日本の観光業界は新たな局面を迎えています。観光庁が発表した令和5年度の補正予算では、訪日外国人旅行者の消費額を5兆円に引き上げるという目標達成のために約689億円が計上されました。
この投資は、地方への観光客誘致を強化し、名所の再生、さらには観光の質の向上といった形で、多方面に渡る施策に配分されることになります。しかし、業界が抱えるオーバーツーリズムの課題や、深刻な人材不足、受け入れ環境の整備など、解決すべき急務も山積しています。
本記事では、これらの課題に対する政府の取り組みと、それが地域経済と持続可能な観光産業の発展にどのように貢献するかを解説していきます。
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・令和5年度補正予算案経済産業省
・令和5年度補正予算案 環境省
・令和5年度補正予算こども家庭庁
・令和5年度補正予算 農林水産省
・令和五年度補正予算案 厚労省
この記事の目次
観光庁 補正予算の概要
令和5年度の補正予算では、訪日外国人旅行者の消費額の拡大と観光地の再生に向けて、以下のように各事業への予算が配分されています。
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地方誘客促進によるインバウンド拡大: 約184億円
- 特別な体験の提供や、文化・自然・食・スポーツなどを活用した観光消費の拡大と質の向上が目指されています。
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地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化: 約200億円
- 面的な宿泊施設の改修や廃屋撤去などによる観光地の再生と高付加価値化を推進します。
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オーバーツーリズムの未然防止・抑制・受入環境整備による持続可能な観光推進: 約305億円
- 持続可能な観光の推進、受入環境の整備、需要の適切な管理、需要の分散・平準化などによる地域の観光振興を支援します。
これらの予算配分は、インバウンド消費の拡大だけでなく、持続可能な観光産業と地域経済の活性化を目指すためのものです。オーバーツーリズムの防止や人材不足への対応といった喫緊の課題にも対応しており、多角的な観点から観光業界の強化が図られています。
具体的な取り組み・事業
令和5年度の補正予算では、以下のような具体的な事業に予算が割り当てられ、観光振興と地方誘客の強化が図られています。
1.インバウンド消費の拡大・質向上推進事業
- 早朝夜間や未公開・非混雑エリアの特別な体験提供でインバウンド消費拡大を図る。
- 国・地方型(直轄事業):最高8000万円(最低事業費:3000万円)
- 民間企業型(補助事業):1500万円定額から6000万円まで補助率1/2(最低事業費:2500万円)
出典:令和5年度観光庁関係補正予算
2.地域観光新発見事業
- 地域の観光資源を活用したコンテンツの造成と誘客促進。
- 補助上限:400万円定額、それ以上は補助率1/2(補助上限:1250万円、最低事業費:600万円)
出典:令和5年度観光庁関係補正予算
3.海外ビジネス客の訪日促進事業
- ビジネス分野の誘客として、ミーティング・インセンティブ旅行向けコンテンツ開発。
- 直轄事業:上限4000万円、上限1200万円
4.持続可能な観光推進事業
- オーバーツーリズムの防止、受入環境の整備、需要の分散・平準化を支援。
- 間接補助事業:補助上限8000万円(補助率2/3)、補助上限5000万円(補助率1/2)
出典:令和5年度観光庁関係補正予算
5.観光地・観光産業における人材不足対策事業
- 採用活動支援、設備投資支援、外国人材活用等、人手不足問題に対する包括的な対策の実施。
- 直轄事業と間接補助事業の併用:補助上限500万円、補助率1/2
6.宿泊施設サステナビリティ強化支援事業
- サステナブルな旅行の需要増加に応えるため、宿泊施設の省エネ設備導入を支援。
- 間接補助事業:上限1000万円、補助率1/2。
7.インバウンド安全・安心対策推進事業
- 観光施設や医療機関での外国人対応能力向上を支援し、災害時の観光危機管理を強化。
- 直接補助事業:補助率1/2、一部事業は補助上限500万円。
出典:令和5年度観光庁関係補正予算
8. 地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化
- 宿泊施設を核に観光地の面的な再生と高付加価値化を目指す。
- 間接補助事業:補助対象に民間事業者、都道府県、市町村、DMO等を含む
これらの予算配分と取り組みにより、観光地の質の向上、インバウンド消費の拡大、および観光地の持続可能な発展が目指されています。各事業の補助率や補助上限を踏まえ、効率的かつ効果的な事業運営が求められています。
地域観光新発見事業の概要
地域観光新発見事業は、観光需要回復中に都市部への宿泊偏在を解消し、地方部の競争力強化と地方誘客を目的としています。
地方の観光資源を活用した多様なコンテンツ造成、販路開拓、情報発信を通じて、インバウンドおよび国内観光客の地方への継続的な来訪を促進します。
【公募期間】
令和6年(2024年)3月8日(金)~4月17日(水)
【補助対象】
地方公共団体、DMO、民間事業者等
地域観光新発見事業の補助額
400万円まで定額、 400万円を超える部分については補助率 1/2
補助上限: 1250万円、 最低事業費 600 万円
地域観光新発見事業の類型の特徴
地域観光新発見事業には二つの類型があります。
新たに観光コンテンツを造成し、本事業終了後に販売開始することを見据えた取り組みは「類型1 新創出型」にあたります。造成した観光コンテンツを本事業実施期間内に販売することを前提にした取り組みは「類型2 販売型」になります。
