保という5つの柱に割り当てられています。
国民生活を守るための燃料油価格激変緩和対策事業や電気・ガス価格激変緩和対策事業には、合わせて約1.2兆円が充てられており、これにはLPガス配送合理化等の支援や省エネ推進策も含まれます。
成長力の強化には約2.7兆円が予定され、ここには半導体、AI、量子技術の開発整備、再生可能エネルギーや蓄電池の導入促進、スタートアップ支援、グローバルサウスとの連携強化が含まれています。これらの投資は、日本の産業技術革新と国際競争力の向上を目的としています。
また、人口減少を乗り越えるためにデジタルライフライン整備などへの投資や、国土強靱化と防災・減災を目的とした事業にも重点を置いています。これらの施策を通じて、国民の生活やビジネスの持続可能性を支え、日本経済の基盤を強化することを目指しています。
出典:経済産業省関係令和5年度補正予算案の概要
1.物価高から国民生活を守る事業への取り組み
経済産業省は、前述のとおり「物価高から国民生活を守る」事業において、生活者や事業者への支援を総額で1.2兆円と定めています。この中で、燃料油価格の激変緩和対策事業には1532億円を割り当て、ガソリンなどの燃料油の卸価格抑制を通じて小売価格の急騰を抑え、家計や企業の負担軽減を目指します。電気・ガス価格激変緩和対策事業には6416億円が配分され、現在の電気・ガス料金の値引き支援を来年4月まで継続し、家計と企業の経済的負担を軽減します。さらに、LPガス配送合理化等支援に77億円を充て、配送車両の導入や充てん所の自動化など、省エネと効率化に向けた設備投資を支援し、ガス購入コストの低減を図ります。
事業名 | 予算配分 |
燃料油価格激変緩和対策事業 | 1532億円 |
電気・ガス価格激変緩和対策事業 | 6416億円 |
小売価格低減に資する石油ガス配送合理化・設備導入促進補助金 | 77億円 |
他に、エネルギーコスト上昇に対する経済社会の耐性強化のための措置として、次のようなものがあります。
事業 | 予算配分 | 事業内容 |
・省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金 | 2025億円 | 省エネ性能が高い設備への更新費用を支援する「省エネ補助金」で、複数年間の投資計画を継続的に支援する仕組みを全類型に適応し、脱炭素に繋がる電化・燃料転換のための類型を新設 |
・省エネルギー投資促進支援事業費補助金 | 300億円 | |
・中小企業等エネルギー利用最適化推進事業費 | 21億円 | 中小企業が省エネ診断を安価で受けられるよう支援 |
・高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金 | 580億円 | 家庭の高効率給湯器の導入を支援し、蓄熱暖房機の更新に加算措置を実施 |
・既存賃貸集合住宅の省エネ化支援事業 | 185億円 | 賃貸集合住宅を対象に、小型の省エネ型給湯器(エコジョーズ等)の導入支援策を新設 |
・クリーンエネルギー自動車導入促進補助金 | 1291億円 | 電気自動車や燃料電池自動車等の購入費用の補助を行う。また、電気自動車とプラグインハイブリッド自動車の充電設備や水素ステーションの設置と運営にかかる費用を補助する。 |
・クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金 | 400億円 |
2.地方・中小企業を支援し、持続的な成長を促進(11月15日追記)
地方と中小企業が直面する複数の課題に対応し、持続可能な成長を実現するために6000億円を配分しています。この予算は、賃上げの環境整備、人手不足への対応、生産性向上を通じて、賃金の継続的な上昇を支援するためのものです。さらに、物流、コンテンツ産業、万博などの推進にも予算が割り当てられており、これにより地方経済の活性化が期待されます。特に中小企業に対しては、大規模な成長投資の促進や、省力化投資を支援することで、成長を促す方針です。
【①中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金について】
出典:経済産業省 令和5年度補正予算案の事業概要(PR資料)
中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金は、令和5年度補正予算案で1000億円が配分され、国庫債務負担を含めると総額3000億円になります。この補助金の目的は、地域雇用を支える中堅・中小企業の大規模投資を促進し、人手不足などの課題に対応しながら成長を遂げ、地方における持続的な賃上げを実現することです。
事業概要として、企業が持続的な賃上げを目指して、人手不足に対応する省力化や労働生産性を大幅に向上させること、そして事業規模を拡大するための工場新設や設備投資に対して補助を提供します。補助の上限額は50億円で、投資の下限額は10億円です。また、複数の企業がコンソーシアムを形成して投資額が合計で10億円以上になる場合も対象となりますが、一定規模以上の投資を行う企業が含まれている必要があります。
【②中小企業省力化投資補助事業について】
出典:経済産業省 令和5年度補正予算案の事業概要(PR資料)
