物価上昇による実質所得減、原料コスト高騰による収益圧迫など日本経済を取り巻く環境は厳しさを増しています。これを受けて政府は、物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策を10月28日に閣議決定しました。
財政支出39兆円(事業規模 71.6兆円)の経済対策は、新しい資本主義のもとで行う「物価高・円安への対応」、「構造的な賃上げ」、「成長のための投資と改革」を重点分野とした総合的な対策となっています。
「電力、ガス、ガソリンの価格高騰対策」、「子育て支援の計10万円分のクーポン」などすでに報道で見聞きする支援策のほかに、国民の生活や事業活動に対してどのような支援が盛り込まれたのでしょうか。
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この記事の目次
経済対策の規模
物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策は、以下の4つを主な柱としています。
- 物価高騰・賃上げへの取組
- 円安を活かした地域の「稼ぐ力」の回復・強化
- 「新しい資本主義」の加速
- 国民の安全・安心の確保
それぞれの財政支出と事業規模をまとめると次のようになります。(※今後の備え(ウクライナ情勢経済緊急対応予備費等)を含む)
対策分野 | 財政支出 | 事業規模 |
物価高騰・賃上げへの取組 | 12.2兆円 | 37.5兆円 |
円安を活かした地域の「稼ぐ力」の回復・強化 | 4.8兆円 | 8.9兆円 |
「新しい資本主義」の加速 | 6.7兆円 | 9.8兆円 |
国民の安全・安心の確保 | 10.6兆円 | 10.7兆円 |
今後への備え | 4.7兆円 | 4.7兆円 |
ここから物価高騰・賃上げへの取組の分野の規模が大きいことがわかります。
今回の経済対策で、各分野にどのような内容が盛り込まれているのでしょうか?ひとつずつ確認していきましょう。
1.物価高騰・賃上げへの取組
エネルギー・食料品に重点を置いた効果的な対策、特に来年春以降の電気料金の上昇によって影響を受ける家計や価格転嫁の困難な企業の負担を軽減する対策等を行います。また、中小企業向け補助金において賃上げのインセンティブを一段と強化するなどの手段を活用して、賃上げを促進していくとしています。
【エネルギー・食料品等の価格高騰により厳しい状況にある生活者・事業者への支援】
◆電力料金の激変緩和事業
◆都市ガス料金の激変緩和事業
◆燃料油価格の高騰の激変緩和事業
◆食品ロス削減、フードバンク・こども宅食に対する支援 等
【エネルギー・食料品等の危機に強い経済構造への転換】
◆LNGの安定供給確保に向けた取組
◆工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT事業)
◆省エネ設備更新の補助金の強化、省エネ診断の拡充
◆需要家主導型太陽光発電及び再生可能エネルギー電源併設型蓄電池導入支援事業
◆再エネ導入拡大に資する分散型エネルギーリソース導入支援
◆地域の脱炭素化・再エネ導入の推進
◆既存住宅の断熱リフォーム等加速化事業
◆住宅の断熱性能向上のための先進的設備導入促進事業等
◆業用自動車における電動車の集中的導入支援
◆物価上昇下における省エネ住宅ストック形成に関する新たな支援制度 等
【継続的な賃上げの促進・中小企業支援】
◆中小企業等事業再構築促進事業
◆中小企業生産性革命推進事業
◆業務改善助成金の拡充(事業場内最低賃金引上げのための助成)
◆働き方改革推進支援助成金の拡充(「賃上げ加算」の増額) 等
2.円安を活かした地域の「稼ぐ力」の回復・強化
観光産業の高付加価値化を通じてインバウンド需要を復活させ、国内観光やイベント需要の喚起によって地域経済の活性化を図ります。また、半導体や蓄電池などの戦略物資のサプライチェーン再構築や企業の国内回帰など、国内での「攻めの投資」に対する支援を行います。
【コロナ禍からの需要回復、地域活性化】
◆インバウンドの本格的な回復に向けた集中的な取組等
◆訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業
◆外食産業事業継続緊急支援対策
◆生活衛生関係営業者の経営改善に向けた支援、専門家による相談支援、デジタル化推進
◆統括団体による文化芸術需要回復・地域活性化事業(アートキャラバン2) 等
【円安を活かした経済構造の強靱化】
◆円安メリットを活かしたサプライチェーン強靱化支援
◆先端半導体の国内生産拠点の確保
