2023年6月13日、政府は「異次元の少子化対策」実現のための、こども未来戦略方針を閣議決定しました。
今回のこども未来戦略方針には3つの理念があります。
・若い世代の所得を増やすこと
・社会全体の構造・意識を変えること
・全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援すること
これら3つを柱として、抜本的な政策内容を強化することを明らかにしました。必要とされる政策をまとめた加速化プランの規模は、3兆円半ばとなっています。
本記事では日本の少子化の現状を確認し、現状を打開するための「異次元の少子化対策」について、内容を詳しく解説します。
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この記事の目次
日本の少子化の現状
2022年に日本で生まれたこどもの数は、ピークだった頃に比べ3分の1以下まで減少しています。さらには、少子化に伴い人口減少が加速しており、日本は50年後に人口の3分の1を失うと懸念されています。急速な少子化・人口減少を抑えなければ、国際社会での日本の経済発展に大きな影響を及ぼします。
2030年に入ると若年人口が急激に減少すると見込まれており、少子化は歯止めの利かない状況に陥ることが予想されます。よってこれらの状況を反転させるには、2030年までに徹底した少子化対策を実施する必要があります。
出典:こども家庭庁
こども・子育て政策が抱える課題とは
こども・子育て政策に関しては、過去の施策によって待機児童が大きく減少するなど、一定の成果は見られました。しかし、様々な要因が子育ての負担となり、依然として少子化傾向は進んでいます。こども・子育て政策を抜本的に強化していくためには、下記3点の課題改善が重要です。
①若い世代が結婚・子育てについて将来の展望を見出せない
若い世代(18~34歳の未婚者)については、男女の8割以上が「いずれ結婚するつもり」との意思がある一方で、「一生結婚するつもりはない」と考えている者が近年増加しています。実際に若者からは、下記のような声が上がっています。
・こどもの生活を保証できるほど稼げる自信がない
・コロナ禍で突然失業したり、解雇されたりする不安が大きくなった
・結婚・子育てにメリットや希望を見出せない
このように収入や雇用の不安等によって、若い世代が結婚・子育てについて将来の展望を描けなくなっているのが現状です。
②子育てが困難な社会環境・子育てと両立しにくい職場環境
電車内のベビーカー問題や、混雑した場所で子連れだと肩身が狭いなどの社会環境が、子育てをためらわせる要因になっています。また共働き世代が多い中で、女性の正規雇用は仕事と子育てを両立しにくい環境になりがちです。さらにこどもを持つ共働き夫婦の場合、育児負担が女性に集中する「ワンオペ」になるケースも少なくありません。
一方で男性の場合は、職場に育児休業制度があっても「収入を減らしたくない」「育児休業を理解してもらいにくい」などの理由から、制度を利用しづらい職場環境が生まれています。
③子育ての経済的・精神的負担感や子育て世帯の不公平感
「子育てや教育にはお金がかかる」という経済的負担が、第2子第3子を持たない理由の5割程度を占めています。また「育児の心理的・肉体的負担に耐える自信がない」という理由も、世代に関わらず多く見られます。さらには「こどもへの支援の有無について、親の所得で判断すべきではない」といった、子育て世帯の不公平感を指摘する意見もあります。
少子化対策の「加速化プラン」
少子化傾向を反転できるかどうかは、2030年代に入るまでの今後6~7年がラストチャンスとされています。よって、下記に掲げるプランを「加速化プラン」として、今後3年間の集中取組期間内において、可能な限り前倒しで実施します。
- 児童手当の拡充
- 出産等の経済的負担の軽減
- 高等教育費の負担軽減
- 個人の主体的なリスキリングへの支援
- 「年収の壁」への対応
- 全ての子育て家庭を対象とした保育の拡充
- ひとり親家庭の自立促進
- 男性育休の取得促進
- 育児期を通じた柔軟な働き方の推進 ~利用しやすい柔軟な制度へ~
- 多子世帯の大学等授業料・入学金の無償化
ひとつずつ説明します。
児童手当の拡充
