国の制度変更への対応や人手不足解消に向けて、企業の規模を問わず、DX化による業務効率の向上が急務となっています。しかし新たな技術の導入は、費用的な負担も大きいものです。IT導入補助金では労働性向上に資するソフトウェアの導入のほか、一部のハードウェアも補助の対象となります。
今回は、設備導入時の費用的負担が特に大きい個人事業主が、「パソコンを導入したい」と思ったときにIT導入補助金をどう活用すれば良いのか見ていきましょう。
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この記事の目次
IT導入補助金とは
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等の補助金申請者が、IT導入補助金事務局に登録された「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組んで申請する制度です。申請者はIT導入支援事業者のアドバイスを受け、事前に登録されたITツールの中から必要なものを選んで利用します。(複数社連携IT導入枠を除く)
IT導入補助金の概要や対象者について、まとめました。
IT導入補助金の目的
働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイスの導入等、中小企業者を取り巻く制度変更は今後数年続きます。IT導入補助金はこうした変化に対応するため、企業のDX化を推進し、生産性向上を図ることを目的としています。
IT導入補助金の概要
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けた ITツールの導入を支援する補助金です。対象となるITツールには、ソフトウェア、サービス等のほか、パソコンなどのハードウェアやクラウドサービス利用料、相談対応のサポート費用等も含まれます。
事業の全体像は、以下の図も参照してください。
出典:IT導入補助金
IT導入支援事業者とは
IT導入支援事業者とは、申請者のパートナーとして、中小企業・小規模事業者等に対するITツールの説明や導入、運用方法の相談等のほか、補助金の交付申請や実績報告等の事務局に提出する各種申請・手続きのサポートを行う事業者です。
新たに登録する場合は事務局に登録申請を行い、事務局および外部審査委員会による審査の結果、採択される必要があります。
IT導入補助金の対象者
IT導入補助金の対象となる事業者には、商工会・都道府県連合、財団法人、特定非営利活動法人を含む中小企業等のほか、小規模事業者である個人事業主も含まれます。
IT導入補助金の類型と補助額
2024年2月中旬頃から申請受付開始となるIT導入補助金2024は「通常枠」「複数社連携IT導入枠」「インボイス枠」「セキュリティ対策推進枠」の4つがあり、さらにインボイス枠はインボイス制度を支えるため「インボイス対応類型」と「電子取引類型」の2つに分かれています。ポイントは、小規模事業者のITツール導入に力を入れるため、インボイス対応類型において、小規模事業者に対して高い補助率が設定されている点があげられます。
ハードウェアとしてパソコンが補助の対象になるのは、このうち「インボイス枠(インボイス対応類型)」と「複数社連携IT導入枠」の2つです。
枠・類型ごとに補助率や補助金額も異なります。それぞれの類型の対象ツールと補助額をまとめました。
通常枠
業務のデジタル化を目的としたソフトウェアやシステムの導入が対象です。
補助額 | 補助率 | |
ITツールの業務領域が1〜3まで | 5万円~150万円 | 1/2 |
ITツールの業務領域が4つ以上 | 150万円~450万円 | 1/2 |
セキュリティ対策推進枠
サイバーインシデントを防止するセキュリティ対策強化を支援します。
補助額 | 補助率 |
5万円~100万円 | サービス利用料の1/2 |
インボイス枠
1.インボイス対応類型
会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフトの導入が対象です。(ECは対象外)また、ソフトウェアの使用に資するハードウェアも対象となります。導入するツールが会計・受発注・決済の機能を2つ以上持つ場合に補助額350万円までの申請が可能です。1機能の場合は補助額50万円以下の申請ができます。