◆(円安は、これまで輸出に積極的ではなかった中小企業等が輸出を開始し、海外市場を開拓していく契機となり得ることから)新規輸出中小企業1万者支援プログラム 等
3.「新しい資本主義」の加速
構造的賃上げと成長力の強化を図るため、リスキリング(学び直し)と成長分野への投資を推進します。そのため、人への投資の支援パッケージを5年間で1兆円に拡充し、スキルアップと成長分野への労働移動を同時に進めていく考えです。また、成長分野における投資としては、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX、DXにおいて、官の投資を加速し、更なる民間投資の拡大を図っていくとしています。そのほか、社会課題の解決に向けて、こども・子育て世代への支援の拡充、女性活躍、孤独・孤立対策など包摂社会の実現に向けた取組を進めていきます。
【「人への投資」の抜本強化と成長分野への労働移動:構造的賃上げに向けた一体改革】
◆労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)及び中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)の見直し
◆特定求職者雇用開発助成金(成長分野人材確保・育成コース)の拡充
◆人材開発支援助成金の「人への投資促進コース」の拡充(助成率の引上げ)及び「事業展開等リスキリング支援コース(仮称)」の創設
◆産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)(仮称)の創設
◆雇用調整助成金の特例措置等の段階的な縮減 等
【成長分野における大胆な投資の促進】
◆スタートアップの起業加速
◆クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進
◆省エネルギー設備への更新を促進するための補助金の強化
◆国土交通分野のDXの推進(インフラ、交通、物流、スマートシティ、道路、建築・都市、船舶、海洋産業、港湾)
【包摂社会の実現】
◆出産・育児等における伴走型相談支援の充実
◆同一労働同一賃金の徹底
4.防災・減災、国土強靱化の推進、外交・安全保障環境の変化への対応など、国民の安全・安心の確保
ウィズコロナの下、平時に近い社会経済活動が可能となるよう、医療提供体制の強化や治療薬の開発・実用化など感染症対応の強化を図ります。また、自然災害、インフラの老朽化等から国民を守るための「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に基づく取組や、外交・安全保障環境の変化に対応した取組等を進めていきます。
【ウィズコロナ下での感染症対応の強化】
◆新型コロナウイルス感染症対策事業
◆新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金・支援金
◆新型コロナワクチンの接種体制の確保 等
【防災・減災、国土強靱化の推進】
◆気候変動を見据えた府省庁・官民連携による「流域治水」の推進
◆住宅・建築物、学校施設、医療施設、社会福祉施設、矯正施設・更生保護施設、公共施設等の耐災害性の強化 等
【自然災害からの復旧・復興の加速】
◆ALPS処理水の海洋放出に伴う影響を乗り越えるための漁業者支援
◆水道施設、医療施設、社会福祉施設等の災害復旧 等
【外交・安全保障環境の変化への対応】
◆官邸の危機管理機能の強化(Jアラート関連を含む) 等
【国民の安全・安心の確保】
◆子どもの安全安心対策(送迎用バスの改修・見守り・登降園管理システム・安全管理マニュアルの研修に対する支援) 等
まとめ
現在日本では、日常生活に直結するエネルギー・食料品等の価格上昇を受けた実質所得の低下や消費者マインドの低下による消費への影響や、企業収益の更なる下押しによる、設備投資への影響等が懸念されています。物価高克服・経済再生実現のための対策として閣議決定された総合経済対策の歳出規模は、当然ながら「物価高対策」が最も大きくなりました。
「賃上げ環境の整備」としては、政策的な支援を行う際に賃上げの実施を採択の条件とするなどのインセンティブをつける方針であることが示されています。また、「人への投資」として、デジタル分野等の新たなスキルの獲得と成長分野への円滑な労働移動を同時に進めるために、3年間に4,000億円規模で実施している人への投資の施策パッケージを5年間で1兆円へ拡充するとし、リスキリング支援の拡充などを行う予定です。
政府は、今後裏付けとなる2022年度第2次補正予算案を編成し、年内の成立を目指す考えを示しています。
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