所得制限を撤廃し、支給期間を高校生年代まで延長します。また多子加算に関しては、こども3人以上の世帯数が減少していたり、こども3人以上の世帯は経済的支援の必要性が高かったりすることから、第3子以降は1万5千円から3万円に引き上げます。
※2024年10月支給分から実施の予定です
出産等の経済的負担の軽減
これまで支援が不十分だった「妊娠・出産期から2歳までの支援」を強化するため、下記の項目について実施・検討を進めます。
・「出産・子育て応援交付金(10万円)」の制度化
・「出産育児一時金」の大幅な引上げ(42万円→50万円)
・初回産科受診料の費用助成、出産費用の見える化
・出産費用(正常分娩)の保険適用導入
高等教育費の負担軽減
返済が負担となる貸与型奨学金について、減額返還制度の利用可能年収の上限を325万円から400万円に引き上げます。さらに、こども2人世帯は500万円以下まで、こども3人以上世帯は600万円以下まで引き上げます。また、授業料等減免や給付型奨学金の支援拡充や、2024年度から修士段階の学生を対象とした授業料後払い制度導入の検討を進めます。
個人の主体的なリスキリングへの支援
企業経由が中心である在職者への学び直し支援策(リスキリング)について、働く個人が主体的に選択できるような仕組みに変えていきます。またその際の教育訓練給付に関して、補助率等の拡充を検討するとともに、個人が主体的にリスキリングを進められるよう、新たな給付や融資制度の創設に取り組みます。
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「年収の壁」への対応
年収の壁(106万円・130万円)を意識せずに働けるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大や、最低賃金の引上げに取り組みます。併せて、被用者が新たに106万円の壁を超えた場合も手取り収入が逆転しないよう、労働時間延長や賃上げを実施する企業に対し、必要な費用の補助強化や制度見直しを進めます
▼こちらの記事も合わせてご参照ください。
※11月12日更新
【いま注目される「103万円の壁」とは】
「103万円の壁」とは、パートタイム労働者やアルバイト従事者が年間収入を103万円以下に抑えることで所得税が非課税となる制度上の閾値を指します。この収入を超えると所得税が課されるため、多くの労働者が収入を調整して働く時間を制限する傾向があります。この「壁」は働く意欲を抑制する要因ともなり、労働市場や家庭収入に影響を与えています。
【国民民主党の提案と政府・与党の協議状況】
国民民主党は、「103万円の壁」を基礎控除と給与所得控除の合計を178万円に引き上げることで、より多くの労働者が非課税の恩恵を受けられるよう提案しています。これにより、労働市場の活性化や少子化対策への貢献も期待されています。政府・与党もこの提案を受けて調整を進めているものの、引き上げによる税収減が約7兆~8兆円に達するとの試算が出ているため、対象者の範囲や引き上げ幅について慎重な議論が続いています。
全ての子育て家庭を対象とした保育の拡充
0~2歳児の約6割を占める未就園児など、「孤立した育児」の不安や悩みを抱える多くの家庭を補助するため、全ての子育て家庭に対し支援を強化します。
親の就労要件に関わらず、時間単位等で保育所などを利用できる「こども誰でも通園制度(仮称)」を創設します。2023年度中に未就園児のモデル事業を拡充させ、2024年度から制度を本格的に実施する予定です。
ひとり親家庭の自立促進
ひとり親を雇用し、人材育成や賃上げに向け取り組む企業に対し支援を強化します。併せて、看護師・介護福祉士等の資格取得を目指すひとり親家庭の父母に対し、短時間で取得可能な民間資格を含めた給付金制度を提供します。また、養育費の相談支援や取決めの促進についても、支援を強化します。
男性育休の取得促進
共働き・共育てを定着させるため、男性育休の取得を促進します。「男性育休は当たり前」となる社会の実現に向け、制度面と給付面のそれぞれの対応を強化します。
【制度面の対応】 | 男性の育児休業取得率について、2025年までに30%引き上げる目標を掲げています。2025年3月末で失効する「次世代育成支援対策推進法」を改正し、数値目標の設定やPDCAサイクルの確立を位置付けます。また円滑な職場復帰支援や、育児のための時間帯・勤務地への配慮等に関する行動も取り入れます。 |