中小企業省力化投資補助事業には、1000億円が割り当てられています。この補助金の主要な目的は、人手不足に直面する中小企業を支援し、省力化投資を奨励することで売上拡大と生産性の向上を実現し、結果として賃金の上昇に繋げることです。具体的には、中小企業が容易に選択し導入できるように、IoTやロボットなどの人手不足解消に効果がある汎用製品をカタログ形式で提供します。これにより、迅速かつ容易に省力化投資を実施でき、即効性が期待されます。
補助金の枠組みは従業員数に応じて異なり、5名以下の企業は最大200万円、6〜20名は最大500万円、21名以上の企業は最大1000万円の補助が可能です。さらに、賃上げ要件を満たした場合には、これらの上限額がそれぞれ300万円、750万円、1500万円に引き上げられます。補助率は投資額の1/2と定められています。
この事業の成果目標としては、付加価値額の増加や従業員一人当たりの付加価値額の増加を目指しており、これまでの中小企業等事業再構築促進基金を用いた支援を再編し、経済社会の変化に対応する企業の事業再構築を支援する方針です。
【③中小企業生産性革命推進事業について】
出典:経済産業省 令和5年度補正予算案の事業概要(PR資料)
中小企業生産性革命推進事業には2000億円が配分されています。中小企業や小規模事業者が生産性の向上に取り組む際の設備投資、IT導入、販路開拓、事業承継などを支援します。
1.ものづくり補助金:革新的な製品やサービス開発、省力化を実現するための設備投資を支援します。新設される「省人化(オーダーメイド)枠」は、賃上げを伴う大幅な省力化投資の場合、最大1億円の補助を提供します。
2.持続化補助金:小規模事業者が経営計画に基づいて行う販路開拓などの取り組みを支援します。
3.IT導入補助金:業務効率化、デジタル変革の推進、サイバーセキュリティ対策、インボイス制度対応などを目的としたITツールの導入を支援します。この枠内で、デジタル化基盤導入枠が「インボイス枠」に変更され、対象となるソフトウェアからECが除外され、会計・受発注・決済の3つに絞られています。
4.事業承継・引継ぎ補助金:事業承継後の新たな取り組みや、M&A時の専門家活用費用などを支援します。
補正予算における、賃上げの環境整備、人手不足対応のための主な事業は以下のとおりです。
主な事業 | 予算配分 |
①中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金 (地方の中堅・中小企業が人手不足等に対処し、拠点の新設や大規模投資を通じて成長し賃上げが広がるよう支援) |
1000億円 ※国庫債務負担含め総額3000億円 |
②中小企業省力化投資補助事業 (人手不足の中小企業に対し、カタログから製品を選ぶような簡単な方法で省力化投資を支援) |
1000億円 |
③中小企業生産性革命推進事業 | 2000億円 |
④日本政策金融公庫等による資金繰り支援 | 629億円 |
⑤中小グループ化・事業再構築支援ファンド出資事業 | 120億円 |
⑥事業環境変化対応型支援事業 | 112億円 |
⑦中小企業活性化・事業承継総合支援事業 | 52億円 |
⑧中小企業信用補完制度関連補助事業 | 71億円 |
⑨物流効率化に向けた先進的な実証事業 | 55億円 |
構造的賃上げに向けた三位一体の労働市場改革の推進
「構造的賃上げに向けた労働市場改革」の一環として、97億円がリスキリング支援事業に割り当てられています。この事業は、労働者のスキルアップとキャリアアップを支援し、異なる産業間の労働移動を円滑にすることを目的としています。これにより、持続可能な成長と所得分配の改善が期待されます。また、高等教育機関での共同講座創造には3.5億円が割り当てられ、先進分野で高度な専門知識を持つ人材を育てることを目的としています。
事業名 | 予算配分 |
リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業 | 97億円 |
高等教育機関における共同講座創造支援事業 | 3.5億円 |
経済の回復基調の地方への波及及び経済交流の拡大
「経済の回復基調の地方への波及及び経済交流の拡大」として、二つの項目があります。まず、「文化芸術コンテンツ・スポーツ産業の海外展開促進事業」に71億円が割り当てられており、日本の文化やスポーツ産業の海外でのプレゼンス強化を目指しています。次に、「国際博覧会事業」に946億円を充て、2025年大阪・関西万博の準備と運営をサポートします。
事業名 | 予算配分 |
我が国の文化芸術コンテンツ・スポーツ産業の海外展開促進事業等 | 71億円 |
国際博覧会事業 | 946億円 |
3.成長力の強化・高度化に資する国内投資を促進する
生産性向上・供給力強化を通じて潜在成長率を引き上げるための国内投資の拡大として、大きな予算が割り当てられているのは「重要物資サプライチェーン強靱化支援」で、9147億円が計上されています。この事業は、地政学的な変化や技術革新に対応し、半導体や先端電子部品など重要な物資の安定供給を目指しています。次に大きな予算は「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」に6778億円、さらに「先端半導体の国内生産拠点の確保」に6322億円が充てられており、これらは次世代半導体の開発や国内生産拠点の整備を支援することで、技術革新と国内の産業基盤の強化を目指しています。