類型1 新創出型 | 類型2 販売型 | |
類型に応じた要件 | 観光コンテンツの販売を想定した運営体制を本事業実施期間内に構築すること | ・観光コンテンツ販売のための運営体制が既に構築されている ・事業期間内にSNS、自社ホームページ、OTA等を用いて情報発信し、販売導線を構築する ・事業期間内の販売が必須で、販売実績報告書の作成が求められる |
主な要件(共通) | ・地域密着型観光コンテンツ造成と産業連携による観光消費拡大の取り組みであること ・観光コンテンツの販売及び継続的に事業を実施することを前提とした取り組みであること ・事業期間内に、観光コンテンツについて、観光コンテンツタリフを作成し提出すること |
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補助対象経費 | 観光コンテンツ造成費、設備導入費、プロモーション費 |
地域観光新発見事業の申請方法
地域観光新発見事業サイトでマイページ登録し、マイページ経由で書類を提出します。
【提出書類】
申請には以下の書類が必要です。
- 事業計画書
- 費用積算書
- 事業実施スケジュール
- 事業概要
- 市区町村の同意書 ※実施主体が地方公共団体である場合は不要
- 連携先の同意書
参考:地域観光"新発見"事業
特別な体験等によるインバウンド消費の拡大・質向上推進事業※1月18日更新
観光庁は、インバウンド消費の拡大と質の向上を目的として、特別な体験コンテンツやイベントの創出を支援する事業の公募を開始しました。
インバウンド消費の拡大・質向上推進事業の公募受付期間
一次公募: 令和6年(2024年)1月12日(金)~2月8日(木)12:00 締切(厳守)
二次公募: 令和6年(2024年)3月27日(水)~4月26日(金)の期間に予定(詳細は後日公表)
国・地方公共団体等所管事業
この事業は、地方公共団体、観光地域づくり法人(DMO)、民間事業者などが実施するもので、日本が誇る観光資源(自然、文化、食、スポーツなど)を活用して、未公開エリアや非混雑エリアでの特別な体験を提供することを目指しています。これにより、これまでにないインバウンド需要を創出し、インバウンド消費額5兆円超、一人当たりの消費額25万円の達成や地方への波及効果を調査・検証することが目的です。
事業の要件 |
日本の観光資源を利用した未公開・非混雑エリアでの特別体験提供、かつインバウンド向けに、以下のいずれかの項目を満たす計画であること。 ①インバウンド規模3,000名以上事業: 訪日外国人向けの大規模な特別体験・イベント ②高付加価値化事業: 通常単価の3倍以上で提供される高品質体験コンテンツ ③地方で実施されるコンテンツについては地方プレミアム体験コンテンツ(地域の自然や文化を活かした、地域経済に貢献する資源を集約した特別体験)認定審査を希望することが可能 |
補助対象経費 |
体験コンテンツ・イベント等の造成に係る経費(人件費・旅費含む)、備品の購入・設備導入、プロモーション経費、効果測定に必要な調査経費 |
上限額 |
8,000万円(最低事業費 3,000万円) |
民間企業等支援事業
この事業は、地方公共団体、DMO、民間事業者に対し、体験コンテンツの造成から販路開拓まで一貫した支援を行うものです。民間企業等支援事業には以下の2つの類型があります。
①インバウンド規模 3,000名以上の体験コンテンツ・イベント等支援事業 | ②高付加価値化支援事業 | |
類型特有の要件 | インバウンド規模 3,000 名以上の体験コンテンツ・イベント等であること | 一般的なものと比較して、単価が3倍以上となる高付加価値化の取組を行うものであること |
共通の要件 | ①日本の観光資源を活用し、未開発・閑静エリアで新たなインバウンド需要を生み出す特別体験を提供する ②地方で実施されるコンテンツについては、「地方プレミアム体験コンテンツ」認定審査を希望することができる ※「地方プレミアム体験コンテンツ」認定事業は、観光庁のプレスリリース紹介、優先的プロモーション、早期事業支援を受けることができる |
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補助対象経費 | 体験コンテンツ・イベント等の造成に係る経費(人件費・旅費を含む)、備品の購入・設備の導入に係る経費、プロモーションに係る経費、効果測定に必要な調査に係る経費 | |
補助率 | 1,500万円までを定額、1,500万円を超え6,000万円までの部分は1/2 | 1,000万円までを定額、1,000万円を超え3,000万円までの部分は1/2 |
補助上限額 | 3,750万円 | 2,000万円 |
最低事業費 | 2,500万円 (最低自己負担額 500万円) | 1,500万円 (最低自己負担額 250万円) |
インバウンド消費の拡大・質向上推進事業の申請方法
- 特設ウェブサイトから申請
【提出書類】
申請には以下の書類が必要です。
- 事業計画書
- 支出計画書
- 事業実施スケジュール
- 事業概要
- 国・地方公共団体等の同意書
参考:「特別な体験等によるインバウンド消費の拡大・質向上推進事業」の公募を開始します
まとめ
令和5年度の補正予算は、観光産業を支援し、新しい動きを生み出すことを目的としています。具体的には、地方の魅力を広める活動に184億円、地域観光の発掘に200億円、持続可能な観光地作りに305億円が割り当てられました。
これらの予算配分により、観光業界をはじめとする事業者にとって、地域経済の活性化のチャンスが広がっています。持続可能な発展を目指す上で、これらの資金がどのように活用されるかは、それぞれの事業者の手に委ねられています。補正予算の情報をもとに、各地域の取り組みに役立てていただければと思います。
▼観光庁の補助金まとめ