【給付面の対応】 | 「産後パパ育休(最大28日間)」の取得や、出生後一定期間内で両親ともに育児休業を取得できるよう、給付率を現行の67%(手取りで8割相当)から80%程度(手取りで10割相当)へ引き上げます。 |
育児期を通じた柔軟な働き方の推進 ~利用しやすい柔軟な制度へ~
育児期を通じて様々な働き方を組み合わせることにより、男女での育児・家事の分担や、育児期の男女が共に希望通りのキャリア形成と両立できるよう、仕組みを構築します。
こどもが3歳になるまでは、事業主には短時間勤務の措置が義務付けられていますが、新たにテレワークも事業主の努力義務として追加を検討します。
その他、下記制度の創設を検討します。
【親と子のための選べる働き方制度(仮称)】 | こどもが3歳以降で小学校就学前までの間、労働者は短時間勤務、テレワーク、フレックスタイム制を含めた出社・退社時刻の調整、休暇などの柔軟な働き方を選択できます。 |
【育児時短就業給付(仮称)】 | 男女ともに一定時間以上の短時間勤務をした場合、手取りはそのままで育児・家事を分担できるよう、時短勤務による賃金の低下を補います。2025年度からの実施を目指します。 |
多子世帯の大学等授業料・入学金の無償化
子育てや教育にかかる高額な費用が家庭の子どもの数に影響を与えている問題に対処するため、2025年度から多子世帯を対象に高等教育費の支援を拡充します。この加速化プランでは、大学、短期大学、高等専門学校(4・5年生)、専門学校の授業料と入学金が、所得制限なしで無償化されます。授業料支援の上限は、大学の場合、国公立で約54万円、私立で約70万円と設定されており、大学以外も校種・設置者ごとに上限が定められています。多子世帯とは、扶養される子どもが3人以上の世帯を指し、子どもが3人以上いる家庭では第1子から無償の対象となります。
この施策は、扶養する子どもが3人以上の多子世帯に焦点を当て、経済状況にかかわらず、多子世帯でも子どもを大学等に進学させやすくし、理想の子どもの数を持つことを可能にすることを目指しています。
こども施策の基本的な方針等を定める「こども大綱」が閣議決定
政府は2023年12月22日に、「こども政策推進会議」と「全世代型社会保障構築本部」の合同会議を開催し、子どもに関する今後5年間の基本方針「こども大綱」を閣議決定しました。この大綱では、学童期のいじめ防止、不登校支援、校則見直し、青年期の就労支援、結婚支援など、各ライフステージでの重要な施策や、子育て・教育の経済負担軽減、ひとり親家庭への支援などが盛り込まれています。具体的施策は毎年6月に「こどもまんなか実行計画」として策定される予定です。国民の少子化対策への期待は意外と高い?
日経xwomanが「働く男女」を対象として実施したアンケートによると、「少子化対策は効果があると思う」との回答が多く見られました。項目別の割合では「産休・育休から復帰しやすい職場環境づくり」(85.8%)が最も高く、次いで「望んだときにいつでも入れる、質の高い保育所の整備」(85.3%)が続きます。
また、他の項目を見ると「残業削減、フレックスタイム導入」「賃上げによる経済力向上」「男性育休の取得率向上」など、企業に対し働き方改革を含めた支援策を強く望んでいる傾向にあります。
働く男女を対象とした一つのアンケートの結果ですが、ここから、少子化対策は効果があると思うという回答が多くあり、行政に対し保育所の利便性向上を求める内容や働き方改革を含めた子育てに関する支援を強く望んでいるということが読み取れます。
気になる財源の確保について
こども家庭庁が公表した「支援金制度等の具体的設計について(素案)」によると、2028年度までの財源確保を待たずに、2026年度までを「集中取組期間」として設定し、少子化対策を加速します。この期間中、財源として「こども・子育て支援特例公債」(仮称)が発行され、必要な費用をまかないます。こども・子育て支援納付金が満額になるまでの間、これらの公債を財源として使用し、その後は支援納付金を償還にも充てる予定です。
2024年2月16日には、「加速化プラン」に記載された取り組みを実現するため、給付金の増額及びその財源を確実なものにすべく、子どもと子育て支援のための法律の一部を変更する法律案が政府によって承認されました。
