農水省の令和7年度予算概算要求が公表されました。今回の要求では公共事業費が18.1%増となるなど、前年度に比べて大きな増額となっています。
また、食の安全に関わる項目や持続可能な農業システム等、社会的課題を反映した事業も多く盛り込まれました。
今回は農水省の令和7年度概算要求の要求額やポイントをまとめました。
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この記事の目次
農林水産省 令和7年度概算要求の主な方針
令和7年度の概算要求では、食料・農業・農村基本法の改正を踏まえ、食料安全保障の強化や環境と調和のとれた食料システムの確立等が目指されました。
また、農業の持続的な発展や農村の振興等を図るため、農業の構造転換の実現に向けた施策が、初動の5年間で集中的に実行することとされています。
概算要求の主なポイントは、以下の7つです。
国内の農業生産の多様化や効率化、食料供給の安定化、食料システム全体の強靭化等を行います。
水田の有効活用や戦略作物の生産拡大、野菜や果樹などの生産基盤強化を中心に、備蓄体制の整備や輸入の安定化、種子や肥料の安定供給事業も盛り込まれました。また、効率的な物流システムの構築や、フードバンクなどを通じた食料供給の多様化にも触れられています。
さらにSNSを活用した情報発信や学校給食での地場産物活用など、国民の理解を深める取り組みも掲げられました。
令和7年3月までに地域計画が策定されることを踏まえ、現場の状況に応じた事業を総合的に実施することなどが挙げられました。地域計画を基に共同利用施設の整備や担い手支援を行い、新規就農者の育成や農地の効率的利用が促進されます。
同時にスマート農業技術の導入を加速させ、生産性向上を図る事業も複数盛り込まれました。
また、農地の大区画化や水利施設の更新などを通じて農業インフラの基盤強化を進め、収入保険や価格安定対策の充実によって農家の経営安定化を支援します。
そのほか、家畜伝染病や病害虫対策の強化で生産の安定性を高める施策も挙げられています。
官民共創や農泊・農福連携等の地域資源を活用した付加価値の創出などを通じ、農村の活性化を目指します。また、ICT等を活用したスマート鳥獣害対策の推進やシカ・クマの捕獲対策の強化など、鳥獣被害防止対策の推進とジビエ利活用の拡大が盛り込まれました。
環境負荷低減や気候変動等に対応する新品種・技術の開発や、研究成果の社会実装がすすめられます。また、環境に配慮した栽培形態への転換を目指し、関係者の理解を深める取組が掲げられました。
地域資源を保全管理するための共同活動への支援や、集落協定のネットワーク化、スマート農業による作業の省力化への加算の充実を通じた農業生産活動継続への支援が盛り込まれました。
循環利用に取り組む林業経営体への森林の集積・集約化のほか、「緑の雇用」等による担い手の育成・確保、山村地域の活性化などが挙げられました。また、花粉症対策や森林吸収源の機能強化等も推進されています。
資源調査・評価の高度化や漁業取締りの万全な実施などが盛り込まれています。また、養殖転換など新たな操業・生産体制への転換やスマート水産業の推進、人材確保・育成等に関する施策も挙げられています。
そのほか、持続可能な加工・流通システムの推進やブルーカーボンに資する藻場・干潟の保全等の多面的機能対策の実施、といった、環境問題の課題に取り組む事業も含まれます。
農林水産予算総額
農林水産予算総額は、2兆6389億円(前年比116.3%)となりました。そのうち、公共事業費が8250億円(118.1%)、非公共事業費は1兆8139億円(115.5%)と、いずれも前年度の予算額を上回っています。
また、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」にかかる事業費は、予算編成過程で検討されます。
出典:令和7年度農林水産予算概算要求の骨子
農林水産省 令和7年度概算要求の主要項目とは※9月12日更新
概算要求に盛り込まれた事業について、もう少し詳しく見ていきましょう。テーマごとの主な事業と予算額は、以下のとおりです。なお、()内は令和6年度当初予算額です。
①食料安全保障の強化 |
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■水田活用の直接支払交付金等 3,015億円(3015億円) 水田で麦や大豆、米粉用の米といった多様な作物を育てるだけでなく、畑作への転換も支援し、収益性の高い農業を目指します。また、地域の特色を活かした産地づくりや、新市場開拓に向けた米等の低コスト生産の取組を支援します。 ■米粉の利用拡大支援対策事業 9,800万円 米を原料とした米粉の利用拡大に向け、消費・流通・生産それぞれの段階における取組を集中的に支援します。 ■強い農業づくり総合支援交付金 202億円(12憶5,200万円) 法改正を踏まえた新しい農業の姿を生産現場で実装するため、生産から流通に至るまでの課題解決に向けた取組を支援します。 また、強い農業づくりに必要な産地基幹施設、卸売市場施設の整備等を支援します。 ■不測時に備えた食料供給体制の構築 3億6300万円(6,300万円) 特定食料・特定資材の民間在庫の実態等に関する調査等を実施します。 ■飼料生産基盤に立脚した酪農・肉用牛産地支援 60億5,500万円 地域の酪農・肉用牛経営者等が連携し、飼料生産基盤および国産生産資材を活用して良質な飼料の生産を最大化する取組等を支援します。 ■地域の持続的な食料システム確立推進支援事業 3億1,000万円 「地域連携推進支援プラットフォーム」を創設し、地域の食に関わる産業を先導する食品企業と農林漁業者を始めとする地域の多様な関係者の連携を促進します。 また、食品企業による広域的な産地連携や製造現場の自動化、資材標準化等による業界横断的な生産性向上の取組を支援します。 |