【インボイス対応類型】 | 補助上限額 | 補助率 |
ITツール | 350万円 | 3/4 ※小規模事業者は4/5 (50万円を超える分は2/3) |
パソコン、タブレット (ハードウェア) | 10万円 | 1/2 |
レジ、券売機 (ハードウェア) | 20万円 | 1/2 |
2.電子取引類型
受注者に対して、インボイス制度に対応するためのITツールを無償で利用させる場合に補助されます。
補助額 | 補助率 |
350万円 | ・中小企業、小規模事業者等が申請する場合:2/3 ・大企業等の事業者等が申請する場合:1/2 |
複数社連携IT導入枠の概要
複数社へのITツール導入支援としてソフトウェア購入費や、最大2年分のクラウド利用費、導入関連費が補助の対象です。事業に参加する中⼩企業・⼩規模事業者等は「10者以上」であることが要件のひとつとなっています。
主となる補助額は、インボイス枠インボイス対応類型の対象経費と同様ですが、それ以外の経費や外部専門家への謝金等も補助されます。
①インボイス対応類型の対象経費 | 補助上限額 | 補助率 |
ITツール | インボイス対応類型の上限額と同様 ・50万円以下×グループ構成員数 ・50万円超~350万円以下×グループ構成員数 |
インボイス対応類型の補助率と同様 3/4、4/5 (50万円を超える分は2/3) |
パソコン、タブレット (ハードウェア) | 10万円×グループ構成員数 | 1/2 |
レジ、券売機 (ハードウェア) | 20万円×グループ構成員数 | 1/2 |
補助上限額 | 補助率 | |
②上記以外の経費:消費動向等分析経費 | 経費 (上限50万円) ×グループ構成員数 ただし、①+②の上限は3,000万円 |
2/3 |
補助上限額 | 補助率 | |
③その他の経費:事務費、専門家費 | 以下のうち、小さいほう ・(①+②)×10%の2/3 ・200万円 |
2/3 |
IT導入補助金でパソコンは購入できる?
今回はパソコンを購入する際に対象となる「インボイス対応類型」と「複数社連携IT導入枠」のうち、個人事業主が単独で申請できる「インボイス対応類型」について見ていきましょう。
※IT導入補助金2024では、IT導入補助金2023のデジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入型)がインボイス枠(インボイス対応類型)へと変更されます。新たなインボイス対応類型ではデジタル化基盤導入型の時と変わらず、会計・受発注・決済ソフトやPC、タブレット、レジ、券売機などのハードウェア導入費用も支援の対象となりますが、ECサイト制作機能を有するソフトウェアは対象外になっています。
IT導入補助金の活用で個人事業主がパソコンを購入するには
インボイス対応類型では、パソコンを単体で購入することはできません。ソフトウェアを導入し、その利用に必要な場合のみ、補助経費として認められます。
インボイス対応類型でパソコンを購入する手順について、まとめました。
①ソフトウェアを選定する
対象となるソフトウェアは、ITツールとして登録されているものです。IT導入支援事業者のアドバイスを受けながら、適したツールを選びましょう。サブスクリプション販売形式の場合は、最大2年間の費用が対象です。
②ハードウェアを選定する
ソフトウェアの導入とあわせて、パソコン等のハードウェアを購入します。対象となるのは、以下のものです。
- パソコン
- タブレット
- プリンター
- スキャナー
- 複合機
そのほか、POSレジや券売機も補助の対象です。
IT導入補助金で対象となるパソコンの種類
補助の対象となるパソコンは、ITツールの要件を満たしているものでなければなりません。
パソコンの購入に関連するITツールの主な要件は、以下のとおりです。
要件 |
①会計・受発注・決済の機能を1種類以上含むソフトウェアと併せて導入する |
②ソフトウェアを継続的に利用するにあたり、最低限必要な機器である |
③パソコン等の購入は、ソフトウェアの購入先として選定したIT導入支援事業者からの購入に限る |
④経済合理性がある価格で、市場価格を逸脱していない |
なお、以下のものは補助の対象外です。