また、生成AIの開発力強化には1856億円、量子・古典融合技術の産業化支援に300億円が割り当てられており、これらの事業は最先端技術の開発と産業化を加速させることを目的としています。さらに、再生可能エネルギーの推進や環境再生に向けた研究開発にも重点が置かれており、これらの予算は、技術革新、環境対策、経済成長を同時に進めるための戦略的な投資だと言えます。
主な事業 | 予算配分 |
ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業等 | 6778億円 |
先端半導体の国内生産拠点の確保 | 6322億円 |
経済環境変化に応じた重要物資サプライチェーン強靱化支援 | 9147億円 |
生成AIの開発力強化に資する計算資源の整備・モデル開発等 | 1856億円 |
量子・古典融合技術の産業化支援機能強化事業 | 300億円 |
イノベーションを牽引するスタートアップ等の支援
イノベーションを牽引するスタートアップ等の支援の主な焦点は宇宙戦略基金とグローバルサウス未来志向型共創事業にあります。宇宙戦略基金には1260億円が割り当てられ、宇宙技術の開発と民間企業の市場参入を支援します。グローバルサウス未来志向型共創事業には1400億円が配分され、アジアの脱炭素化などグローバルサウスの課題解決を通じて日本国内の産業活性化を目指します。
主な事業 | 予算配分 |
宇宙戦略基金の創設 | 1260億円 |
起業家等の海外派遣・シリコンバレー拠点形成事業 | 62億円 |
地方や分野別スタートアップの創出強化 | 17億円 |
グローバルサウス未来志向型共創等事業 | 1400億円 |
4.人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変革を起動・推進する
人口減少に直面する日本の社会変革を目指す分野で重要な投資は、自動運転とデジタル化への取り組みです。132億円が自動運転の社会実装とデジタルライフラインの整備に割り当てられています。これにより、労働力不足の解消と物流の効率化が図られることが期待されます。さらに27億円が無人自動運転車の開発と実証に充てられ、将来の輸送力不足への対策としています。また、産業界のサイバーセキュリティ強化にも5.1億円が投じられ、デジタル化が進む中での安全性の確保を目指しています。これらの取り組みは、技術革新を活用して社会の変化を力に変えることを目標としています。
主な事業 | 予算配分 |
自動運転等の先行実装のためのデジタルライフライン整備事業等 | 132億円 |
モビリティDX促進のための無人自動運転開発・実証支援事業 | 27億円 |
産業サイバーセキュリティ対策の強化に向けた環境整備事業 | 5.1億円 |
5.国土強靱化、防災・減災など国民の安全・安心を確保する
国民の安全と防災対策では、自然災害からの復旧・復興支援として、被災地の中小企業や地方公共団体への援助に45億円が充てられています。災害対応能力の強化には、サービスステーション等の設備投資に90億円、社会的重要インフラへの燃料備蓄推進に20億円、天然ガス利用設備の導入支援に13億円が割り当てられています。また、福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水・処理水対策に175億円、ウクライナ復興支援に260億円が予算化されており、国内の安全保障と国際協力を重視しています。これらの予算は、災害への迅速な対応と回復、国民の生活の安定と国際的な役割の強化を目指しています。
主な事業 | 予算配分 |
なりわい再建支援事業等による被災地域の復興支援 | 45億円 |
サービスステーション(SS)等の地域配送拠点における災害対応能力強化事業 | 90億円 |
災害時の強靱性向上に資する天然ガス利用設備導入支援事業 | 13億円 |
廃炉・汚染水・処理水対策事業 | 175億円 |
ウクライナ復興支援事業 | 260億円 |
まとめ
2023年度の経済産業省補正予算案は、総額4.5兆円に及び、国民生活の支援、地方や中小企業の成長促進、国内投資拡大、社会変革推進、国土強靱化など5つの重点分野に焦点を当てています。この予算は、物価高騰に対応するための燃料油や電気・ガス価格の緩和策、省エネルギー投資の促進、中小企業の生産性向上や賃上げ支援などに重点を置いています。また、半導体産業やAI、量子技術の開発、再生可能エネルギーの促進、スタートアップ支援など、国内の技術革新と国際競争力向上を目指す投資も計画されています。
中小企業経営者の皆様には、この補正予算案の内容を確認いただき、自社のビジネスや投資戦略に活かすことが重要です。エネルギー費用の軽減や生産性向上支援、技術革新への投資など、多岐にわたる支援策が提供されるため、これらの機会を最大限に利用して、企業の持続的な成長と競争力の強化を目指すことが望まれます。