ものづくり補助金は「返済不要」の補助金ですが、採択後に定められた目標を達成できなかった場合や、事業の進め方にルール違反があった場合には、受け取った補助金の一部または全額の返還を求められます。
採択された事業者には補助事業終了後3〜5年の事業計画期間があり、原則として補助金額の確定後5年間にわたり合計6回の事業化状況報告が必要です。給与に関する目標は事業計画期間の最終年度、事業場内最低賃金は毎年3月時点を基準に達成状況が確認されるため、返還リスクは公募が終わったあとも数年間残ります。
本記事では、ものづくり補助金で返還義務が発生するケースを整理したうえで、採択された公募回によって異なる賃上げ要件と返還額の計算方法、会計検査院が不当と指摘した事例、返還を避けるためのチェックポイントを解説します。
なお、ものづくり補助金は、2026年度から中小企業新事業進出補助金と統合された「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の賃上げ要件」に移行しています。
本記事は、すでにものづくり補助金に採択され、事業実施中または事業計画期間中の事業者の方を対象としています。
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この記事の目次
ものづくり補助金で返還義務が発生する5つのケース
ものづくり補助金の返還は、大きく次の5つに分けられます。
| ケース | 返還の内容 |
|---|---|
| ①賃上げ要件(給与支給総額)の未達 | 事業計画最終年度に目標未達の場合、一部または全額を返還 |
| ②事業場内最低賃金要件の未達 | 未達の年度ごとに、補助金額を事業計画年数で割った額を返還 |
| ③大幅賃上げ特例の未達 | 補助上限額の上乗せ分を全額返還(回によっては未達成分の追加返還あり) |
| ④不正・虚偽・目的外使用 | 交付決定取消・全額返還に加え、加算金、事業者名の公表、悪質な場合は刑事告発 |
| ⑤補助事業者の義務違反 | 事業化状況報告の未提出、処分制限財産の無断処分、賃上げ目標の従業員への未表明などで、返還や交付決定取消 |
①〜③は「目標を達成できなかった」ことによる返還で、事業化状況報告の内容に基づいて判定されます。④⑤は「ルールを守らなかった」ことによる返還で、確定検査や事業化状況報告、会計検査院の実地検査で発覚するケースが多いです。
なお、賃上げの目標値は交付申請までに全従業員または従業員代表者へ表明する必要があり、表明していなかった場合は交付決定の取消と全額返還を求められます。
【第16次〜第23次】賃上げ要件と返還額の違い
賃上げ要件と返還額の計算方法は、公募回によって大きく3つの時期に分かれます。自社が採択された回の公募要領に基づいて判定されるため、まずは採択回を確認してください。
なお、本記事では第16次以降を対象に整理しています。第15次以前に採択された方や、第19〜22次の間の細かな差異については、必ず採択回の公募要領をご確認ください。
| 第23次(2026年5月締切・最終回) | 第19〜22次(2025年2月公募開始以降) | 第16〜18次(2024年3月締切まで) | |
|---|---|---|---|
| 給与に関する要件 | 従業員1人あたり給与支給総額を年平均3.5%以上増加(役員は除く) | 従業員・役員それぞれについて、①給与支給総額の年平均成長率2.0%以上、②1人あたり給与支給総額の年平均成長率が都道府県別最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上、の両方の目標値を設定。 最終年度に少なくとも一方を達成すれば要件達成 | 給与支給総額を年平均1.5%以上増加 |
| 事業場内最低賃金の要件 | 毎年、地域別最低賃金+30円以上 | 同左 | 同左 |
| 給与要件未達の返還額 | 補助金交付額×(1−実績の年平均成長率÷自社目標値)。 成長率がゼロまたはマイナスの場合は全額返還 | 両方の目標値が未達の場合、指標ごとに役員・従業員のうち達成度の低い方で判定したうえで、2つの指標のうち達成度の高い方の未達成率を採用し、補助金交付額×(1−実績の年平均成長率÷自社目標値)で計算。 対象となる成長率がゼロまたはマイナスの場合は全額返還 | 導入設備の簿価または時価の低い方のうち補助金額に対応する分(残存簿価等×補助金額/実際の購入金額) |