■顧客が実質負担する費用が、ITツール代金に含まれるもの
■交付申請時、ITツールの利用料が定められないもの
■対外的に無料で提供されているもの
■リース・レンタル契約のもの
■中古品
■交付決定前に購入したもの
■その他、中小企業庁および中小機構並びに事務局が適切でないと判断するもの
IT導入補助金でパソコン購入費用を申請する手順
申請の流れは、以下のとおりです。
①交付申請・審査
②交付決定
③ITツール導入・運用
④事業実績報告
⑤補助金交付
⑥事業実施効果報告
申請に必要な準備や書類について、お伝えします。
事前準備
IT導入補助金申請には、事前に準備しておかなくてはならない手続きがあります。
それぞれの内容と手順を確認しましょう。
gBizIDプライムアカウントの取得
IT導入補助金の申請には、gBizIDプライムのアカウント取得が必要です。未取得の場合は、事前に手続きを行いましょう。アカウントIDの発行までは2週間程度かかりますので、早めに準備を始めてください。
SECURITY ACTIONを宣言する
交付申請の要件には、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する「SECURITY ACTION」の宣言が含まれています。これは中小企業・小規模事業者等自らが、情報セキュリティ対策に取組むことを自己宣言する制度で、「★一つ星」または「★★二つ星」の宣言が必要です。
みらデジ経営チェックの実施(加点項目)
「みらデジ」は中小企業庁が実施する、デジタル化による経営課題解決のサポート制度です。IT導入補助金2024の申請では、通常枠のみ、みらデジ経営チェックが必須となり、その他の枠では加点のひとつとなります。
「みらデジ」ポータルサイト内にgBizIDで登録し、「経営チェック」を実施してください。
「IT導入支援事業者の選定」と「ITツールの選択」
登録されたIT導入支援事業者の中から、パートナーとして共に事業に取り組む支援者を選定します。その後、IT導入支援事業者とともに自社の業種や事業規模、経営課題に沿って、導入したいITツールを選定しましょう。
申請に必要な書類
申請に必要な書類は、類型や事業形態によって異なります。ここでは、個人事業主がデジタル化基盤導入類型の申請する際に必要な書類をお伝えします。
①運転免許証または運転経歴証明書または住民票
②直近分の所得税の納税証明書
③令和5年分(直近分)の確定申告書の控え
なお、旧姓で事業を行う個人事業主で、書類の姓名が不一致となる場合は姓名の変更がわかる書類を添付してください。
IT導入補助金でパソコン購入をする際の注意点
最後に、おさらいもかねて、注意点を確認しておきましょう。
まず、個人事業主も、IT導入補助金の対象となる事業者の要件を満たせば、IT導入補助金でパソコン購入が可能です。注意したい点は、IT導入補助金でパソコンのみの購入はできないということ。補助対象経費となるソフトウェアの導入と併せて購入する場合に限り補助の対象になります。
では、既に購入済のパソコンはどうなるでしょうか。交付決定前に購入したITツールは対象になりません。よって、パソコンの購入は交付決定後に行うことになります。
補助事業終了後は、「事業実施効果報告」として、インボイス制度への適応とITツールの継続使用を証明する書類等を効果報告期間内に提出する必要があります。効果報告を忘れずに行いましょう。
IT導入補助金は自分で申請できる?
IT導入支援事業者の選定と、ITツールの選択などは自分で行いますが、交付申請の事業計画策定や交付申請は、IT導入支援事業者との共同作成・提出という形で、サポートを受けながら進めて行く形になります。「どのようにITツールを導入したら良いか分からない」という方でも安心して申請の準備を進めることがでできるのがIT導入補助金なのです。
まとめ
経済が活発化するにつれ、DX化への迅速な対応は、企業の進退にも影響を与えています。企業規模の小さな個人事業主にとっても、いまは従来のやり方を変えるか否かの分岐点です。
パソコンや周辺機器といった機材の導入には、学び直しや業務体制の見直しに加え、予算的にも負担がかかります。IT導入補助金をはじめとした補助制度を上手に活用し、技術面・費用面での支援を受けて、適切な企業改革を目指しましょう。