長引く物価高の影響が続く中、小売業界では人材不足や新しい生活様式への対応が求められ、省力化や業務の効率化が課題となっています。こうした状況を受け、省力化製品やデジタルツールの導入が注目されており、これにより業務のミス削減や顧客対応の改善も期待されています。
設備導入には国や自治体による支援制度が設けられており、活用することで費用負担を軽減することが可能です。今回は、小売業者が生産性向上や業務効率化を目的とした設備導入に活用できる補助金についてまとめました。
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この記事の目次
小売業で業務効率化が重要視される背景
近年、日本では人手不足が大きな課題となっています。2024年12月の雇用人員予測(雇用人員判断D.I.)では、人手不足が続く見込みです。独立行政法人・労働政策研究・研修機構の調査によると、雇用の見通しは、大企業がマイナス30%、中堅企業がマイナス39%、中小企業がマイナス43%となっており、マイナス値が大きいほど人手不足が深刻な状態を示しています。
また、総務省統計局の労働力調査によると、2024年9月時点での卸売業・小売業の就業者数は1,048万人となり、前年同月比で0.2%減少しました。
人手が足りなくなれば、現場の従業員一人あたりの業務負担は増加します。そのため現場では、人材確保と並行して、業務効率の向上やサービスの質を上げるための設備投資が求められています。
業務効率化を目指す小売業向け補助金とは
業務効率化を目指す取組には、国や自治体でさまざまな支援策が設けられています。本記事では、特に国が力を入れている「中小企業省力化投資補助金」のほか、各自治体が設置する支援策もあわせて見ていきます。
中小企業省力化投資補助金
中小企業省力化投資補助金は、人手不足に悩む中小企業等に対して、IoT、ロボット等の人手不足解消に効果がある製品の導入を補助する制度です。簡易で即効性がある省力化投資を促進し、中小企業等の付加価値額や生産性向上を図るとともに、賃上げにつなげることを目的とします。
出典:中小企業省力化投資補助金 チラシ
対象となるのは、事前にカタログに掲載された製品です。すでに有用性が確認された製品が一覧にまとめられているので、初めての設備導入も安心して行えます。また、導入を支援する「販売事業者」が申請や手続きをサポートすることも、大きな特徴のひとつです。小売業の場合、自動精算機や清掃ロボットなどが対象になっています。
補助上限額は、企業の従業員数ごとに異なります。補助率は1/2、補助上限額は最大で1,000万円です。賃上げ要件を満たした場合は、1,500万円となります。
なお、2024年8月9日(金)より、応募・交付申請は随時受付に変更になりました。
静岡県掛川市新たなビジネススタイル整備支援事業費補助金
市内において、新たなビジネススタイルを導入する事業者を支援します。支援の内容は、以下のとおりです。
①デジタルシフト・DX推進 |
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ECサイトの開設、動画作成など情報発信力の強化のほか、インターネット回線の整備・改修、業務のペーパーレス化などが対象です。 業者への委託費用やハードウェア、ソフトウェア等の購入費用などの費用を補助します。 |
②キャッシュレス・インボイス |
キャッシュレス決済の整備やPOSレジ等の導入、インボイス制度への対応、会計ソフトの導入などが対象です。 設備の導入費用や備品等の購入費用などを補助します。ただし、消費税やリース料、消耗品などは対象外です。 |
【対象者】
対象となるのは、以下の事業者です。
- 市内に事務所等を有し、補助金交付後も事業を3年以上継続する小規模企業者であること
- 暴力団等と関わりが無いこと
- 市税に滞納がないこと
市内で事業を行う、小規模事業者が対象です。なお、風俗営業者等は対象外となります。
【対象事業】
「新しい生活様式」と「働き方改革」の環境整備に要する事業が対象です。デジタル設備の導入や、キャッシュレス・インボイスに対応する取組が該当します。
ただし、交付決定日以降に着手したものに限ります。
【補助率・上限額】
補助率は1/2、補助上限額は10万円です。
【申請の流れ・申請期限】
必要な書類等を、受付窓口または郵送にて提出してください。申請期限は、令和6年12月27日(金)までです。ただし、予算の上限に達した場合は申請受付を終了します。
参考:静岡県掛川市新たなビジネススタイル整備支援事業費補助金
栃木県宇都宮市ICT利活用促進助成制度
市内の卸・小売業やサービス業および製造業の小規模事業者が、業務の効率化や売上アップを図るためにICT(ソフトウェア、サービス等)を導入する取組を支援します。
対象業種 |
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宇都宮市内の卸・小売・サービス業および製造業を営み、以下に該当する小規模事業者が対象です。 卸売業・小売業・サービス業(宿泊業・娯楽業以外)は、常用雇用する従業員が5人以下、製造業・サービス業のうち宿泊業・娯楽業は、常用雇用する従業員が20人以下の企業が該当します。 |
対象経費 |
ICTツールの導入経費が対象です。具体的には、以下のような取組が該当します。 ■卸売業・小売業等における「在庫管理システム」の導入 ■製造業等における「販売管理、監視システム」の導入 ■小売業・飲食サービス業等における「ホームページ」の開設 ■宿泊業・飲食サービス業等における「予約管理システム」の導入 など ICTの導入により、業務の効率化や売上アップが見込まれる取組です。 |
【補助率・補助額】
補助率は1/3、上限額は30万円です。1社につき、年度に1件まで申請できます。
【申請の流れ・申請期限】