| 最低賃金要件未達の返還額 | 補助金額÷事業計画年数(未達年度ごと) | 同左 | 同左 |
| 大幅賃上げ特例の目標 | 1人あたり給与支給総額+6.0%(3.5%+2.5%)、最低賃金+50円 | 給与支給総額+6.0%(2.0%+4.0%)、最低賃金+50円 | 給与支給総額+6.0%(1.5%+4.5%)、最低賃金+50円かつ毎年+50円増額 |
| 特例未達の返還額 | 上乗せ分の全額に加え、残りの補助金額×未達成率 | 同左 | 上乗せ分を返還 |
| 収益納付 | なし | なし | あり(自己負担額を超える収益が出た場合) |
第23次:1人あたり給与支給総額3.5%に引き上げ
最終回の第23次では、給与要件が「従業員1人あたり給与支給総額 年平均3.5%以上」に一本化され、新制度(新事業進出・ものづくり商業サービス補助金)と同じ水準になりました。返還額は「補助金交付額×(1−実績の年平均成長率÷目標値)」で計算し、成長率がゼロまたはマイナスなら全額返還です。
たとえば補助金交付額1,000万円、目標3.5%に対して実績2.8%の場合、返還額は1,000万円×(1−2.8÷3.5)=200万円となります。
なお、目標値は基準値(3.5%)ではなく申請時に自社で設定した値で判定されます。基準値を超えていても、自社の目標値に届かなければ未達です。
第19〜22次:2つの目標値を設定し、未達成率方式へ
第19次で要件が大きく見直され、「給与支給総額」と「1人あたり給与支給総額」の両方について、従業員・役員それぞれの目標値を設定する仕組みに変わりました。事業計画期間の最終年度に少なくとも一方を達成すれば要件達成となります。
返還額の計算も、残存簿価ではなく「目標に対してどれだけ達成できたか」の割合で決まる未達成率方式に変わりました。両方の目標値が未達の場合は、まず指標ごとに役員・従業員のうち達成度の低い方を採り、次にその2つを比べて達成度の高い方の未達成率で返還額を計算します。たとえば目標9.0%に対して実績3.0%だった場合、達成分は1/3、未達成分の2/3が返還対象という考え方です。また、第19次以降は収益納付を求めない扱いになりました。
第16〜18次:残存簿価ベースの返還
第16〜18次では、給与支給総額の目標未達時に「導入した設備の残存簿価」を基準に返還額を計算します。返還額は、導入設備の残存簿価または時価のうち低い額を基礎として算定されるため、判定時点での減価償却の進み方などによって変わります。一方、事業場内最低賃金の未達は、計画年数で割った額を未達年度ごとに返還します。
返還が免除されるケース
要件未達でも、以下に該当する場合は返還が免除されます。ただし、免除の条件も公募回によって異なります。
第19次以降(第23次を含む)
・最低賃金要件:付加価値額が増加しておらず、かつ当該年度が営業利益赤字の場合
・いずれも:災害など事業者の責めに負わない事由がある場合
第16〜18次
・最低賃金要件:付加価値額の成長率が年平均1.5%に達しなかった場合、または天災など事業者の責めに負わない理由がある場合
大幅賃上げ特例による補助上限額の上乗せ分は、目標未達の場合、上記の免除事由にかかわらず返還が必要です。一方、上乗せ分を除く補助金については、付加価値額が増加しておらず事業計画期間の過半数が営業利益赤字である場合など、所定の免除条件が適用されることがあります。また、災害等による免除を受けたい場合は、事務局への事前相談と資料提出が必要です。
会計検査院が不当と指摘した事例
ものづくり補助金は国費を財源としているため、補助事業終了後に会計検査院の実地検査が入ることがあります。会計検査院の決算検査報告では、補助対象として適切でないと判断された事業と、不当と認める国庫補助金相当額が、事業者名とともに公表されています。ここでは実際に指摘された事例を類型別に紹介します。
①納品前に「納品済み」とした虚偽の実績報告
令和6年度決算検査報告では、納品を受けていないのに納品済みとし、実際の費用を超える事業費を記載した虚偽の実績報告書を提出していた2事業主体(補助金計約1,766万円)が指摘されました。実績報告の日付や金額の改ざんは、不正受給の中でも最も典型的なパターンです。