②農業の持続的な発展 |
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■農地利用効率化等支援交付金 27億円(10億8,600万円) 地域の中核となる担い手が、経営改善に取り組む場合に必要な農業用機械・施設の導入を支援するとともに、農地引受力の向上や後継者の育成等の地域サポート活動に取り組む場合の支援を充実させます。 ■地域計画実現総合対策 482億1,200万円 地域計画の策定によって課題が見える化されることから、状況に応じた必要な取組を総合的に支援します。 ■新規就農者育成総合対策 149億円(96億円) 農業への人材確保と定着を促進するため、機械導入支援や研修資金の提供など、多角的な支援を行います。また、農業教育の高度化や就農相談会の開催を通じて、農業への理解を深め、魅力的な職業としてアピールしていきます。 ■スマート農業技術活用促進集中支援プログラム 410億300万円 スマート農業技術を活用するための環境整備や各種支援事業の優遇措置等により集中的かつ効果的に支援を行い、農業の生産性の向上を図ります。 ■スマート農業技術活用促進総合対策 69億9,000万円(12億1,200万円) ロボット、AI、IoT等の先端技術を用いた省力化・効率化を可能とするスマート農業技術の開発・供給を推進するとともに、スマート農業普及のための環境整備を行います。 ■農地耕作条件改善事業 238億5000万円(198億4,300円) 農地中間管理機構による担い手への農地集積等に向けて、耕作条件の改善、高収益作物への転換、スマート農業の導入等を、ハードとソフトを組み合わせて支援します。 |
➂農村の振興(農村の活性化) |
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■農山漁村振興交付金 103億8,800万円(83億8,900万円) 「しごと」「くらし」「活力」「土地利用」の観点から、農村振興施策を総合的に推進します。関係人口の創出・拡大を図り、地域のコミュニティの維持と農山漁村の活性化・自立化を後押しします。 ■鳥獣被害防止対策とジビエ利活用の推進 122億9,500万円(100億900万円) 鳥獣被害の防止のため、鳥獣の捕獲等の強化やジビエ利活用拡大への取組等を支援します。 また、森林における効果的・効率的なシカ捕獲の取組を実施、支援します。 |
④みどりの食料システム戦略による環境負荷低減に向けた取組強化 |
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■みどりの食料システム戦略実現技術開発・社会実装促進事業 30億5,400万円(18億400万円) 脱炭素化や環境負荷低減等のみどりの食料システム戦略の実現や、気候変動等の政策課題に対応した革新的な品種・技術・生産体系の確立に資する研究開発を推進します。 また、知財の活用を見据えた研究開発時からの戦略的な知財マネジメントの強化など研究開発環境の整備を実施します。 |
⑤多面的機能の発揮 |
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■日本型直接支払 844億5,000万円(7億7,330万円) 地域の共同活動、中山間地域等における農業生産活動、自然環境の保全に資する農業生産活動を支援します。 |
⑥カーボンニュートラルの実現・花粉症解決に向けた森林・林業・木材産業総合対策 |
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■森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策 156億600万円(143億9,800万円) カーボンニュートラルの実現に向け、川上から川下までの森林・林業・木材産業政策を総合的に推進します。 ■花粉症解決に向けた総合対策 35億1,200万円 スギ人工林の伐採・植替え等の加速化やスギ材の需要拡大、花粉の少ない苗木の生産拡大、林業の生産性向上・労働力の確保等の対策を推進します。 |
⑦水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化 |
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■漁業構造改革総合対策事業 85億円(11億300万円) 環境に配慮しつつ、漁業・養殖業を収益性の高い構造へ改革するため、多目的漁船の導入等による新たな操業・生産体制への転換等の取組を支援します。 ■スマート水産業推進事業 8億5,700万円(1億6,100万円)等 漁業・養殖業の生産性の向上のためのデータ収集・利活用、人材育成、機械導入支援を進めます。 また、太平洋クロマグロの漁獲監視の高度化を図るための監視手段等の検証や漁協等が行う流通管理・伝達の電子化・効率化等への支援に取り組みます。 |
まとめ
自然災害への対策や食の安全は、生活の根源に直結する重要な課題です。また、環境問題への配慮も、持続可能な社会の実現には欠かせません。
今回の概算要求では、こうした生活と社会を支える大きなテーマに関する事業が盛り込まれています。こうした施策は、ビジネス需要とも直結します。概算要求から時代の流れを読み取り、活用できそうな支援の予想を立てながら、来年度のビジネス展開を検討してみてください。