子育て支援金制度とは?新しい分かち合い・連帯の仕組み
高齢者を含む全ての世代の人と企業などから支援金を集めるとしている「こども・子育て支援金制度」は、少子化に対抗し、社会の構造と意識を一新する目的を持っています。この制度は単に資金を提供するだけでなく、新たな分かち合いと連帯の体系を築くことを目指しており、子育て世帯への支援は全世代、全経済主体が担うべき重要な任務とされています。支援金は、児童手当や妊娠・出産期の支援など特定の目的に使用されます。支援金の徴収については、医療保険者が被保険者から、通常の保険料に上乗せして「こども・子育て支援金」も徴収し、その金額を国に「こども・子育て支援納付金」として納付するかたちになります。日本の社会保険制度は、現役世代の拠出に基づき、高齢世代への給付を中心としています。この制度に新しい連帯の枠組みを組み込むことで、社会保険の持続可能性を強化し、急速な少子化に対処するとしています。このような取り組みは子どもの成育環境の改善に貢献し、長期的には社会全体の健康と福祉を向上させることが期待されます。
年ごとに必要な支援納付金の総額をどのように決定するかは、各年度の末に、予算編成過程で、充当する事業の必要額の見込みを基に金額を決めます。こども家庭庁が関係者の意見を聞きながら、その年度における社会保険負担の実質的な軽減を考慮して金額を設定します。つまり、必要な支援金の額は毎年、必要に応じて調整されるということになります。
気になる支援納付金の分担方法についてですが、後期高齢者医療制度とその他の医療保険制度では、保険料負担に応じて按分され、被用者保険と国民健康保険制度では加入者数に応じて、被用者保険間では総報酬に応じて負担が按分されます。これにより、各医療保険者は公平に支援金の負担を分け合うことになります。また、徴収に関わる事務手続きは、介護納付金の事務を参考にしながら、社会保険診療報酬支払基金が担当します。
子育て支援金はいつから?
支援金制度の構築は、歳出改革と賃上げによる社会保険負担の実質的軽減を基に進められます。この制度の実施には、医療保険者や社会保険診療報酬支払基金による準備作業が必要となり、あわせて、後期高齢者医療制度における保険料の改定なども考慮する必要があります。これらの点を踏まえ、支援金制度は2026年度から公的医療保険を通じて徴収を開始し、初年度に6000億円、翌年に8000億円、そして2028年度以降は年間1兆円を集める計画になっています。子育て支援金 国民一人当たりの負担額は?
政府が子育て支援金の試算を発表しました。主要ポイントは以下のとおりです。項目 | 詳細 |
負担額 | 国民1人当たりの平均負担額は、月450円程度。2028年度に満額になる予定です。 |
財源 | 2028年度の少子化対策財源3.6兆円のうち、1兆円が支援金として個人と企業から公的医療保険料に上乗せして集められます。 |
負担の仕組み | 実際の負担額は所得に連動し、加入する医療保険の種類によって異なります。医療保険料の5%程度になる見込みです。 |
使い道 | 支援金は児童手当の所得制限撤廃、高校生までの支給延長、保育所利用制度の拡大、妊娠・出産時給付など、子育て支援のために使用されます。 |
給付の増加 | これらの政策により、こども1人あたり高校卒業までの合計で約146万円分が新たに給付される見込みです。 |
具体的な負担額 (2028年度時点の試算) | 被保険者1人あたり: 月700円(中小企業)、月850円(大企業)、月950円(公務員)程度。国民健康保険: 世帯あたり平均で月600円程度。後期高齢者: 1人あたり月350円程度。 |
まとめ
少子化対策は、今後6~7年がラストチャンスとされ、待ったなしの課題です。根本的に、妊娠・出産・子育ては個人の自由な意思に基づくものであり、多様な価値観や考え方を尊重することが大前提です。その上で、若い世代が将来に希望を持てるような社会を作らなければなりません。
「異次元の少子化対策」では、これらの課題を迅速に解決するため、従来とは異なる政策が盛り込まれた「加速化プラン」を設けています。この政策により、若い世代や子どもたちが、どのような環境や家庭状況にあっても、分け隔てなく暮らせる社会の実現が望まれます。
参考:「こども未来戦略方針」案