申請書類を、市役所商工振興課窓口まで持参してください。申請期間は令和6年4月1日から令和7年1月末日です。なお、予算がなくなり次第受付終了となります。
長野市飲食・小売業等業務改善支援事業補助金
「飲食業」「小売業」「サービス業」に関わる事業者を対象に、サービスや生産性の維持・向上、事業の継続を図るために実施する設備導入を補助します。
省力化に係る機械装置、ソフトウェア、キャッシュレス決済の導入が対象です。
【対象者】
市内で経営または運営を行う店舗・事業所等が対象です。個人事業主、中小企業のほか、会社法人やNPO法人、社団法人、組合等も対象となります。
【支援内容】
①省力化支援に係る事業 |
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業務用機器やソフトウェアを導入することにより、サービスや生産性の維持・向上、事業の継続につながるものが対象です。 ・補助率:2/3 ・上限額:50万円 |
②キャッシュレス決済に係る事業 |
クレジットカード、電子マネースマートフォン決済等のキャッシュレス設備を導入するものが対象です。 ・補助率:4/5 ・上限額:10万円 |
リースに係る費用や既存に設置してある機器の買い替えは対象外です。
ただし、すでに何らかのキャッシュレス決済を導入していて、新たに別のキャッシュレス決済を追加で導入する場合は補助の対象になります。
【申請の流れ・申請期限】
申請は、窓口または郵送で行います。申請期限は令和6年11月29日(金曜日)までです。
中小企業生産性革命推進事業
令和6年10月30日「新しい資本主義実現会議」でまとめられた重点施策によると「中小企業生産性革命推進事業」(ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)、事業承継・引継ぎ補助金)については更なる拡充がある見通しです。
これらの制度は現在、公募が行われていませんが、今後、実施される見込みですので、こまめに情報を確認しておきましょう。
ここでは、小売業向けで業務効率化をサポートする補助金として、IT導入補助金と小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)の概要を見ていきましょう。
IT導入補助金
経営課題を解決するためのITツール導入を支援するための補助金です。以下の5つの枠が設定されています。
①通常枠 |
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事業のデジタル化を目的としたソフトウェアやシステムの導入を支援します。 ・補助率:1/2 ・補助額:最大450万円 |
②インボイス枠(インボイス対応類型) |
インボイス制度に対応した会計・受発注・決済ソフト、PC・ハードウェア等の導入を支援します。 ・補助率:3/4 など ・補助額:最大350万円(ハードウェアでレジ・券売機等の場合は最大20万円) |
③インボイス枠(電子取引類型) |
インボイス制度に対応した受発注システムを、商流単位で導入する企業を支援します。 ・補助率:2/3 など ・補助額:最大350万円 |
④セキュリティ対策推進枠 |
サイバーインシデントに関するリスク低減策を支援します。 ・補助率:1/2 ・補助額:最大100万円 |
⑤複数社連携IT導入枠 |
「サプライチェーン」や「商業集積地」に属する複数の中小企業・小規模事業者が連携してITツールを導入し、生産性の向上を図る取組を支援します。 ・補助率:4/5 など ・補助額:基盤導入経費と消費動向分析経費の合計額は最大3,000万円、参画事業者のとりまとめに係る事務費等その他の経費は最大200万円 |
▼IT導入補助金の詳細はこちら
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者が直面する制度変更等に対応するための取組を補助します。経営計画を作成し、それらに基づいて行う販路開拓や業務効率化の取組が対象です。
申請枠 |
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「通常枠」「賃金引上げ枠」「卒業枠」「後継者支援枠」「創業枠」の5つの枠があります。 ・補助率:2/3 ・補助額:最大200万円(インボイス特例の要件を満たしている場合は、50万円の上乗せがあります。) |
▼持続化補助金の詳細はこちら
補助金を活用した業務効率化の例
ここまで見てきた補助金を活用すると、どのように業務の向上が図れるのでしょうか。活用例を紹介します。
①人材不足に悩むスーパーの場合 | |
導入設備 | ・自動発注システムと連動した在庫管理システム ・セルフレジ |
成果 | 在庫管理やレジ業務の負担が軽減した。また、在庫管理業務が自動化されたことで、発注ミスも減少。 |
②オンライン商品と店舗の在庫管理を両立したい雑貨店の場合 | |
導入設備 | ・ECサイト開設 ・在庫管理システムの連携 |
成果 | 店舗とオンラインの在庫を一元管理することで、商品管理の手間が大幅に削減された。 |
③決済手段の多様化への対応を目指す文具店の場合 | |
導入設備 | キャッシュレス決済システム |
成果 | 現金取り扱いの手間が減少し、レジ締めの時間も短縮された。 |
各種補助金は、事業規模や課題に応じて柔軟に活用できます。自社の課題や状況に合わせて、最適な支援制度を選択しましょう。
まとめ
深刻な人手不足が続く中、業務効率化は避けては通れない課題です。設備投資の費用を補助するため、国や自治体は、さまざまな補助金制度を実施しています。
特に業務のデジタル化やキャッシュレス決済の導入には、社会的なニーズも高まっています。自社の課題や経営規模に合わせて最適な制度を選択し、積極的に活用することで、人手不足時代を乗り切るための体制づくりを進めていきましょう。