②導入した機械を他社に使わせていた
同じ令和6年度の報告では、導入した機械装置を専ら他社に使用させ、事業計画に記載した事業を自ら実施していなかった事業主体(補助金1,000万円)が「補助の対象とならない」と判断されました。申請者が設備を自ら事業に使用せず特定の第三者に長期間貸与する場合や、補助事業の主たる部分を他者に実施させる場合は、補助対象外または目的外使用と判断される可能性があります。
③処分制限財産の無断処分・目的外使用
取得価格50万円以上の設備などは「処分制限財産」として、耐用年数の期間中は事務局の承認なしに処分・転用できません。令和6年度の報告では、処分制限財産を無断で目的外に使用したり廃棄したりしていた2事業主体(補助金計約972万円)が指摘されています。
また令和元年度の報告では、転用承認を受けたにもかかわらず、その後に設備を補助事業と無関係な従来製品の生産に無断で使用していた事業者が目的外使用と判断され、約870万円が不当とされました。承認を受けた範囲を超えて使うことも違反になる点に注意が必要です。
④開発したシステムが未完成・目的不達
令和5年度決算検査報告では、開発したアプリの一部機能が実装されておらず、残りの機能も事業計画の目的に沿って使用できない状態だったため、補助の目的を達していないとして補助金1,000万円が不当とされました。設備投資だけでなく、システム開発型の事業でも「成果物が計画どおり完成し、使われているか」が検査の対象になります。
⑤事業完了期限を過ぎてから設備を取得
旧制度(ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金)の事例ですが、事業完了期限を過ぎてから設備を取得したにもかかわらず、期限内に完了したとする虚偽の実績報告を行い、確定検査で虚偽の納品書を示していた事業者が指摘され、約1,481万円が不当とされました。納期遅れが見込まれる場合は、日付を合わせるのではなく、事前に事務局へ計画変更を相談することが必要です。
これらの事例に共通するのは、「少しの調整なら大丈夫」という認識が交付決定取消と全額返還につながっている点です。会計検査院の指摘を受けた場合、返還に加えて事業者名が公表され、経済産業省所管の補助金の交付停止措置を受ける可能性もあります。
返還を避けるためのチェックポイント
意図せず返還要件に当てはまってしまうことを避けるため、押さえておくべきポイントを紹介します。
事業実施中
・納期遅れや仕様変更が見込まれる場合は、事前に事務局へ計画変更を申請する
・導入した設備は原則として補助事業の目的に沿って使用し、他社への貸与、売却、廃棄、補助目的以外への転用を行う場合は、事前に事務局へ確認・申請する
事業終了後〜事業計画期間中
・事業場内最低賃金は毎年3月時点で判定されるため、10月の地域別最低賃金改定を見込んだ賃金設定にする
・給与要件は最終年度で判定されるため、自社の目標値からの進捗を毎年確認する
・経理書類は交付年度終了後5年間保存する
自社の採択回を確認する
返還ルールは採択回の公募要領で判定されます。自社が何次で採択されたかを確認し、該当する回の公募要領を手元に置いておきましょう。
まとめ
ものづくり補助金の新規公募は第23次で終了しましたが、採択済みの事業者には3〜5年の事業計画期間があります。給与に関する目標は事業計画期間の最終年度、事業場内最低賃金は毎年3月時点で判定されます。返還ルールは採択回によって異なり、第19次以降は未達成率ベース、第16〜18次は残存簿価ベースで返還額が計算されます。
また、会計検査院の指摘事例が示すように、虚偽の実績報告や設備の目的外使用は、賃上げ未達よりもはるかに重い結果を招きます。自社の採択回のルールを正しく把握し、事業化状況報告と設備管理を確実に行うことが、返還リスクを避ける最も確実な方法です。
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参考:
・ものづくり補助金総合サイト 公募要領
・第23次公募要領 概要版(PDF)
・第19次公募要領 概要版(PDF)
・中小機構 会計検査院決算検査報告への対応
・会計検査院 令和5年度決算検査報告(292)
・会計検査院 令和元年度決算検査報告(143)


